『狂奏の八枚目』【3】
――翌日。
街の中心部。
セイ「…………すげぇな」
道を埋め尽くす――
人。
人。
人。
その多くが――
同じ方向へ歩いている。
派手な服。
黒を基調とした衣装。
Requiem:VIIIの名が入った
布を肩に掛けた者。
中には――
顔に《VIII》と描いた者までいる。
セイ「これ――」
セイ「全部LIVEの客かよ」
ヴァン「らしいな」
セイ「…………」
セイは――
人の流れの先を見る。
そこには。
街の建物とは――
明らかに規模の違う。
巨大な会場。
その正面には――
大きな文字で。
Requiem:VIII
(レクイエム・エイト)
そう――
掲げられていた。
セイ「No.8――」
セイ「こんな人気あったのかよ」
ヴァン「俺も知らなかった」
セイ「だよな」
普段――
《凶宴》のメンバーが
どこで何をしているのか。
互いに――
ほとんど知らない。
同じ《凶宴》にいながら――
No.8が
バンドのドラマーとして。
これほど多くの人間を
集めていることなど――
二人も知らなかった。
セイ「バンドやってる時点で驚いたけど――」
周囲を見回す。
セイ「想像以上だな」
シオン「…………」
シオンは――
黙ったまま。
会場へ向かう
人々を見る。
笑っている。
友人と話し。
これから始まるLIVEを――
楽しみにしている。
その誰もが。
これから会いに行く男の――
本当の顔を知らない。
シオン「…………行くぞ」
セイ「おう」
ヴァン「ああ」
◇
――会場内。
ザワザワザワザワ――
セイ「…………」
見渡す限り――
人。
幾重にも並ぶ
観客席。
その全てが――
巨大なステージへ
向けられている。
セイ「人多すぎだろ……」
セイは――
辺りを見回す。
あちらこちらから――
「リズー!!」
「早く始まってー!!」
飛び交う声。
セイ「…………」
セイ「マジで人気者じゃねぇか」
ヴァン「…………」
ヴァンは――
ステージを見る。
ヴァン「随分と――」
ヴァン「大きな舞台だな」
セイ「闘技場みてぇだな」
ヴァン「…………」
ヴァン「だが――」
ヴァン「熱気はこっちの方が上かもしれないな」
セイ「確かに」
シオン「…………」
笑う者。
仲間と話す者。
名前を叫ぶ者。
誰もが――
これから始まるLIVEを
待っている。
《凶宴-CARD》。
No.8。
国を滅ぼすことすらある
十三人の一人。
その男を――
これだけの人間が。
今。
笑顔で――
待っている。
その時――
バッ――
会場の灯りが
一斉に消えた。
「…………!」
ほんの一瞬。
静寂。
そして――
「うおおおおおおおおおおお!!!」
ドォォォォォォォォン!!
会場が――
揺れた。
セイ「うおっ!?」
耳を突き刺すほどの――
歓声。
何千もの声が
一つになり。
巨大な会場そのものを――
震わせる。
セイ「すっげぇ……!」
ヴァン「…………」
暗闇の中。
ステージへ――
一筋。
光が落ちる。
そこに――
一人。
また一人。
Requiem:VIIIの
メンバーが姿を現すたび――
「きゃあああああああ!!!」
「うおおおおおお!!!」
歓声が――
さらに大きくなる。
ボーカル。
ギター。
ベース。
そして――
最後。
ステージ後方。
巨大なドラムセットへ――
光が落ちた。
「リズゥゥゥゥゥゥ!!!」
「きゃあああああ!!!」
「リズーーーー!!!」
セイ「…………!」
そこに――
座っていた。
白銀の髪。
黒い衣装。
口元には――
煙草。
両手には――
二本のスティック。
そして。
頬に刻まれた――
《8》。
シオン「…………」
ヴァン「…………No.8」
リズは――
大歓声の中。
静かに。
スティックを――
持ち上げる。
一本。
二本。
頭上で――
交差させる。
カッ――
スティック同士が
ぶつかる。
それだけで――
歓声が。
一瞬。
止んだ。
セイ「…………」
何千人もの観客が――
リズの。
次の一打を――
待っている。
リズ「…………」
その目が――
僅かに。
変わる。
そして――
ドンッ!!
「うおおおおおおおおおおお!!!」
LIVEが――
始まった。
◇
ギャァァァァン!!
ギターが唸る。
ベースが――
低く響く。
ボーカル「いくぞォォォォ!!」
「うおおおおおおお!!!」
その全てを――
支える。
ドンッ!!
ドドンッ!!
ドドドドドドドッ!!
ドラム。
セイ「…………すげぇ」
思わず――
声が漏れる。
速い。
激しい。
だが――
一切。
乱れない。
リズが――
一度。
強く叩けば。
「オイ!!」
観客が跳ぶ。
もう一度。
ドンッ!!
「オイ!!」
また――
跳ぶ。
ドンッ!!
「オイ!!」
何千人もの人間が――
同じ瞬間に。
同じ声を上げ。
同じように――
身体を動かす。
シオン「…………」
シオンは――
その光景を見る。
まるで。
この会場全てが――
一人の男の刻む
リズムに合わせて。
動いているようだった。
ヴァン「…………なるほど」
シオン「…………?」
シオンが――
僅かに視線を向ける。
ヴァン「あいつらしい」
それだけ言って――
ヴァンは
再びステージを見る。
ドンッ!!
リズが――
シンバルを叩く。
ジャァァァァン!!
「きゃああああああ!!!」
歓声。
熱狂。
笑顔。
何千人もの人間が――
リズの音で。
熱狂している。
だが――
シオン「…………」
その中心。
リズ。
正確に。
激しく。
完璧に――
ドラムを叩き続けている。
それなのに。
その目だけは――
どこか。
冷めていた。
リズ「…………」
次に――
ギターが入る。
知っている。
その次。
ベース。
知っている。
ボーカルが――
観客を煽る。
知っている。
観客が叫ぶ。
知っている。
次の音。
次の動き。
次の歓声。
全部――
知っている。
ドンッ――
また。
予定通りの音が――
鳴った。
リズ「…………」
何千人もの人間が。
狂ったように――
叫んでいる。
その中心で。
ただ一人。
リズだけが――
退屈そうに。
次の音を――
刻んでいた。




