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一分間  作者: はるたま
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午前九時二十九分

午前九時二十九分〇秒


葬儀場。


祭壇の花に、


一輪の百合が加えられる。


花屋の店員は、


少しだけ高さを直す。


遺影は、


何も言わない。


泣いている人も、


まだ少ない。


別れは、


「さようなら」の前から、


静かに始まっている。


午前九時二十九分十二秒


新幹線。


窓際の席。


六歳くらいの男の子が、


流れる景色を指差す。


「もう富士山?」


父親は笑って、


「まだだよ。」


と言う。


男の子は、


窓から目を離さない。


楽しみは、


見つけた瞬間より、


待っている時間のほうが、


少し長い。


午前九時二十九分二十五秒


高校。


渡り廊下。


風が吹いて、


掲示板の紙が一枚めくれる。


誰も立ち止まらない。


紙だけが、


今日という日を知っている。


午前九時二十九分四十一秒


港。


係留された漁船が、


波に合わせて揺れる。


出航は、


まだ先。


急いでいない船ほど、


潮の流れをよく知っている。


午前九時二十九分五十九秒


世界中で、


時計の針が、


また一つ進む。


祝福を待つ場所があり、


別れを迎える場所があり、


遠くへ向かう列車が走る。


同じ一分は、


誰にも訪れる。


けれど、


同じ一分を生きる人は、


どこにもいない。

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