『捜査線上のジャック・ザ・リッパー』【1】
公演会場の横――
小さな部屋。
椅子に座ったシオンの身体には――
いくつもの包帯が
巻かれていた。
セイ「動くなよ」
シオン「分かってる」
セイ「さっきから動いてるだろ」
シオン「巻き方が雑なんだよ」
セイ「じゃあ自分でやれよ!」
シオン「届かないから頼んでるんだろ!」
セイ「だったら文句言うな!」
シオン「痛いんだよ!」
セイ「怪我してんだから当たり前だろ!」
シオン「…………」
セイ「…………」
ヴァン「終わったか?」
セイ「まだ!」
ヴァンは――
少し離れた場所で
濡れた服を絞っている。
シオンの傷は――
浅くない。
それでも――
血を止め、
最低限の手当だけは済ませた。
セイ「これでいいだろ」
シオン「たぶん」
セイ「たぶんってなんだよ」
シオン「お前が巻いたんだろ」
セイ「じゃあ外す?」
シオン「やめろ」
シオンが――
立ち上がる。
身体を動かすと――
傷が
僅かに痛む。
シオン「…………」
ヴァン「無理はするな」
シオン「ああ」
セイ「俺らの方がひでぇけどな」
セイが――
自分の濡れた服を
摘まむ。
セイ「…………寒っ」
シオン「しばらく乾かないだろうな」
セイ「最悪だ……」
ヴァン「生きてただけマシだな」
セイ「いや――」
セイ「実際、マジで死ぬかと思った」
シオン「日頃の行いだな」
セイ「同じ《凶宴-CARD》のメンバーにやられて――」
セイ「バチが当たった扱いされる意味分かんねぇけどな」
シオン「…………確かに」
ヴァン「…………」
◇
三人は――
公演会場を出た。
街にはまだ――
多くの人が行き交っている。
そして――
相変わらず
警察の姿も多い。
大通り。
路地の入口。
店の前。
街の至るところに――
警察が立っている。
その中を――
三人は
歩いていく。
その時――
ヴァン「……セイ」
セイ「ん?」
ヴァン「頬」
セイ「頬?」
セイが――
自分の頬へ触れる。
セイ「…………あ」
ない。
《2》を隠していた――
兎の布が。
セイ「取れてる……」
シオン「水槽だろ」
セイ「…………」
セイの頬には――
《2》。
その印が
はっきりと見えている。
シオン「ヴァンもだ」
ヴァン「…………」
ヴァンが――
自分の頬へ触れる。
水に濡れたことで――
《A》を隠していたものも
すっかり落ちていた。
《2》。
そして――
《A》。
二人の頬に刻まれた
《凶宴-CARD》の印が――
剥き出しになっている。
セイ「…………まずくね?」
シオン「今さら気づいても――」
警察「おい!」
三人が――
振り向く。
そこには――
数人の警察。
その視線は――
セイとヴァンの頬へ
向けられていた。
警察「動くな!」
セイ「…………」
シオン「…………」
ヴァン「…………」
警察「三人とも――」
警察「両手を見えるところに!」
シオン「……なんで俺まで」
セイ「一緒にいるからだろ」
シオン「…………」
シオン「お前らのせいだろ」
セイ「俺だって好きで見せてんじゃねぇよ!」
警察「喋るな!」
◇
――しばらくして。
鉄格子。
石の壁。
硬い床。
三人は――
留置場の中にいた。
セイ「…………」
シオン「…………」
セイ「なあ」
シオン「なんだよ」
セイ「いつまでここにいんの?」
シオン「俺に聞くな」
セイ「暇なんだけど」
シオン「我慢しろ」
セイ「腹も減った」
シオン「我慢しろ」
セイ「なんか持ってない?」
シオン「持ってるように見えるか?」
セイ「使えねぇな」
シオン「なんで俺が悪いんだよ!」
セイ「だって――」
セイ「お前だけ濡れてないだろ」
シオン「それと何の関係があるんだよ!」
セイ「俺なんか寒いし腹減ったし――」
セイ「留置場だぞ!」
シオン「俺だって捕まりたくて捕まったんじゃない!」
セイ「俺もだよ!」
ヴァン「…………」
それまで――
壁にもたれていた
ヴァンが口を開く。
ヴァン「……おかしいな」
シオン「何が?」
ヴァン「俺たちが――」
ヴァン「こうして捕まってることだ」
シオン「…………?」
ヴァン「そもそも――」
ヴァンが――
鉄格子へ目を向ける。
ヴァン「俺たち《凶宴-CARD》が――」
ヴァン「捕まること自体、まずあり得ない」
シオン「なんで?」
ヴァン「《凶宴-CARD》の存在を――」
ヴァン「国は認めたくない」
シオン「…………」
ヴァン「俺たちは――」
ヴァン「噂話の域を越えない」
シオン「噂話……?」
ヴァン「ああ」
ヴァンは――
淡々と続ける。
ヴァン「たった十三人が――」
ヴァン「一つの国を滅ぼした」
シオン「…………」
ヴァン「災害級のドラゴンを――」
ヴァン「討伐したこともある」
ヴァン「国同士の争いに――」
ヴァン「関わったこともある」
シオン「…………」
ヴァン「そんな存在が本当にいると――」
ヴァン「国が認めれば」
僅かに――
間を置く。
ヴァン「それこそ――」
ヴァン「大混乱になる」
セイ「だから――」
セイ「俺らはずっと噂のままなんだよ」
シオン「…………」
ヴァン「それに――」
ヴァンが――
シオンを見る。
ヴァン「お前自身が――」
ヴァン「それを証明してる」
シオン「俺が?」
ヴァン「ああ」
ヴァン「国が俺たちを――」
ヴァン「どうにかできるなら」
ヴァン「お前が――」
ヴァン「こうして動く必要はなかっただろ」
シオン「…………」
何も――
言い返せなかった。
その通りだった。
《凶宴-CARD》を追い――
一枚ずつ
弾いているのは――
国でもなければ
軍でもない。
シオン自身だ。
シオン「……確かにな」
シオンが――
鉄格子を見る。
シオン「じゃあ――」
シオン「なんで今回は――」
シオン「俺たちを捕まえた?」
ヴァン「それが分からない」
セイ「…………」
シオン「…………」
街に入った時から――
妙に多かった
警察。
そして――
《A》と《2》を見た瞬間。
迷うことなく――
三人を捕らえた。
セイ「なんか――」
セイ「面倒なことになってね?」
シオン「今さらかよ」
セイ「今気づいたんだよ」
シオン「遅いだろ」
セイ「うるせぇな!」
ヴァン「静かにしろ」
セイ「…………」
シオン「…………」
その時――
――コツ。
三人が――
顔を上げる。
鉄格子の向こう。
一人の男が――
こちらへ
歩いてきていた。
――エドガー・クロウ。
この街で――
探偵を名乗る男だった。




