『最初の一枚』【3】
翌朝――。
アルヴェリア王国、城門。
旅装に身を包んだシオンが、
一人、門の前に立っていた。
オルディス「準備はよろしいですかな」
シオン「ああ」
オルディス「そうですか」
シオン「…………」
シオンは、
振り返った。
数年をかけて、
皆と共に立て直した国。
まだ、
完全に元通りになったわけではない。
それでも、
朝を迎えれば店が開き、
人々が働き、
子どもたちが笑う。
あの日、
失ったと思っていた景色が、
そこにはあった。
オルディス「……心残りですかな?」
シオン「いや」
シオンは、
小さく笑った。
シオン「任せたからな」
オルディス「――!」
一瞬、
驚いたように目を見開く。
そして、
オルディスも笑った。
オルディス「ええ」
オルディス「確かに、お預かりいたしました」
シオン「ああ」
シオンは、
前を向いた。
オルディス「シオン様」
シオン「?」
オルディス「どうか――」
一瞬、
言葉を止める。
オルディス「お帰りください」
シオン「…………」
オルディス「あなたが守ろうとした国へ」
シオン「……ああ」
シオンは歩き出した。
一歩。
また一歩。
生まれ育った国が、
少しずつ遠ざかっていく。
だが、
もう振り返らなかった。
――父上。
行ってきます。
◇ ◇ ◇
街道。
シオン「…………」
アルヴェリアを発ってから、
数時間が経っていた。
十三人。
《凶宴-CARD》。
その存在は掴んだ。
だが――
居場所までは分からない。
広大な世界から、
たった十三人を探し出す。
容易なことではない。
それでも、
手掛かりはあった。
シオン「…………」
ふと、
旅立つ前に聞いた言葉が蘇る。
――前日。
兵士『シオン様。もう一つ、お伝えしておくことが』
シオン『何だ?』
兵士『十三人の目撃証言を調べる中で、共通する特徴が見つかりました』
シオン『共通する特徴?』
兵士『はい』
兵士は、
一枚の資料を差し出した。
兵士『彼らの頬には、それぞれ自らのランクを示す印が刻まれているとの報告を受けています』
シオン『……頬に?』
兵士『No.Aであれば“A”。No.7であれば“7”』
兵士『ジャック、クイーン、キングにも、それぞれを示す印があるようです』
シオン『…………』
兵士『十三人すべてに共通しているのであれば、偶然とは考えにくいでしょう』
シオン『自分たちが《凶宴-CARD》だと、わざわざ示して歩いているのか』
兵士『……妙なのは、そこなのです』
シオン『?』
兵士『これほど世界中で騒ぎを起こしながら、彼らには自らの存在を隠そうとする様子がありません』
シオン『…………』
兵士『むしろ――』
兵士は、
資料に記された印へ目を落とした。
兵士『“見つけられるようにしている”とさえ思えます』
シオン『見つけられるように……?』
兵士『《凶宴-CARD》という名』
兵士『トランプになぞらえた十三の呼び名』
兵士『そして、頬に刻まれた自らのランク』
兵士『まるで、自分たちを追う者へ手掛かりを与えているかのようです』
シオン『…………』
兵士『彼らにとって、世界で起こしていることのすべてが“遊び”なのだとすれば――』
シオン『……追われることまで、遊びの一つ』
兵士『私には、そう思えてなりません』
シオン『…………』
兵士『国を滅ぼすことも』
兵士『国を救うことも』
兵士『戦争を起こすことも』
兵士『そして――自分たちを追う者が現れることさえも』
兵士『彼らにとっては、同じ“遊び”なのかもしれません』
シオン『……ふざけた奴らだ』
兵士『ええ』
兵士『ですが――』
兵士は、
資料を指差した。
兵士『遊びだからこそ、攻略するための手掛かりを残している』
シオン『…………』
兵士『まるで、“見つけられるものなら見つけてみろ”とでも言うように』
シオン『…………』
兵士『世界は広大です』
兵士『まずは、その頬の印を手掛かりにするとよいでしょう』
シオン『……分かった』
――現在。
シオン「頬に刻まれた……印」
十三人の顔を、
思い出す。
あの日。
城下へ降り立った、
十三人。
遠くから見ただけだった。
一人一人の顔など、
はっきりとは覚えていない。
ただ――
シオン「…………」
一人だけ。
妙に、
記憶に残っている男がいた。
王城から、
十三人を見下ろしていた自分。
その時――
確かに一人だけ、
こちらを見上げた。
シオン「……あの男」
目が合った。
そう感じた。
ほんの一瞬。
だが、
あの視線だけは忘れていない。
シオン「…………」
あの男も、
十三人の一人。
ならば――
どこかにいる。
シオンは、
街道の先を見据えた。
まずは人の集まる街へ。
商人。
旅人。
傭兵。
世界を渡り歩く者たちから、
情報を集める。
頬に、
数字や文字を刻んだ者。
その噂を――
片っ端から追う。
シオン「待っていろ……《凶宴-CARD》」
歩みを進める。
まだシオンは知らない。
自分が追い始めたその瞬間――
十三人にとってもまた、
待ち望んでいた“遊び”が、
始まろうとしていたことを。
そして――
その最初の一枚が、
数年前からすでに、
シオンの存在を覚えていたことを。




