『捜査線上のジャック・ザ・リッパー』【2】
鉄格子の向こうから――
一人の男が
歩いてくる。
男は――
三人の前で
足を止めた。
エドガー「初めまして」
シオン「…………」
エドガー「僕は――」
エドガー「エドガー・クロウ」
エドガー「探偵をしている」
セイ「探偵?」
エドガー「ああ」
シオン「その探偵が――」
シオン「俺たちに何の用だ?」
エドガー「今、この街で起きている事件の捜査に協力していてね」
ヴァン「事件……?」
エドガー「ああ」
エドガーが――
三人を見る。
エドガー「君たちに――」
エドガー「少し聞きたいことがある」
セイ「その前にここから出してよ」
エドガー「もちろん」
エドガーが――
近くにいた警察へ目を向ける。
エドガー「そのために来たんだ」
セイ「いい奴じゃん!」
シオン「まだ何も分かってないだろ」
◇
しばらくして――
三人は留置場を出た。
エドガーの後を追い――
警察署の奥へと
歩いていく。
通されたのは――
一つの大きな部屋。
中央には長机。
壁には――
街の地図や
何枚もの資料が貼られている。
中には――
十数人の警察がいた。
シオン「ここは?」
エドガー「捜査会議室だよ」
エドガーが――
長机の前で足を止める。
エドガー「まずは――」
エドガー「君たちが捕まった理由から話そうか」
シオン「…………」
エドガー「一か月ほど前から――」
エドガー「この街では連続殺人事件が起きている」
セイ「殺人事件?」
エドガー「ああ」
エドガーが――
一枚の資料を机へ置く。
エドガー「すでに――」
エドガー「何人もの人間が殺されている」
シオン「犯人は?」
エドガー「まだ捕まっていない」
シオンが――
壁に貼られた街の地図を見る。
いくつもの場所に――
印が付けられていた。
エドガー「だからこの街には――」
エドガー「普段より多くの警察が配置されている」
シオン「それでか……」
この街に来てから――
至るところで見かけた
警察の姿。
ようやく――
理由が繋がった。
シオン「でも――」
シオン「それと俺たちに何の関係がある?」
エドガー「犯人には――」
エドガー「いくつか特徴がある」
エドガーが――
別の資料を机へ置いた。
エドガー「まず――」
エドガー「二本のナイフを使う」
ヴァン「…………」
エドガー「遺体に残された傷から――」
エドガー「二種類の刃物が使われていることが分かっている」
シオン「二本……」
エドガー「そして――」
エドガー「もう一つ」
エドガーが――
三人を見る。
エドガー「犯人は――」
エドガー「仮面をつけている」
セイ「仮面?」
エドガー「ああ」
エドガー「生き残った目撃者がいる」
部屋の空気が――
僅かに変わる。
エドガー「その証言では――」
エドガー「仮面には――」
エドガー「《J》の文字が入っていた」
セイ「…………」
ヴァン「…………」
シオン「《J》……?」
僅かな沈黙。
先に口を開いたのは――
セイだった。
セイ「それ――」
セイ「ジャックじゃね?」
ヴァン「ああ」
ヴァン「可能性は高い」
シオン「ジャック……」
《凶宴-CARD》。
十三人いる――
実働部隊。
その一人。
《J》。
――ジャック。
エドガー「やっぱり――」
エドガー「何か知っているみたいだね」
セイ「知ってるっていうか――」
デニス「そこまでだ」
低い声が――
部屋に響いた。
一人の刑事が――
三人の前へ歩み出る。
デニス「デニス・ローデン」
デニス「この事件を担当している刑事だ」
デニスは――
セイとヴァンを見る。
デニス「ここで――」
デニス「《凶宴-CARD》について話を広げるつもりはない」
シオン「…………」
デニス「そんな組織が実在すると――」
デニス「我々が認めることはできない」
セイ「でも――」
デニス「分かっている」
デニスは――
セイの言葉を遮る。
デニス「お前たちが何者なのか」
デニス「その《A》と《2》が何を意味するのか」
デニス「それを――」
デニス「ここで議論するつもりはない」
ヴァン「…………」
留置場で――
ヴァンが話していたこと。
国は――
《凶宴-CARD》を認めない。
その存在は――
あくまで
噂でなければならない。
デニス「我々が追っているのは――」
机の上。
《J》の文字が描かれた
仮面の資料へ――
デニスが手を置く。
デニス「一か月前から――」
デニス「この街で人を殺し続けている連続殺人犯だ」
シオン「…………」
デニス「《凶宴-CARD》のジャックとして――」
デニス「捕まえるつもりはない」
デニス「一人の――」
デニス「連続殺人事件の容疑者として追う」
そして――
セイとヴァンを見る。
デニス「お前たちを捕らえたのも――」
デニス「犯人との関係を疑ったからだ」
デニスの視線が――
セイ。
そして――
ヴァンへ向く。
デニス「さっきも言ったが――」
デニス「俺たちは《凶宴-CARD》という組織の存在を認めるつもりはない」
デニス「だが――」
デニスが――
二人の頬を見る。
デニス「この印を持つお前たちと――」
