『喝采の十枚目』【6】
その瞬間――
シオンの中で。
何かが――
切れた。
シオン「…………」
水槽の中。
動かない――
二人。
No.10「ゲームは――」
No.10「君の負けだ」
シオン「…………」
No.10「残念だったね」
シオン「…………残念?」
No.10「?」
シオン「今――」
シオン「残念って言ったのか?」
No.10「ああ」
シオン「…………」
剣を握る手に――
力が入る。
シオン「二人が死んだ」
シオン「それを――」
シオン「残念で終わらせんのか?」
No.10「…………」
シオン「お前にとって――」
シオン「人の命はなんだ」
No.10「…………」
シオン「ゲームの景品か?」
シオン「客を驚かせるための――」
シオン「道具か?」
No.10「…………」
シオン「答えろ!!」
声が――
公演場に響く。
No.10「…………」
No.10は――
静かに笑う。
No.10「ショーには――」
No.10「緊張感が必要だ」
シオン「…………!」
No.10「失うものがなければ――」
No.10「観客は本気になれない」
No.10「君だって――」
No.10「そうだっただろう?」
シオン「…………」
No.10「二人の命が懸かっていたから――」
No.10「君は必死になった」
シオン「…………」
No.10「未来まで使い――」
No.10「僕の奇術の種まで見破った」
No.10が――
両手を広げる。
No.10「素晴らしいショーだったよ」
シオン「…………」
俯く。
No.10「?」
シオン「……違う」
No.10「何がだい?」
シオン「命は――」
シオンが――
顔を上げる。
シオン「失ってからじゃ」
シオン「戻せねぇんだよ」
No.10「…………」
シオン「城なら――」
シオン「壊されても建て直せる」
シオン「土地なら――」
シオン「奪われても取り返せる」
握る剣が――
震える。
シオン「でも――」
シオン「命だけは――」
シオン「二度と戻らない」
No.10「…………」
シオン「そんなもんを――」
水槽を見る。
シオン「こんな――」
舞台を見る。
シオン「くだらねぇショーのために――」
再び――
No.10を見る。
シオン「使ってんじゃねぇ!!」
No.10「…………」
シオン「お前が――」
シオン「どれだけ人を驚かせたいのか」
シオン「どれだけ――」
シオン「自分の奇術を見せたいのか」
シオン「そんなもん――」
シオン「知ったことか!!」
No.10「…………」
シオン「人の命を――」
剣を構える。
シオン「お前のショーの一部にするな!!」
No.10「…………」
短い――
沈黙。
そして。
No.10「なるほど」
No.10の笑みは――
消えない。
No.10「君は――」
No.10「そういう人間なんだね」
シオン「…………?」
No.10「面白い」
シオン「…………!」
No.10「なら――」
No.10が――
ゆっくりと両手を広げる。
No.10「その怒りも――」
No.10「見せてもらおうかな」
シオン「…………」
No.10「ここからが――」
No.10「本当のショーだ」
シオン「…………」
シオン「まだ――」
No.10「?」
シオン「まだショーだと――」
シオン「言ってんのか」
次の瞬間。
ドンッ!!
No.10「!」
床が――
弾ける。
シオンが――
一瞬で
No.10の目の前へ迫る。
シオン「ふざけんな!!」
ブンッ!!
剣が――
横薙ぎに振り抜かれる。
No.10「…………!」
No.10が――
身体を反らし
刃を躱す。
シルクハットが――
宙へ舞った。
シオン「…………!」
返す――
二撃目。
ガキンッ!!
シオン「!」
剣が――
止まる。
No.10の指。
そこには――
一枚のカード。
シオン「…………?」
薄い――
金属のカード。
その縁で――
剣を受け止めている。
No.10「随分――」
No.10が――
笑う。
No.10「乱暴な観客だね」
シオン「黙れ!!」
シオンが――
剣を振り抜く。
No.10が
後ろへ跳ぶ。
距離が――
開く。
No.10「…………」
右手を上げる。
指の間には――
三枚のカード。
シオン「…………」
No.10「ショーの途中で――」
No.10「舞台へ上がるのは」
カードを――
構える。
No.10「感心しないな」
シュッ――!
三枚のカードが――
放たれる。
シオン「…………!」
速い。
紙のカードとは――
明らかに違う。
――少し先。
三枚。
首。
胸。
脚。
それぞれを狙う――
刃。
シオンが――
身体を捻り
全てを躱す。
――未来が途切れる。
シオン「…………!」
同じだ。
右から――
三枚。
シオン「見えてる!」
一歩――
左へ。
一枚目。
首元を通過。
二枚目。
胸元を通過。
三枚目。
脚の横を――
通り抜ける。
シュッ――!
シオン「…………」
全て――
躱した。
No.10「…………」
No.10は――
静かに笑っている。
シオン「…………?」
何がおかしい。
その時――
ヒュン――
シオン「…………?」
背後。
風を――
切る音。
ザシュッ!!
シオン「ぐっ!!」
背中に――
鋭い痛み。
シオンの身体が
前へ崩れる。
シオン「…………!」
振り返る。
そこには――
さっき躱したはずの
一枚のカード。
宙を旋回し――
再び
こちらへ向かってくる。
シオン「なっ――!?」
シュッ!!
シオンが――
剣を振る。
キィン!!
カードを――
弾き落とす。
シオン「…………」
床へ落ちる――
一枚。
縁には――
シオンの血。
シオン「…………!」
ただのカードじゃない。
薄い金属。
研ぎ澄まされた縁。
完全な――
刃物。
No.10「いい反応だ」
シオン「…………」
シオンは――
背中の傷を押さえる。
シオン「今のカード……」
確かに――
避けた。
未来でも。
現実でも。
自分の横を――
通り過ぎた。
シオン「なんで――」
シオン「戻ってきた……」
No.10「…………」
No.10は――
答えない。
代わりに――
両手を上げる。
右手に――
四枚。
左手に――
四枚。
八枚のカード。
シオン「…………!」
No.10「さて――」
指の間で――
八枚の刃が
僅かに揺れる。
No.10「次は――」
妖艶な笑みが――
深くなる。
No.10「どこまで見えるかな?」
シオン「…………!」
八枚のカードが――
一斉に
放たれた。




