『狂奏の八枚目』【4】
ドンッ!!
「オイ!!」
ドドンッ!!
「オイ!! オイ!!」
ギャァァァァン!!
音が重なり――
歓声が重なる。
ステージも
客席も。
巨大な会場全てが――
一つの音に
飲み込まれていた。
ボーカル「もっと来いよォォォ!!」
「うおおおおおおおお!!!」
ボーカル「そんなもんかァァァ!!」
「うおおおおおおおおおお!!!」
ドドドドドドドッ!!
その声を――
さらに押し上げる。
リズのドラム。
激しく――
正確に。
寸分の狂いもなく
曲を刻んでいく。
セイ「…………」
気づけば――
セイもステージから
目を離せなくなっていた。
セイ「なんつーか……」
セイ「すげぇな、あいつ」
シオン「…………」
セイ「普段のNo.8――」
セイ「こんな感じじゃなかったよな」
ヴァン「ああ」
ステージの上。
リズの表情は――
《凶宴》にいた頃とは
少し違っていた。
ドンッ!!
腕が――
大きく振り下ろされる。
ジャァァァァン!!
白銀の髪が
激しく揺れる。
煙草を咥えたまま――
次々と音を叩き込んでいく。
静かで――
気怠げで。
何事にも
興味がなさそうな男。
だが――
ドラムを叩いている時だけは違う。
ドドドドドドドドドッ!!
速くなる。
さらに――
速く。
リズ「…………」
口元が――
ほんの僅かに上がる。
セイ「…………!」
ドォンッ!!
最後の一打。
曲が終わる。
「うおおおおおおおおおお!!!」
「リズーーーー!!!」
「最高ォォォォ!!!」
割れんばかりの歓声。
リズ「…………」
リズは――
客席を見る。
何千もの人間が
汗を流し――
声を枯らし。
笑っている。
熱狂している。
その光景を――
静かに眺める。
リズ「…………」
さっきまで
僅かに上がっていた口元が――
元へ戻る。
また――
同じ。
音を鳴らせば叫ぶ。
煽れば跳ぶ。
曲が終われば――
名前を呼ぶ。
全部――
知っている。
全部――
予定通り。
リズ「…………」
煙が――
ゆっくりと
口元から昇っていった。
◇
ボーカル「…………」
ステージ中央。
ボーカルは――
客席を見ながら
僅かに後ろを見る。
リズ。
いつもの場所。
いつものドラム。
いつものように――
そこに座っている。
何度も――
一緒に立ったステージ。
だが――
今日で最後。
「…………」
ギターも――
ベースも。
何も言わない。
昨日――
リズ「俺が辞める」
リズ「Requiem:VIIIを」
告げられた言葉。
まだ――
三人しか知らない。
「アンコール!!」
「アンコール!!」
「アンコール!!」
客席から
声が響く。
「アンコール!!」
「アンコール!!」
何千もの声が――
一つになっていく。
ボーカル「…………」
ボーカルは
マイクを握る。
ボーカル「まだ――」
「…………!」
ボーカル「まだ終われねぇよなァァァ!!」
「うおおおおおおおおおお!!!」
歓声が――
爆発する。
ボーカル「最後――」
その言葉に――
一瞬だけ声が詰まる。
ギターが
ボーカルを見る。
ベースも――
何も言わない。
そして――
ボーカルは
後ろを振り返る。
いつもの場所に――
リズがいる。
ボーカル「最後の一曲――」
マイクを――
強く握る。
ボーカル「『〜また、この場所で逢えたなら〜』」
リズ「…………?」
僅かに――
リズの目が見開く。
その曲は――
今日のセットリストには
入っていない。
リズ「…………」
ボーカルを見る。
ギターも――
ベースも。
何も言わず
楽器を構えている。
「きゃあああああああ!!!」
「きゃあああああ!!!」
曲名が告げられた瞬間――
会場いっぱいに
歓声が広がる。
やがて――
その声も静まっていく。
リズ「…………」
予定にない曲。
打ち合わせにもない。
昨日まで――
誰も口にしていなかった。
なのに――
三人はもう
始めるつもりでいる。
リズ「…………フッ」
ほんの一瞬――
口元が緩む。
予想していなかった。
次に何が鳴るのか――
分からなかった。
ほんの一瞬だけ。
リズの目から――
退屈が消えていた。
だが――
すぐに
いつもの表情へ戻る。
ボーカルが――
静かにマイクを握る。
ボーカル「…………いこう」
リズは――
スティックを持ち上げる。
カッ――
カッ――
カッ――
カッ――
そして――
トン――
静かなドラムの音。
そこへ――
ギターが優しく重なる。
ベースが――
静かに支える。
ボーカルが
ゆっくりと息を吸う。
Requiem:VIII――
四人で奏でる
最後の一曲。
『〜また、この場所で逢えたなら〜』が――
始まった。




