『狂奏の八枚目』【終】
静寂
床に――
転がる楽器
その中心で
No.8は――
仰向けに倒れていた
No.8「…………」
天井を――
見つめる
身体には
シオンの斬撃が――
刻まれている
それでも――
口元には
僅かな笑みが――
残っていた
No.8「…………九つ目」
シオン「…………」
No.8「そんなの――」
一度――
息を吐く
No.8「なかったのにな」
シオン「ああ」
No.8「…………フッ」
目を――
閉じる
No.8「だから――」
No.8「いいのか」
シオン「…………」
その時――
バタバタバタ――!!
複数の足音が――
近づいてくる
「リズ!!」
No.8「…………」
目を――
開く
通路の奥から――
三人の男が
走ってくる
その後ろには――
セイ「いた!!」
セイ「シオン!!」
ヴァン「…………」
セイと――
ヴァン
五人が――
シオンたちの元へ
辿り着く
セイ「うわ……」
砕けた壁
抉れた床
散らばった――
ドラム
シンバル
そして――
倒れている
No.8
セイ「…………終わったのか?」
シオン「ああ」
セイ「…………」
No.8を見る
セイ「派手にやったな……」
ヴァン「…………」
ヴァンは――
周囲を見渡す
そして
シオンを見る
ヴァン「また――」
ヴァン「弾いたか」
シオン「…………」
No.8「…………弾いた?」
ヴァン「ああ」
No.8を見る
ヴァン「お前をな」
No.8「…………」
僅かな――
沈黙
No.8「…………そう」
その時――
「リズ」
No.8「…………」
ボーカルが――
歩み寄る
倒れているNo.8を
見下ろす
No.8「…………何」
「何じゃねぇよ」
No.8「…………」
「勝手に辞めるって言って」
「勝手に正体バラして」
「客めちゃくちゃにして」
「そのまま消えて――」
拳が――
震える
「何してんだよ」
No.8「…………」
「俺たち――」
「お前に《凶宴》を辞めろって言ったんだぞ」
No.8「…………ああ」
「だから――」
拳を――
強く握る
「バンドは――」
「辞めんなよ」
No.8「…………」
答えない
ギターが――
一歩前へ出る
「お前さ」
No.8「…………」
「俺たちのLIVE――」
「そんなに退屈だったのか」
No.8「…………」
少しの――
沈黙
No.8「…………退屈だった」
「…………」
No.8「曲も」
No.8「客も」
No.8「次に何が起こるかも」
ゆっくり――
目を閉じる
No.8「全部――」
No.8「分かってた」
「…………」
No.8「だから――」
No.8「響かなかった」
誰も――
何も言わない
だが――
No.8「でも」
三人が――
No.8を見る
No.8「最後の曲」
「…………!」
No.8「あれは――」
僅かに――
口元が上がる
No.8「知らなかった」
「…………」
No.8「何で――」
No.8「あの曲だったのか」
No.8「何で――」
No.8「あの時だったのか」
ボーカルを見る
No.8「分からなかった」
静かに――
息を吐く
No.8「…………悪くなかった」
三人が――
顔を見合わせる
シオン「…………やっぱりな」
No.8「…………?」
No.8が――
シオンを見る
シオン「お前――」
シオン「ずっと退屈だって言ってたけど」
僅かに――
間を置く
シオン「最後の曲の時は――」
シオン「そんな風には見えなかった」
No.8「…………」
シオン「あの曲を聞いた瞬間――」
シオン「お前」
シオン「少し驚いてただろ」
No.8「…………」
No.8は――
三人を見る
そして
小さく――
息を吐く
No.8「…………そうかもな」
シオン「だったら――」
剣を――
鞘へ収める
シオン「《凶宴》じゃなくても」
シオン「お前の知らないものは――」
シオン「まだあるんじゃないか」
No.8「…………」
その言葉に――
No.8は
床に落ちた――
スティックを見る
ボーカルが――
小さく笑う
「だったら――」
No.8「…………?」
「戻ってこいよ」
No.8「…………」
「また――」
「四人でやろう」
No.8は――
三人を見る
しばらく――
何も言わない
そして
No.8「…………無理だ」
「…………え?」
No.8「俺は――」
No.8「《凶宴》だって」
No.8「何千人の前で言った」
「…………」
No.8「客も――」
No.8「巻き込んだ」
床に――
散らばった楽器を見る
No.8「お前らに――」
No.8「もう迷惑はかけられない」
「リズ……」
No.8「だから――」
No.8「バンドは辞める」
「…………」
静寂
その中で――
No.8「それに――」
シオンを見る
No.8「《凶宴》も」
No.8「抜ける」
シオン「…………」
セイ「…………」
No.8は――
ゆっくりと
身体を起こす
床に落ちていた――
スティックへ
手を伸ばす
拾い上げ――
眺める
セイ「じゃあ――」
No.8が――
セイを見る
セイ「お前」
セイ「これからどうすんだよ」
No.8「…………」
スティックを――
指先で回す
No.8「知らない音を――」
No.8「探す」
セイ「知らない音?」
No.8「ああ」
視線が――
シオンへ向く
No.8「さっき――」
No.8「こいつが鳴らしたみたいな」
シオン「…………」
No.8「俺が知らない音」
No.8「俺じゃ――」
No.8「予想できない音」
僅かに――
笑う
No.8「まだ――」
No.8「あるはずだ」
セイ「どこに?」
No.8「知らない」
セイ「…………は?」
No.8「どこにあるか分かってたら――」
スティックを――
くるりと回す
No.8「探す意味ないだろ」
セイ「…………」
呆れたように――
頭を掻く
セイ「お前――」
セイ「やっぱ変だわ」
No.8「…………そう?」
ヴァン「今更だろ」
No.8「…………フッ」
もう一度――
手の中の
スティックを見る
決められた――
曲もない
決められた――
場所もない
次に――
誰と出会うのか
どんな音を――
聞くのか
何も――
分からない
けれど――
もう
そのために
誰かの命を――
舞台に上げる必要はない
No.8「…………」
顔を――
上げる
その目には――
もう
退屈はなかった