デニス「《J》の仮面をつけた犯人に関係がある可能性は否定できない」
セイ「…………」
デニス「だから――」
デニス「捜査のために聞く」
デニス「お前たちは今も――」
デニス「今回の犯人と行動を共にする立場なのか?」
セイ「違うよ」
セイは――
あっさりと答えた。
セイ「俺はもう抜けてる」
ヴァン「俺もだ」
デニス「それを――」
デニス「俺たちが信じると思うか?」
セイ「ほんとなんだけどな」
シオン「俺が保証する」
デニスが――
シオンを見る。
デニス「お前が?」
シオン「ああ」
シオン「アルヴェリア王国――」
一瞬。
部屋の空気が変わる。
シオン「俺は――」
シオン「その王子、シオン・アルヴェリアだ」
デニス「…………!」
周囲の警察たちが――
シオンを見る。
デニス「アルヴェリア王国の……」
シオン「ああ」
シオン「二人はもう――」
シオン「《凶宴-CARD》じゃない」
シオン「今は俺と一緒に――」
シオン「《凶宴-CARD》を追ってる」
デニスは――
セイとヴァン。
そして――
シオンを見る。
デニス「……分かった」
デニス「アルヴェリアの王子が――」
デニス「そう言うなら信じよう」
セイ「最初から信じろよ」
シオン「お前の頬に《2》があるからだろ」
セイ「…………」
ヴァン「自業自得だな」
セイ「お前も《A》あるだろ!」
シオン「じゃあ――」
シオン「俺たちが犯人じゃないことは?」
エドガー「もう分かってるよ」
シオン「…………?」
エドガー「君たちがこの街に来たのは――」
エドガー「今日だろ?」
シオン「ああ」
エドガー「事件は一か月前から続いている」
エドガー「少なくとも――」
エドガー「君たち三人が連続殺人犯じゃないことは確かだ」
セイ「じゃあなんで牢屋に入れたんだよ!」
エドガー「それは僕に言われても困るな」
セイ「探偵だろ!」
シオン「探偵をなんだと思ってるんだよ」
セイ「なんでも分かる奴」
エドガー「ずいぶん期待されてるね」
ヴァン「話を戻せ」
セイ「…………」
エドガー「そうだね」
エドガーが――
机の上の資料を二人の前へ滑らせる。
エドガー「二本のナイフ」
エドガー「そして――」
エドガー「《J》の仮面」
エドガーの目が――
セイとヴァンへ向く。
エドガー「君たちなら――」
エドガー「何か知っているんじゃないか?」
セイの表情から――
先ほどまでの
軽さが消える。
セイ「…………知ってる」
シオン「?」
セイ「あいつの――」
セイが――
《J》の仮面を見つめる。
セイ「戦い方ならな」
◇
その時――
捜査会議室の扉が
開いた。
入ってきたのは――
一人の男。
年齢は――
デニスより上だろう。
落ち着いた足取りで――
部屋へ入ってくる。
そして――
その左腕には――
肘から先がなかった。
デニス「先輩」
デニスが――
男のもとへ歩いていく。
デニス「来てくれたんですね」
男「ああ」
デニス「急に呼び出して――」
デニス「すみません」
男「気にするな」
男の視線が――
シオン。
そして――
セイとヴァンへ向く。
《2》。
《A》。
その二つの印を見て――
男が僅かに目を細める。
男「まさか――」
男は――
二人の頬を見たまま続ける。
男「あの《凶宴-CARD》が――」
男「この場にいるとはな」
セイ「知ってんの?」
男「噂くらいはな」
デニスが――
小さく息を吐く。
デニス「先輩――」
デニス「今の俺たちは、その存在を認める立場にはありません」
男「そうだったな」
男が――
僅かに笑う。
男「もう刑事じゃないんでね」
男「俺には関係ない話だ」
デニス「…………」
シオン「この人は?」
デニス「俺の先輩です」
デニス「俺が刑事になった頃から――」
デニス「ずっと世話になっていました」
セイ「じゃあ――」
セイ「この人も刑事なの?」
デニス「いや」
デニスが――
男の左腕を見る。
デニス「数年前――」
デニス「ある事件で左腕を失った」
デニス「それをきっかけに――」
デニス「刑事を引退しています」
男「もう昔の話だ」
男は――
気にした様子もなく答える。
デニス「今回の事件――」
デニス「一か月追っても、まだ犯人に辿り着けていません」
デニスが――
机の上の資料を見る。
デニス「それで――」
デニス「先輩の意見を聞きたくて、俺が呼びました」
男「なるほどな」
男が――
壁に貼られた地図へ
目を向ける。
しばらく――
資料を眺めた後。
デニス「先輩」
男が――
デニスを見る。
デニス「助言だけじゃなく――」
デニス「この事件が終わるまで――」
デニス「捜査に協力してもらえませんか?」
男「…………」
デニス「お願いします」
男は――
少しだけ考える。
そして――
机の上に置かれた
資料を手に取った。
男「分かった」
デニス「……ありがとうございます」
男「久しぶりの捜査だ」
男は――
資料をめくる。
男「少しは――」
男「勘も鈍ってるかもしれんがな」
デニス「先輩なら大丈夫ですよ」
男「買い被るな」
そう言って――
男は静かに笑った。




