『狂奏の八枚目』【2】
リズ「…………やっぱ」
リズ「退屈だな」
「…………」
ボーカル「……何がだよ」
リズ「…………」
ボーカル「何が退屈なんだよ」
リズ「全部」
ギター「…………は?」
リズは――
ドラムセットに座ったまま。
指先で
スティックを回す。
リズ「曲も」
リズ「演奏も」
リズ「LIVEも」
クルッ――
リズ「全部――」
リズ「上手くいきすぎる」
ベース「…………」
リズ「練習して」
リズ「決めた通りに演奏して」
リズ「客が盛り上がって」
リズ「アンコールして」
リズ「終わる」
スティックが――
止まる。
リズ「毎回――」
リズ「同じ」
ギター「お前……」
ギター「本気で言ってんのか?」
リズ「ああ」
ギター「俺たちがどれだけ――!」
ボーカル「やめろ」
ギター「…………!」
ボーカルが――
ギターを制する。
そして。
リズを見る。
ボーカル「今はそんな話じゃない」
リズ「…………」
ボーカル「お前がLIVEをどう思ってるかなんて――」
ボーカル「後でいくらでも聞いてやる」
一歩。
リズへ近づく。
ボーカル「《凶宴》で――」
ボーカル「何をした」
「…………」
リズ「仕事」
ボーカル「それは聞いた」
リズ「…………」
ボーカル「人を殺したのか」
「…………」
スティックが――
ゆっくりと回る。
リズ「ああ」
「…………」
ギター「…………っ」
ベース「マジかよ……」
ボーカル「国を――」
ボーカル「滅ぼしたこともあるのか?」
リズ「…………」
僅かな沈黙。
リズ「ある」
「…………」
誰も――
言葉を発さない。
ついさっきまで。
同じ曲を演奏していた男。
何度も――
同じステージに立った男。
その男が。
今。
まるで――
今日の天気でも答えるように。
国を滅ぼしたと――
口にした。
ギター「お前……」
拳を握る。
ギター「なんでそんな平気なんだよ!!」
リズ「…………?」
ギター「人が死んでんだぞ!!」
ギター「それなのに――」
ギター「なんでそんな顔してられんだよ!!」
リズ「…………」
リズは――
煙草を摘み。
ゆっくりと
煙を吐く。
リズ「もう終わったことだから」
ギター「…………っ!」
ギターが――
リズへ詰め寄る。
ギター「てめぇ!!」
ボーカル「やめろ!!」
腕を掴み――
止める。
ギター「離せよ!!」
ボーカル「殴ってどうすんだ!!」
ギター「でもこいつ――!」
ボーカル「分かってる!!」
「…………」
怒声が――
スタジオに響く。
それを。
リズは――
ただ見ていた。
退屈そうに。
ボーカル「…………リズ」
リズ「…………」
ボーカル「《凶宴》を辞めろ」
「…………」
スティックが――
止まった。
ギター「…………」
ベース「…………」
ボーカル「何があったか――」
ボーカル「全部聞く」
ボーカル「今まで何をしてきたのかも」
ボーカル「なんで《凶宴》なんかに入ったのかも」
そして――
ボーカル「それでも――」
ボーカル「お前が俺たちの仲間なのは変わらねぇ」
リズ「…………」
ボーカル「だから――」
ボーカル「《凶宴》を辞めろ」
「…………」
長い――
沈黙。
リズは。
ボーカルを見る。
ギターを見る。
ベースを見る。
何度も――
一緒に演奏してきた。
何度も――
同じステージに立った。
Requiem:VIII。
その仲間たち。
だが――
リズ「…………無理だな」
ボーカル「…………!」
ギター「お前……!」
ボーカル「なんでだよ」
リズ「…………」
トン――
ドラムを――
一度。
叩く。
リズ「こっちじゃ――」
トン――
リズ「もう」
トン――
リズ「何も――」
そして。
スティックが――
止まる。
リズ「響かない」
「…………」
ボーカル「…………」
リズ「だから――」
リズは
立ち上がる。
スティックを――
片手に握ったまま。
リズ「俺が辞める」
ボーカル「…………?」
リズ「Requiem:VIIIを」
「…………」
ギター「…………は?」
ベース「リズ……?」
ボーカル「待てよ」
リズは――
ドラムセットから離れる。
ボーカル「待てって!!」
その背中へ――
声が飛ぶ。
ボーカル「明日のLIVEはどうすんだよ!!」
リズの足が――
止まる。
「…………」
リズ「…………出るよ」
ボーカル「…………!」
リズ「決まってるんだろ?」
リズ「明日のLIVE」
僅かに――
振り返る。
リズ「それで最後」
「…………」
ギター「お前――」
ギター「勝手すぎんだろ……!」
リズ「…………」
リズ「そうだな」
それだけ言って――
再び。
歩き出す。
ボーカル「リズ!!」
呼び止める声にも――
今度は。
足を止めない。
扉へ向かい――
そのまま。
スタジオを出ていく。
バタン――
「…………」
残された――
三人。
そして。
誰もいなくなった――
ドラムセット。
そこには。
つい先ほどまで――
リズが刻んでいた
リズムの余韻だけが。
微かに――
残っていた。




