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《凶宴-CARD》  作者: shogo5


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『最初の一枚』【4】

――数日後。


アルヴェリアを発ったシオンは、


国境を越え、


一つの街へ辿り着いていた。


大通りには商人の荷車が並び、


旅人や傭兵たちが行き交っている。


シオン「…………」


人が集まる場所には、


情報も集まる。


シオンは通りを見渡し、


一軒の酒場へと入った。



◇ ◇ ◇



扉を開けた瞬間、


酒と料理の匂い、


そして男たちの騒がしい声が押し寄せる。


傭兵「ガハハハハ!」


旅人「それでよ! そいつが――!」


商人「おい、もう一杯くれ!」


シオン「…………」


昼間だというのに、


店内は多くの客で賑わっていた。


シオンはカウンターへ向かい、


空いていた席に腰を下ろす。


店主「いらっしゃい」


シオン「少し聞きたいことがある」


店主「注文より先にそれか?」


シオン「……悪い」


店主「冗談だよ」


店主は、


手にしていたグラスを拭きながら笑う。


店主「旅人の探し物なら、ここに来たのは正解だ」


店主「何を探してる?」


シオン「人だ」


店主「名前は?」


シオン「分からない」


店主「……おいおい」


シオン「ただ、特徴はある」


店主「言ってみな」


シオン「頬に、数字か文字の印が刻まれている」


店主の手が、


僅かに止まった。


シオン「十三人いる」


店主「…………」


シオン「《凶宴-CARD》」


その名を口にした瞬間――


周囲の喧騒が、


僅かに弱まった。


シオン「……?」


数人の客が、


こちらを見ている。


店主「兄ちゃん」


シオン「?」


店主「その名前……あんまり大声で言わねぇ方がいい」


シオン「何か知ってるのか?」


店主「知ってるっていうより……聞いたことがある程度だ」


シオン「何でもいい。教えてくれ」


店主「…………」


その時。


傭兵「おいおい」


背後から、


低い声が聞こえた。


シオン「…………」


傭兵「さっきから聞いてりゃ、随分物騒な名前出してんじゃねぇか」


大柄な男が、


仲間を連れて近づいてくる。


傭兵「《凶宴-CARD》を探してる?」


傭兵「お前みてぇなガキが?」


仲間たちが笑う。


シオン「…………」


傭兵「やめとけ、やめとけ」


傭兵「命が惜しいなら国に帰って、母ちゃんの飯でも食ってな」


再び、


笑い声が上がる。


シオン「……忠告ありがとう」


傭兵「あ?」


シオン「だが、帰るつもりはない」


傭兵「…………」


シオンは、


店主へ視線を戻す。


シオン「続きを頼む」


傭兵「おい」


シオン「…………」


傭兵「無視してんじゃねぇぞ」


男の手が、


シオンの肩を掴む。


――次の瞬間。


ドンッ!!


