『最初の一枚』【8】
崩れゆく闘技場。
歓声はもうない。
実況も、
観客もいない。
残されたのは――
シオンとNo.A。
二人だけ。
No.A「――続けようか」
シオン「ああ」
静寂の中――
二人は、
同時に地面を蹴った。
ガキィィィン!!
剣と剣が、
激しくぶつかる。
No.A「――ッ!」
シオン「ぐっ……!」
弾かれる。
だがシオンは、
すぐさま踏み込み直す。
シオン「一つ聞かせろ!」
No.A「……?」
ガキン!!
シオンの剣を、
No.Aが受け流す。
シオン「お前は昨日――」
シオン「この街へ来るまでにも、何人もの剣士と戦ったそうだな!」
No.A「ああ」
シオン「だが、誰も殺していない」
No.A「…………」
シオン「なぜだ!!」
No.A「なぜって――」
No.Aは、
シオンの剣を弾き飛ばす。
シオン「――ッ!」
No.A「殺す必要がないからだ」
シオン「……何?」
No.A「俺が欲しいのは命じゃない」
一歩。
No.Aが踏み込む。
シオンの視界が歪む。
――見える。
シオン「――!」
身体を反らす。
ズバァァン!!
斬撃が、
背後の石柱を斬り裂く。
No.A「強い奴と戦う」
No.A「そいつが何を積み重ね、どこまで剣を磨いたのか――」
再び、
剣を構える。
No.A「全部、この一撃にぶつけてもらう」
シオン「…………」
No.A「そして――」
地面を蹴る。
No.A「それを超える!」
ガキィィィン!!
シオン「ぐっ!!」
No.A「それを繰り返す!」
ガキン!!
No.A「もっと強い奴を探す!」
ガキィィィン!!
No.A「もっと強い剣を知る!」
シオン「――ッ!!」
No.A「そうやって――」
二人の剣が、
真正面からぶつかる。
No.A「俺は剣の道を極める」
シオン「…………!」
鍔迫り合い。
二人の視線が、
至近距離で交わる。
シオン「だったら……」
No.A「?」
シオン「だったらなぜ、《凶宴-CARD》にいる!!」
No.A「…………」
シオン「お前が欲しいのが強者との戦いだけなら――」
シオン「なぜ俺の国を滅ぼした!!」
No.A「…………」
一瞬。
No.Aの剣から、
力が抜ける。
シオン「――!」
シオンが押し返す。
No.Aは後方へ跳び、
距離を取った。
No.A「……簡単な話だ」
シオン「…………」
No.A「《凶宴-CARD》に入れば――」
No.Aは、
剣を肩へ担ぐ。
No.A「面白い奴と、いくらでも戦えると思った」
シオン「…………」
No.A「国を相手にすれば、騎士が出てくる」
No.A「戦争を起こせば、英雄が出てくる」
No.A「世界を敵に回せば――」
No.Aは笑う。
No.A「世界中の強者が、俺たちを倒しに来る」
シオン「…………!」
No.A「それだけだ」
シオン「…………」
No.A「そして――」
剣先が、
シオンへ向けられる。
No.A「実際に来ただろ?」
シオン「……!」
No.A「お前が」
シオン「…………」
No.A「俺たちがアルヴェリアを滅ぼしたから――」
No.A「お前は俺を追ってきた」
No.A「そして今――」
嬉しそうに、
No.Aは笑う。
No.A「俺の一撃を、何度も超えている」
シオン「…………」
No.A「俺は間違ってなかった」
その言葉に――
シオンの中で、
何かが切れた。
シオン「…………そんなことで」
No.A「?」
シオン「そんなことで――」
剣を握る手が、
震える。
燃える街。
泣き叫ぶ人々。
崩れた王城。
そして――
父の亡骸。
シオン「…………ッ!!」
ドンッ!!
地面を蹴る。
No.A「――!」
シオン「俺の国を滅ぼしたのかァァァ!!」
ガキィィィィン!!!
No.A「……!」
これまでで最も重い一撃。
No.Aの身体が、
初めて後方へ押される。
シオン「強い奴と戦いたかった!?」
ガキン!!
シオン「剣の道を極めたかった!?」
ガキィィィン!!
No.A「……!」
シオン「そんな理由で!!」
ガキィィィン!!
シオン「何の関係もない人間を巻き込んで!!」
ガキン!!
シオン「傷つけて!!」
ガキィィィン!!
シオン「命まで奪って!!」
No.A「…………!」
シオン「それで何が――」
シオンは、
剣を大きく振りかぶる。
シオン「剣の道を極めるだァァァ!!」
ガァァァン!!!
No.A「――ッ!!」
No.Aの身体が、
大きく弾き飛ばされる。
ザザザザザッ!!
