『喝采の十枚目』【5】
残された時間は――
もう――
ほとんどない。
シオン「…………」
未来で――
確かに《JOKER》を見た。
だが――
No.10へ渡った時には
《10》へ変わっていた。
シオン「…………」
未来が――
間違ってたんじゃない。
なら――
どこかで
入れ替わった。
シオンは――
床へ目を凝らす。
散らばる――
大量のカード。
その時。
シオン「…………?」
一枚のカードが――
僅かに動いた。
シオン「…………!」
風はない。
なのに――
また。
別のカードが――
ほんの僅かに動く。
シオン「…………」
シオンが――
目を細める。
カードの端。
そこから――
何かが伸びている。
シオン「…………!」
光を受け――
一瞬だけ
細い線が浮かんだ。
シオン「ワイヤー……?」
No.10「…………」
シオンが――
No.10を見る。
その手。
指先。
シオン「そういうことか……」
床へ散らばるカード。
その幾つかには――
目では追えないほど細い
ワイヤーが繋がっている。
そして――
その先。
No.10の指。
シオン「カードを動かしてたのは――」
シオン「そのワイヤーか」
No.10「…………」
No.10は――
静かに笑う。
シオン「俺がカードを選ぶ」
シオン「その瞬間を見て――」
シオン「別のカードと入れ替えてた」
No.10「ご名答」
シオン「…………」
No.10「ようやく――」
No.10「一つ目の種に気付いたね」
シオン「一つ目……?」
No.10「おっと」
No.10が――
人差し指を口元へ立てる。
No.10「今は――」
No.10「ゲームに集中した方がいい」
シオン「…………!」
セイ「シオン!!」
シオン「!」
水槽。
水は――
既に
セイの肩まで迫っている。
ヴァンも――
同じ。
シオン「くそっ!」
再び――
カードへ向き直る。
だが――
今度は違う。
カードだけではない。
その先に伸びる――
ワイヤー。
No.10の――
指。
全てを見る。
そして――
一枚を選ぶ。
――少し先。
自分が――
カードを裏返す。
《JOKER》。
シオン「…………!」
未来が途切れる。
その瞬間――
No.10の指が
僅かに動いた。
シオン「そこだ!!」
シオンが――
床を蹴る。
ワイヤーで動き始めたカードより――
先に。
一枚を掴む。
裏返す。
《JOKER》。
シオン「…………!」
そのまま――
No.10へ向かって
走る。
シオン「これで――!」
ゴボッ――!
シオン「…………!」
セイの頭が――
水へ沈んだ。
続いて――
ヴァンも。
シオン「…………!」
水槽が――
完全に満たされる。
シオン「待て!!」
それでも――
シオンは走る。
手には――
間違いなく《JOKER》。
シオン「これだ!!」
No.10へ――
手を伸ばす。
No.10「…………」
No.10は――
静かに
シオンを見る。
No.10「残念」
シオン「…………?」
No.10「時間切れだ」
シオン「…………!」
シオン「JOKERは――」
シオン「見つけた!!」
No.10「ああ」
No.10「だけど――」
水槽へ
視線を向ける。
No.10「少し遅かったね」
シオン「…………!」
シオンが――
水槽へ振り返る。
水の中。
セイが――
拘束された腕を
激しく動かしている。
身体を捩り――
必死に
抜け出そうとしている。
シオン「セイ!!」
ヴァンも――
拘束を解こうと
身体を動かしている。
シオン「ヴァン!!」
シオンが――
水槽へ駆け寄る。
剣を抜く。
ガキィン!!
シオン「…………!?」
刃を――
水槽へ叩きつける。
だが――
傷一つ
つかない。
シオン「くそっ!!」
ガキィン!!
シオン「割れろ!!」
ガキィン!!
何度――
叩きつけても。
水槽は――
割れない。
シオン「…………!」
その向こう。
セイの動きが――
少しずつ
弱くなっていく。
シオン「セイ!!」
セイが――
シオンを見る。
そして――
口から
僅かな空気が漏れた。
ゴボッ――
シオン「…………」
セイの身体から――
力が抜ける。
シオン「…………セイ?」
動かない。
シオン「おい……」
水の中。
セイの身体が――
静かに浮かぶ。
シオン「セイ!!」
隣。
ゴボッ――
シオン「…………!」
ヴァンの口からも――
最後の空気が
漏れていく。
目が――
閉じる。
身体から――
力が抜けた。
シオン「ヴァン……?」
返事はない。
シオン「…………」
二つの水槽。
その中で――
二人とも。
もう――
動いていない。
シオン「…………」
剣を握る手が――
震える。
シオン「…………おい」
返事はない。
シオン「セイ……」
動かない。
シオン「ヴァン……」
動かない。
シオン「…………」
水槽へ――
手をつく。
シオン「…………嘘だろ」
No.10「…………」
シオンは――
ゆっくりと
顔を上げる。
そして――
振り返る。
No.10「ゲームは――」
No.10は――
変わらぬ笑みを浮かべている。
No.10「君の負けだ」
シオン「…………」
その瞬間――
シオンの中で。
何かが――
切れた。




