『最初の一枚』【7】
ミシ……
ミシミシミシ――
観客「……おい」
実況「ちょ、ちょっと待ってください……」
二人の剣がぶつかった地点から、
亀裂が広がっていく。
やがて――
ズズズズズ……!!
闘技場全体が、
僅かに揺れ始めた。
観客「な、なんだ!?」
観客「揺れてるぞ!」
実況「これは……!」
シオン「ぐっ……!」
ギギギギギ――!!
剣と剣が、
激しく軋む。
No.A「…………」
シオン「…………!」
No.Aは、
目の前のシオンを見つめていた。
これまで、
幾人もの強者と戦ってきた。
剣豪。
騎士。
傭兵。
名を馳せた者を見つけては、
戦いを挑んだ。
だが――
終わる。
いつも、
一撃で。
No.A「…………」
それが、
自分の剣だった。
一撃に、
すべてを込める。
一撃で、
勝負を終わらせる。
それこそが――
No.Aの美学。
だが。
目の前の男は、
終わらない。
一撃。
二撃。
三撃。
そのすべてを凌ぎ――
ついには、
真正面から止めた。
No.A「……はは」
シオン「……?」
No.A「ははははは……!」
シオン「…………」
No.Aが、
心の底から笑っていた。
No.A「いいな」
剣を押し込みながら、
笑う。
No.A「お前――」
No.A「いいぞ」
シオン「……!」
次の瞬間。
No.Aが、
剣を引いた。
シオン「――!」
解放された力に、
シオンの身体が僅かに前へ傾く。
その一瞬。
No.A「――次だ」
ゾクッ。
シオン「――!!」
世界が、
歪む。
また見えた。
一瞬先。
No.Aが、
剣を振るう。
だが――
シオン「…………!?」
今までとは違う。
剣が、
届いていない。
No.Aは、
遥か前方にいる。
なのに――
次の瞬間。
未来の自分の身体が、
斜めに斬り裂かれた。
シオン(――何だ!?)
現実。
No.Aが、
その場で剣を振り抜く。
シオン「――!!」
咄嗟に、
地面を蹴った。
ズバァァァァァン!!!
シオン「ぐっ!!」
シオンの背後。
闘技場の石壁に――
巨大な斬痕が走った。
観客「…………」
実況「…………」
シオン「…………!」
離れている。
剣は、
届いていない。
それなのに――
斬撃だけが、
ここまで飛んできた。
実況「…………え?」
観客「い、今……」
観客「剣……届いてなかったよな……?」
No.A「…………」
再び、
剣を構える。
シオン「…………!」
来る。
世界が歪む。
未来が見える。
一つ。
二つ。
三つ――
シオン「――!?」
違う。
今までとは、
数が違う。
右。
左。
正面。
次々と、
斬り裂かれていく自分。
シオン(多すぎる……!)
No.A「――ッ!!」
剣が、
振るわれる。
ズバッ!!
ズバァン!!
ズガァァァン!!!
無数の斬撃が、
闘技場を駆け巡る。
シオン「くっ……!!」
一つを避ける。
二つ目を、
剣で弾く。
三つ目――
シオン「ぐっ!」
肩を斬られる。
それでも、
走る。
止まれば終わる。
未来が見える。
その未来を、
一つずつ外していく。
だが――
シオン(追いつかない……!!)
見る。
避ける。
また見る。
避ける。
その間にも、
No.Aの一撃は、
さらに鋭くなっていく。
実況「シ、シオン選手!!」
実況「避ける!!」
実況「避ける!!」
実況「また避けるゥゥゥ!!」
実況「しかしA選手の攻撃が――」
ズガァァァン!!!
実況「ひぃっ!?」
実況席のすぐ横。
巨大な斬撃が、
壁を切り裂いた。
実況「…………」
係員「…………」
実況「……今の、俺死んでない?」
係員「だから逃げろと言ってるんだ!!」
その時――
ズズズズズ……!!
観客席の一部が、
大きく揺れた。
ミシッ――
巨大な亀裂が、
壁を伝っていく。
係員「――まずい!」
実況「……!」
係員「試合中止!!」
観客「――!?」
係員「全員避難しろォォォ!!」
観客席が、
一気に騒然となる。
観客「逃げろ!!」
観客「出口はどこだ!?」
係員「押すな!! 順番に出ろ!!」
観客「うわぁぁぁ!!」
人々が、
一斉に出口へ向かう。
だが――
シオン「――ッ!!」
No.A「ははっ!!」
二人は、
止まらない。
ズバァァン!!
ガキィィィン!!
ズガァァァァン!!!
斬撃と剣撃が、
崩れ始めた闘技場に響き続ける。
実況「か、観客の皆様!!」
実況「慌てず!!」
実況「速やかに避難してください!!」
係員「お前もだ!!」
実況「待て!!」
実況は、
二人を見る。
実況「まだ……」
シオン「――ッ!!」
No.A「もっとだ!!」
実況「まだ戦っている!!」
係員「見れば分かる!!」
実況「俺は実況だぞ!!」
係員「だから何だ!!」
実況「最後までこの戦いを伝えるのが――」
ズバァァァァン!!!
実況「…………」
係員「…………」
実況席の、
すぐ後ろ。
巨大な壁が――
斜めにずれた。
実況「…………」
ズズ……
ズズズズズ――
ドゴォォォォォン!!!
実況「…………」
係員「…………」
実況は、
静かに立ち上がった。
実況「撤収ゥゥゥゥゥ!!!」
係員「最初からそうしろォォォ!!」
二人も、
全力で出口へ走っていく。
実況「両選手の健闘を祈るゥゥゥ!!」
係員「いいから走れ!!」
やがて――
人々の声が、
遠ざかっていく。
歓声も。
実況も。
悲鳴も。
何も、
聞こえなくなった。
崩れかけた、
巨大闘技場。
風が、
砂埃を運んでいく。
シオン「はぁ……」
シオン「はぁ……」
全身に、
いくつもの傷。
血が、
地面へ落ちる。
No.A「…………」
その向こう。
No.Aが、
静かに立っている。
先ほどまでとは、
空気が違った。
観客はいない。
実況もいない。
大会も、
もう終わっている。
それでも――
二人は、
剣を握っている。
No.A「…………」
辺りを見渡す。
崩れた観客席。
割れた石床。
誰もいない。
そして――
No.Aは、
楽しそうに笑った。
No.A「……いいな」
シオン「…………」
No.A「これで――」
剣を、
ゆっくりと構える。
No.A「誰にも邪魔されない」
シオン「…………」
シオンも、
剣を構え直す。
シオン「最初から――」
No.A「?」
シオン「俺には、お前しか見えてない」
No.A「…………」
一瞬の沈黙。
そして――
No.A「……ははっ」
No.Aの笑みが、
さらに深くなる。
No.A「やっぱり――」
No.A「お前、最高だな」
歓声は、
もうない。
ルールもない。
止める者もいない。
崩れゆく闘技場に残ったのは――
復讐のために剣を握る者と、
ただ強者を求め、
剣を振るい続けてきた者。
二人だけ。
No.A「――続けようか」
シオン「ああ」
静寂の中――
二人は、
同時に地面を蹴った。




