『九死の九枚目』【終】
しばらくして――
セイたちの身体も
ようやく元に戻り始めていた。
セイ「……動く」
セイが腕を何度も曲げ伸ばしする。
セイ「ったく――」
セイ「医者のくせに何すんだよ」
No.9「病院で暴れようとするからですよ」
セイ「暴れてねぇ!」
No.3「剣抜こうとしてただろ」
セイ「お前もだろ!」
No.3「俺は巻き込まれただけだ」
セイ「嘘つけ!」
No.9「…………」
No.9は四人を横目に見ながら
白衣の袖を整える。
No.9「では――」
No.9「僕は仕事に戻ります」
シオン「仕事?」
No.9「ええ」
No.9は扉へ向かう。
No.9「僕の本職は――」
No.9「医者ですから」
シオン「…………」
その背中を見ながら――
シオンは小さく笑った。
シオン「そうだったな」
No.9「…………」
扉に手をかけたところで――
No.9が止まる。
No.9「そういえば――」
振り返る。
No.9「あなたたちは」
No.9「これからどうするつもりですか?」
シオン「次か?」
No.9「ええ」
セイ「あ――」
セイ「それなら」
セイが懐を探る。
取り出したのは――
一枚の紙。
街で見つけた
奇術公演の告知だった。
セイ「次は――」
セイ「No.10だ」
No.9「…………」
シオン「次の公演場所が分かった」
ヴァン「ここからも近い」
No.3「なら――」
No.3「行き先は決まりだな」
No.9「No.10――」
No.9は
告知へ目を落とす。
No.9「そうですか」
そして――
僅かに表情を変えた。
No.9「では――」
No.9「残るのは」
No.9「No.10」
No.9「ジャック」
No.9「クイーン」
No.9「キング」
シオン「ああ」
No.9「…………」
短い沈黙。
No.9「気を付けてください」
シオン「?」
No.9「特に――」
No.9「No.10の次です」
セイ「ジャックと――」
セイ「クイーンとキングか?」
No.9「ええ」
いつもの穏やかな声。
だが――
その言葉だけは
少し重かった。
No.9「その三人は――」
No.9「今までの者たちとは」
No.9「少し違います」
シオン「…………」
No.9「中でも――」
僅かな間。
No.9「キング」
その名に――
シオンの目が細くなる。
No.9「あの人に関しては――」
No.9は
少し考えるように黙った。
No.9「人間が――」
No.9「勝てるのかどうかすら」
No.9「怪しい」
シオン「…………!」
ヴァン。
セイ。
No.3。
三人だけではない。
No.9まで――
同じことを言う。
シオン「…………そこまでか」
No.9「ええ」
No.9は
それ以上何も言わなかった。
ただ――
キング。
父を殺した男。
その存在が――
また一つ
大きくなった気がした。
No.9「それと――」
シオン「?」
No.9は白衣の内側から
小さな薬瓶を取り出す。
No.9「これを」
シオン「…………薬?」
受け取る。
透明な小瓶。
中には――
僅かな量の薬液が入っていた。
No.9「《成長抑制剤》です」
シオン「成長抑制剤?」
No.9「ええ」
シオン「なんで――」
シオン「俺に?」
No.9「持っていてください」
シオン「…………」
No.9「今後――」
No.9「役に立つはずです」
シオン「…………?」
意味は分からない。
だが――
No.9が理由もなく
薬を渡すとも思えなかった。
シオンは薬瓶を
懐へしまう。
シオン「分かった」
No.9「では――」
今度こそ
No.9は扉を開ける。
セイ「おい、No.9!」
No.9「?」
セイ「お前――」
セイ「《凶宴》抜けて」
セイ「これから何すんだ?」
No.9「…………」
No.9は――
少しだけ考える。
No.9「そうですね――」
そして。
No.9「医者として――」
No.9「一番嬉しいことが何か」
No.9「分かりますか?」
セイ「…………?」
セイ「命を――」
セイ「救うことか?」
No.9「そうです」
セイ「…………?」
No.9「もっと言うならば――」
僅かな間。
No.9「救う必要のある命が――」
No.9「最初から生まれないことです」
セイ「…………」
No.9「ですが――」
No.9「病気にならない人はいない」
No.9「怪我をすることもある」
No.9「それは――」
No.9「生きている以上」
No.9「致し方のないことです」
No.9「ですが――」
No.9の表情が
僅かに変わる。
No.9「何者かによって――」
No.9「命が危険に晒されること」
No.9「それは――」
No.9「なくせるはずです」
シオン「…………」
No.9「《凶宴-CARD》は――」
No.9「シオン君に任せても大丈夫だと」
No.9「僕は判断しました」
シオン「…………」
ヴァン「…………」
ヴァンの口元が――
僅かに緩む。
No.9「ならば――」
No.9「僕は医者として」
白衣の袖を整える。
No.9「ここで――」
No.9「一人でも多くの命を救っていきます」
そう言って――
No.9は病室を出ていった。
白衣の背中が――
廊下の向こうへ消えていく。
セイ「…………」
セイ「じゃあ――」
セイ「俺たちも一旦宿に戻るわ」
シオン「ああ」
セイ「ほい、これ」
セイが――
懐から何かを取り出し
シオンへ放る。
シオン「?」
受け取る。
シオン「…………」
見覚えのある――
財布。
シオン「…………は?」
セイ「そういや――」
セイが
思い出したように笑う。
セイ「この近くにあった店――」
セイ「めちゃくちゃ美味かったぞ!」
シオン「…………」
セイ「退院したら――」
セイ「みんなで行こうぜ!」
シオン「…………」
セイ「?」
シオン「…………セイ」
セイ「なんだよ?」
シオン「なんで――」
シオン「俺の財布を持ってる?」
セイ「…………」
シオン「…………」
セイ「…………」
セイ「じゃ――」
セイ「俺たち先に宿戻って――」
ゴンッ!!
セイ「いってぇぇぇぇ!!」
病室に――
鈍い音が響いた。
ヴァン「よかったな」
セイ「何がだよ!」
ヴァン「ここは病院だ」
ヴァン「見てもらえ」
セイ「うるせぇ!」
No.3「…………」
No.3「お前ら――」
No.3「《凶宴-CARD》にいた頃とは」
No.3「ほんと別人だな」




