『最初の一枚』【6】
カァァァン!!
ゴングが鳴り響く。
実況「開戦だァァァァァ!!!」
観客「うおおおおおお!!!」
割れんばかりの歓声。
シオン「…………」
剣を構える。
目の前にいるのは、
《凶宴-CARD》――No.A。
数年前。
自分からすべてを奪った、
十三人のうちの一人。
シオン「…………」
怒りはある。
憎しみもある。
だが――
シオンは、
それを押し殺した。
ここまで来たのは、
怒りに任せて剣を振るうためじゃない。
勝つためだ。
No.A「…………」
対するNo.Aは、
静かに剣を構えていた。
先ほどまでと、
何も変わらない。
十年間負け知らずだった王者を、
一撃で沈めた時と同じ構え。
実況「さあ!!」
実況「先に動くのはどちらだァァァ!?」
シオン「…………」
No.A「…………」
動かない。
シオンは、
相手の呼吸。
重心。
視線。
僅かな動きさえ見逃さぬよう、
集中する。
その時――
No.Aの右足が、
僅かに動いた。
シオン「――!」
来る。
そう思った瞬間。
No.Aの姿が、
消えた。
シオン「――!?」
見失った。
違う。
速すぎる。
目が、
追いついていない。
そして――
シオンの視界の端に、
銀色の光が走る。
シオン「――ッ!!」
避けられない。
剣を上げる時間すらない。
斬られる。
そう理解した、
その瞬間だった。
――ズバッ。
シオン「…………?」
目の前が、
一瞬だけ歪んだ。
次の瞬間――
見えた。
自分の身体を、
No.Aの剣が斬り裂く。
鮮血が舞い、
自分が地面へ倒れていく。
シオン「――!!」
身体が、
勝手に動いた。
ザッ!!
No.A「…………」
――ズバッ!!
シオンの胸元を、
刃が掠める。
血が飛ぶ。
だが――
シオン「はぁ……っ!!」
立っている。
観客「…………」
実況「…………」
No.A「…………」
闘技場が、
静まり返った。
実況「…………た」
実況「立っている……」
観客「……え?」
実況「シオン選手――!!」
実況「立っているゥゥゥ!!!」
観客「うおおおおおお!!!」
大歓声。
だが――
シオンには、
何も聞こえていなかった。
シオン「…………」
胸元から、
血が流れる。
浅い。
あと僅かでも遅れていれば、
致命傷だった。
だが、
シオンが見ていたのは傷ではない。
シオン(…………今のは……?)
自分は、
確かに見た。
剣が届くより先に――
斬られる自分を。
シオン(何が……起きた……?)
考える暇はない。
顔を上げる。
No.A「…………」
No.Aは、
自らの剣を見ていた。
そして、
シオンを見る。
No.A「…………」
今大会。
初めてだった。
No.Aの一撃を受けて、
立っている者。
No.A「……避けたか」
シオン「…………」
返事はしない。
いや――
返す言葉がない。
自分自身、
何が起きたのか理解できていない。
No.A「…………」
その口元が、
ゆっくりと吊り上がった。
No.A「……面白い」
シオン「…………」
No.Aは、
再び距離を取る。
観客「……?」
実況「お、おっと……?」
実況「A選手が――」
実況「再び構えたァァァ!!」
ざわめきが起こる。
観客「またやるのか?」
観客「一撃で終わらなかったぞ……」
No.A「…………」
剣を構える。
先ほどより、
僅かに低く。
シオン「…………!」
空気が変わる。
No.A「なら――」
静かな声。
No.A「次の一撃で終わらせる」
シオン「…………」
来る。
再び、
あの一撃が。
シオンは、
剣を握り直す。
実況「まさか!!」
実況「今大会初!!」
実況「A選手――二撃目だァァァァァ!!!」
観客「うおおおおおお!!!」
No.Aが、
地面を蹴る。
先ほどより速い。
シオン「――ッ!」
だが――
また。
一瞬だけ、
世界が歪む。
シオン「――!」
見える。
左肩から、
胸へ。
斜めに振り下ろされる剣。
その先に――
斬り伏せられる自分。
シオン(まただ……!!)
次の瞬間。
現実のNo.Aが、
全く同じ軌道で迫る。
シオン「――ッ!!」
身体を捻る。
ズバァッ!!
今度は、
肩を浅く斬られる。
シオン「ぐっ……!」
それでも――
倒れない。
No.A「…………!」
実況「またァァァ!!」
実況「また避けたァァァァァ!!!」
観客「うおおおおおお!!!」
シオン「はぁ……はぁ……」
二度。
偶然じゃない。
攻撃が来る直前。
ほんの一瞬だけ――
“その先”が見える。
シオン(…………何なんだ)
シオン(これは……)
No.A「…………」
シオンが自らの異変に困惑する一方。
No.Aは――
笑っていた。
No.A「……いい」
シオン「…………」
No.A「もっとだ」
再び、
剣を構える。
No.A「次は――」
その眼から、
先ほどまでの余裕が、
僅かに消える。
No.A「今のより速い」
シオン「…………!」
三度目。
No.Aが踏み込む。
未来が見える。
シオンが動く。
刃が掠める。
四度目。
さらに速く。
五度目。
さらに鋭く。
No.Aの一撃は、
シオンが凌ぐたびに研ぎ澄まされていく。
実況「な、なんだこれはァァァ!!」
実況「一撃!!」
実況「また一撃!!」
実況「そのすべてが必殺!!」
実況「だがシオン選手――倒れない!!!」
観客「うおおおおおお!!!」
シオン「はぁ……はぁ……!」
腕。
肩。
脇腹。
少しずつ、
傷が増えていく。
見えている。
それでも、
完全には避けられない。
No.A「…………」
だが。
No.Aの表情は――
戦いが続くほど、
楽しそうになっていた。
No.A「……そうか」
シオン「…………?」
No.A「一撃で終わらないってのは――」
剣を握る手に、
力が籠もる。
No.A「こんなに面白いのか」
シオン「…………!」
次の瞬間。
No.Aが、
これまでとは比べものにならない速度で踏み込んだ。
シオン「――!!」
世界が歪む。
見えた未来。
だが――
シオン「…………!?」
違う。
速すぎる。
見えているのに――
身体が追いつかない。
シオン(避けられない――!!)
No.A「――終わりだ」
剣が振り抜かれる。
シオン「――ッ!!」
咄嗟に、
自らの剣を差し込む。
ガキィィィィィン!!!
観客「――!!?」
実況「な――!?」
凄まじい衝撃が、
闘技場を駆け抜ける。
地面に、
亀裂が走った。
シオン「ぐっ……!!」
No.A「…………!」
剣と剣。
初めて――
真正面からぶつかった。
シオン「…………!」
受け止めた。
No.Aの一撃を。
避けたのではない。
掠らせたのでもない。
真正面から――
止めた。
No.A「…………」
シオン「はぁ……はぁ……」
No.Aの目が、
大きく見開かれる。
そして――
笑った。
No.A「……最高だ」
ミシッ――。
シオン「……?」
足元から、
小さな音がした。
二人の剣がぶつかった地点から、
闘技場の石床へ――
一本の亀裂が伸びていた。
実況「…………」
実況「え?」
亀裂は、
止まらない。
ミシ……
ミシミシミシ――
観客「……おい」
実況「ちょ、ちょっと待ってください……」
巨大な闘技場が――
僅かに、
揺れ始めた。