傭兵「がっ――!?」


巨体が、


酒場の床へ叩きつけられた。


店内が、


静まり返る。


傭兵「…………」


仲間「え……?」


誰も、


何が起きたのか分からなかった。


シオン「…………」


数年前。


何もできなかった。


国を守れず、


父を守れず、


たった一度の衝撃で吹き飛ばされ――


意識すら失った。


あの日から。


シオンは、


二度と同じ自分ではいないと決めた。


国を立て直す日々の中でも、


剣を置いた日は一日もない。


仲間「て、てめぇ!!」


三人の男が、


一斉に襲いかかる。


シオン「…………」


それでも――


シオンの手は、


腰の剣へ伸びなかった。


一人目の拳をかわす。


懐へ入り、


腹部へ一撃。


男「ぐっ――!」


二人目の腕を取り、


勢いを利用して床へ投げる。


男「がっ!」


三人目が、


背後から殴りかかる。


シオンは振り返ることなく身を沈め――


足を払った。


男「うおっ!?」


倒れる。


静寂。


シオン「…………」


四人。


剣すら抜かず、


ほんの数秒。


店主「……兄ちゃん」


シオン「?」


店主「強ぇんだな」


シオン「…………」


シオンは、


倒れた男たちを見る。


シオン「……違う」


店主「?」


シオン「俺が追っている奴らは――」


あの日。


十三人だけで、


一つの国を滅ぼした者たち。


シオン「こんなものじゃない」


店主「…………」


シオンは、


再びカウンターへ向き直った。


シオン「それで」


店主「?」


シオン「何か知ってるんだろ?」


店主「…………」


店主は、


しばらくシオンを見つめた。


やがて、


小さく息を吐く。


店主「……頬の印」


シオン「!」


店主「“A”なら――」


シオンの目が見開かれる。


店主「昨日まで、この街にいたぞ」


シオン「――!」


思わず、


椅子から立ち上がる。


シオン「本当か!?」


店主「ああ」


店主「この辺りじゃ名の知れた剣士が何人かいる」


店主「道場主、元騎士団長、傭兵上がりの剣豪……」


店主「昨日一日で――」


店主は、


指を一本立てる。


店主「全員やられた」


シオン「……全員?」


店主「ああ」


シオン「殺されたのか?」


店主「いや」


シオン「……?」


店主「生きてる」


店主「勝負がついたら、それで終わりだったそうだ」


シオン「…………」


店主「金も取らねぇ」


店主「名を売ろうともしねぇ」


店主「強い奴がいると聞けば会いに行って、勝負を挑む」


店主「勝ったら、また次の強い奴を探す」


シオン「……何のために」


店主「さあな」


店主は、


少し考え込み、


昨日の出来事を思い返すように呟いた。


店主「剣を振る理由が――」


店主「“もっと強い奴と戦いたい”」


店主「ただ、それだけに見えたって話だ」


シオン「…………」


店主「今朝、東門から出ていった」


シオン「どこへ?」


店主「この先の街道なら、行き着く街は一つしかない」


シオン「…………」


店主「――武闘都市ヴァルガス」


シオン「武闘都市……?」


店主「あそこじゃ今、年に一度の大武闘祭が開かれてる」


シオン「大武闘祭?」


店主「ああ」


店主「剣士、拳闘士、傭兵、冒険者――」


店主「各国から腕自慢が集まって、誰が一番強ぇか決める祭りだ」


シオン「…………!」


店主「しかも――」


店主は、


僅かに笑った。


店主「今年も、十年間負け知らずの絶対王者が出る」


シオン「…………!」


店主「十年間、誰もあいつを倒せてねぇ」


シオン「…………」


昨日。


この街の強者を、


片っ端から倒した男。


強者を求め、


次から次へと戦いを挑む男。


その男が――


各国から猛者の集まる場所を、


素通りするとは思えない。


シオン「……ヴァルガス」


店主「ああ」


店主「奴が本当に強い奴を求めて歩いてるなら――」


店主「まず間違いなく、そこへ向かってる」


シオン「…………」


店主「今から追えば――」


店主は、


東を指した。


店主「まだ間に合うかもしれねぇぞ」


シオン「――ありがとう」


店主「お、おい!」


シオンは、


すぐさま酒場の出口へ向かう。


店主「そんな急がなくても――」


バタン!!


扉が閉まる。


店主「…………」


床には、


未だに倒れたままの傭兵たち。


店主「……片付けてから行けよ」


傭兵「俺らゴミ扱い!?」


店内に、


笑い声が響いた。



◇ ◇ ◇



シオンは、


東へ続く街道を走っていた。


シオン「…………」


ついに。


見つけた。


数年間、


探すことすらできなかった仇。


十三枚のうち――


最初の一枚。


シオン「待っていろ……No.A」


その先。


武闘都市ヴァルガスでは――


すでに一人の男によって、


大武闘祭の予定が、


大きく狂い始めていた。

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