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《凶宴-CARD》  作者: shogo5


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110/130

『狂奏の八枚目』【10】




     ◇



 ――あの頃



 Requiem:VIIIは――


 売れていた



 LIVEをすれば――


 客席は埋まる



 スティックを振り下ろせば


 歓声が上がる



 曲が終われば――


 名前を呼ばれる



「リズ――!!」


「リズー!!」



 何千もの声が――


 会場を揺らす



 ドンッ!!


 ドンッ!!


 ジャァン!!



 照明が走る



 ギターが鳴る



 ベースが響く



 そして――



 リズのドラムが


 すべてを繋ぐ



ボーカル「いくぞォォォ!!」



「うおおおおおお!!」



 客席が――


 一斉に跳ねる



 腕を上げ



 叫び



 狂ったように――


 音を求める



 その中心で



リズ「…………」



 リズだけが――


 冷めていた



 次の曲



 次の照明



 次の煽り



 どこで客が叫び



 どこで跳び



 どこで――


 自分の名前を呼ぶのか



 全部――


 分かる



 スティックを――


 振り下ろす



 ドンッ!!



「きゃあああああ!!」



リズ「…………」



 ほら――



 やっぱり



 曲が終わる



 歓声が上がる



 アンコールを求められる



 もう一度――


 ステージへ出る



 また――


 歓声が上がる



 そして



 LIVEが終わる



 今日も――



 何一つ



 予想を外れなかった






     ◇






「お疲れー!」



「今日もヤバかったな!」



「リズ、最後のあれ最高だった!」



 楽屋では――


 メンバーたちが笑っている



 スタッフが行き交い



 次の予定を――


 確認している



「次のLIVEなんだけど――」



「明日の昼から打ち合わせで――」



「次の会場は――」



「セットリストは――」



 次



 次



 次――



 全部



 もう決まっている



リズ「…………」



 椅子へ座り



 煙草に――


 火をつける



 スッ――



 フゥ――



 吐き出した煙が


 ゆっくりと――


 天井へ昇る



 売れた



 客も増えた



 大きな会場にも――


 立てるようになった



 欲しかったはずのものは



 ほとんど――


 手に入った



 それでも



リズ「…………退屈」



ボーカル「ん?」



リズ「…………別に」



 煙草を――


 灰皿へ押しつける



 立ち上がり



 一人――


 楽屋を出た






     ◇






 夜――



 街を歩く



 行き交う人



 閉まっていく店



 酔って騒ぐ男たち



 手を繋いで歩く――


 二人組



 通りを走る馬車



リズ「…………」



 あの店は――


 もうすぐ閉まる



 あの二人は


 次の角を――


 右へ曲がる



 あの馬車は――


 大通りを抜けていく



 少しして――



 店の灯りが消える



 二人が――


 右へ曲がる



 馬車が――


 大通りを抜けていく



リズ「…………」



 また――



 その通り



 未来が見えるわけじゃない



 そんな力は――


 持っていない



 ただ



 分かってしまう



 毎日が――


 同じように流れているから



 明日も



 明後日も



 その次も――



 きっと



 同じ



 歩く



 ただ――


 歩く



 どこへ行くかも


 決めていない



 それでも――



 足は止まらない



 やがて



 リズは――


 一つの建物の前で


 立ち止まった



リズ「…………」



 高い――


 建物



 見上げても



 屋上までは――


 よく見えない



 入口は――


 開いていた



リズ「…………」



 中へ――


 入る



 一段



 また――


 一段



 階段を――


 上っていく



 何をしに来たのか



 自分でも――


 分からない



 一段



 また――


 一段



 ただ



 上へ――



 上へ



 気づけば



 最後の扉へ――


 手をかけていた



 ギィ――



 夜風が――


 吹き込む



 髪が揺れる



 目の前には――



 夜空



 そして



 遥か下に広がる――


 街



リズ「…………」



 屋上へ出る



 一歩



 また――


 一歩



 街の灯りを――


 見下ろす



 さっきまで歩いていた道



 人



 馬車



 建物



 全部が――



 小さい



 風が――


 吹く



リズ「…………」



 さらに――


 一歩



 気づけば



 つま先が――


 屋上の縁へ



 下を見る



 暗い



 地面は――


 遥か下



 あと一歩



 前へ出れば――



 落ちる



 落ちれば――



 死ぬ



リズ「…………」



 そこで――



 初めて



 何も分からなくなった



 死ぬって――


 どんな感じなんだろう



 痛いのか



 苦しいのか



 怖いのか



 それとも――



 何も感じないのか



 分からない



 考えても――



 分からない



リズ「…………」



 胸の奥で



 何かが――


 僅かに動く



 知らない



 その言葉だけが――



 頭から



 離れない



 足元に広がる――


 暗闇



 その向こうだけは――



 見えない



 分からない



 知らない



 まるで――



 その暗闇が



 自分を呼んでいるような――



 そんな気がした



 一歩――



 前へ



 風が――


 身体を撫でる



 つま先が



 縁から――


 少し出る



 怖くない



 悲しくもない



 死にたいのかすら――



 分からない



 ただ



 この先だけが――



 分からない



リズ「…………そうか」



 ほんの僅かに――


 口元が緩む



リズ「ここだけ――」



 身体が――



 ゆっくりと



 前へ傾く



リズ「知らないんだ」



 足が――


 地面から離れた






 ゴォォォォォ――!!






 風が――


 耳元を裂く



 身体が――


 落ちる



 街が



 一気に――


 近づいてくる



リズ「…………!」



 目が――


 見開かれる



 風



 浮遊感



 身体を叩く――


 空気



 ドクン――



 ドクン――



 ドクン――



 心臓が――


 速くなる



 あと何秒――


 生きているのか



 次に――


 何を感じるのか



 このあと――



 何が起こるのか



 何一つ――



 分からない



リズ「…………」



 その瞬間



 初めて――



 生きている



 そんな感覚が――


 胸の奥を走った



 リズの口元が



 ゆっくりと――



 吊り上がる



 地面が――


 迫る



 もう――



 間に合わない



 死ぬ



 そう――


 思った瞬間






 ――ドンッ!!!!






リズ「…………!?」



 轟音



 炎



 凄まじい――


 衝撃



 横から襲った爆風が



 リズの身体を――



 弾き飛ばした



 落下軌道が――


 大きく逸れる



リズ「…………っ!!」



 ガシャァァァン!!



 何かを――


 突き破る



 身体が――


 叩きつけられる



 視界が――



 暗くなる



 音が――


 遠ざかる



リズ「…………」



 何が――



 起きた



 最後に――



 そんなことを思いながら



 リズの意識は――



 途切れた

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