地面を滑り、
No.Aが止まる。
No.A「…………」
シオン「はぁ……はぁ……」
怒りに満ちた目で、
No.Aを睨む。
シオン「……お前は歪んでる」
No.A「…………」
シオン「剣ってのは――」
シオンは、
自らの剣を真っ直ぐ構える。
シオン「真っ直ぐなもんだろ」
No.A「…………」
シオン「どれだけ速く振れても」
シオン「どれだけ鋭く斬れても」
シオン「その剣を握る人間が歪んでたら――」
一歩。
No.Aへ向かって、
踏み出す。
シオン「そんな奴が――」
シオン「『剣の極み』に辿り着けるはずがない!!!」
No.A「…………」
静寂。
No.Aは、
何も言わない。
ただ、
シオンを見つめている。
やがて――
ゆっくりと、
立ち上がった。
No.A「……はは」
シオン「……何がおかしい」
No.A「いや」
No.Aは、
剣を握り直す。
だが――
その表情は、
先ほどまでとは違っていた。
No.A「そんなことを言われたのは――」
No.A「初めてだ」
シオン「…………」
No.A「なら――」
笑みが消える。
No.A「証明してみろ」
シオン「……!」
No.A「俺の剣が歪んでいると言うなら」
No.A「お前のその“真っ直ぐな剣”で――」
静かに腰を落とす。
これまでとは違う。
遊びではない。
挑発でもない。
一人の剣士として――
No.Aが構える。
No.A「俺を超えてみろ」
シオン「…………」
シオンもまた、
剣を構える。
シオン「ああ」
シオン「そのつもりだ」
二人の間から、
言葉が消える。
風が、
崩れた闘技場を吹き抜ける。
シオン「…………」
No.A「…………」
シオンの視界が――
歪む。
見える。
No.Aが踏み込む。
剣が振り抜かれる。
そして――
自分が斬られる。
シオン「…………」
だが。
もう、
目を逸らさない。
未来が見えるなら――
変える。
シオンは、
剣を握り締めた。
No.A「――行くぞ」
シオン「来い」
一瞬。
静寂。
そして――
ドンッ!!!
二人が、
同時に地面を蹴った。
No.Aの、
すべてを込めた一撃。
シオンの、
すべてを懸けた一撃。
二本の剣が――
交差する。
ガキィィィィィン!!!
凄まじい衝撃が、
崩れた闘技場を駆け抜ける。
そして――
静寂。
シオン「…………」
No.A「…………」
二人は、
互いに背を向けたまま、
動かない。
風が吹く。
その時――
パキッ――
No.A「…………」
小さな亀裂が、
No.Aの剣に走った。
そして――
パキィィン!!
刃が、
砕けた。
折れた刃が、
宙を舞う。
クルクルと回転しながら――
カァン――
石床へ落ちた。
No.A「…………」
No.Aは、
手元に残った剣を見つめる。
折れている。
自らが追い求め、
磨き続けてきた剣が――
折られている。
No.A「…………」
ゆっくりと、
振り返る。
そこには――
シオンが立っていた。
傷だらけの身体。
荒い呼吸。
それでも、
その手に握られた剣は――
真っ直ぐ、
No.Aへ向けられている。
シオン「…………」
一歩。
シオンは、
No.Aへ向かって踏み出す。
シオン「これが――」
No.A「…………」
シオン「俺の真っ直ぐな剣《信念》だ」
No.A「…………!」
シオン「剣は――」
シオン「ただ、人を斬るためのものじゃない」
No.A「…………」
シオン「何のために振るうのか」
シオン「何を守るのか」
シオン「何を貫くのか――」
シオンは、
自らの剣を握り締める。
シオン「それが、剣を握る奴の信念になる」
No.A「…………」
シオンは、
折れた刃へ視線を向ける。
シオン「だから俺は――」
シオン「自分の信じた剣を曲げない」
No.A「…………!」
シオン「お前を斬る必要なんかない」
シオン「お前が極めようとしていた――」
シオン「その歪んだ剣」
石床に落ちた、
折れた刃。
シオン「それを折れば――」
再び、
No.Aを真っ直ぐ見据える。
シオン「俺の勝ちだ」
No.A「…………」
風が、
二人の間を吹き抜ける。
No.Aは、
何も言わない。
ただ、
折れた剣を見つめる。
そして――
ゆっくりと、
シオンの剣へ視線を移す。
真っ直ぐ、
自分へ向けられた剣。
No.A「…………はは」
小さく、
笑った。
No.A「ははは……」
そして、
シオンを見る。
そこに、
悔しさはなかった。
No.A「……そうか」
手に残った柄を、
ゆっくりと下ろす。
No.A「俺の剣を――」
No.A「折ったか」
シオン「…………」
No.Aは、
目を閉じる。
そして――
No.A「完敗だ」




