第9話 夢ちゃん、爆誕。〜ブスじゃない!再現度が高いだけ!〜
――パッド論争が、ようやく終息した。
守乃ちゃんは
『ブラック天使のさざなみちゃん』。
彩夏ちゃんは
『きゅんきゅん乙女のハヤト』。
守乃ちゃんは――
パッド五枚。努力の結晶。
彩夏ちゃんは――
努力不要の、天然物。
この残酷な真実が共有されたことで、
戦場はひとまず、静けさを取り戻した。
……はず、だった。
「じゃ、みんなで写真撮ろっか~♪」
まのんの一言が、すべての始まり。
――気づけば。
守乃ちゃんの周囲には、
レンズを構えたカメコさんが十人ほど。
彩夏ちゃんの周囲には、
倍以上……いや、三十人近い包囲網。
人数差、歴然。
(……まずい)
守乃ちゃんのこめかみが、
ぴくり、と動いたのを、私は見逃さなかった。
――触らぬ神に祟りなし!
(逃げろ!今すぐ!!)
そう思った、その瞬間。
「……あの」
背後から、声。
振り向いた私に、
カメラを首から下げた青年が、
目を輝かせて言った。
「『この世にブスなんていない!!』の
夢ちゃん……ですよね?」
「なぁ~にぃ~(怒)!?」
私の理性が、音を立てて砕け散る。
「誰がブスですってぇ!?
アンッ!?」
「え? レイヤーさんですよね?」
――プチン。
「ほぉ~…… 私が、地味で目立たなくて、
見た目に自信のない女子高生に見えますかぁ?」
「はい!
ブスいないの夢ちゃんを完璧に再現されてます!」
――ハンマーが、脳内で振り下ろされた。
「顔立ちの再現度!」
→パコーン!
「地味でダサい服装!」
→パコーン!
(この服……
村のまーさんのお店で買った流行りの服だぞ――)
「ぼっさぼさの髪!」
→パコーン!
「昭和感あふれるメガネ!」
→パコーン!
「ぽっちゃり具合!」
→パコーン!
「非モテ女子オーラ!」
→パコーン!
「えっと、それから――」
――ズドン。
私は、地面に突き刺さった。
「てめぇ…… しばくぞぉ……」
這い上がる私に、
青年は、さらに目を輝かせる。
「それです!! 反応まで完璧!!
完全にキャラになりきってます!!」
「これはコスプレじゃねぇ!!
普段通りの私だぁ!!」
「リアル夢ちゃんじゃないですか!!
ぼくの推しなんです!
SNSに載せたいんで、写真いいですか!?」
「だからコスプレじゃねぇっつって――」
「すごい!!
ここまで徹底したレイヤーさん、初めてです!!」
「もぉ!違うってばぁ!!」
「まのん先輩……
やっぱり夢ちゃん、 意識してたんですねぇ?」
――チーン。
香純ちゃんが、完璧なトドメを刺した。
「やっぱりそうなんですね!! 写真お願いします♪」
「……はい。 私は……夢です……」
――シャッター音の嵐。
パシャパシャパシャ。
パシャパシャパシャ。
「はやっ! もうWに載ってますよ!?
『夢ちゃん推し!サンシャインシティ集合!』って!」
香純ちゃんが叫ぶ。
「なぬ!?」
私の血の気が引いた。
「……あれ」
悠斗が、遠くを見る。
――どぉどぉどぉどぉどぉ。
視界の端から、
一眼レフを武器のように構えた猛者たちが押し寄せてくる。
「夢ちゃん!待って!!」
「『しばくぞ』、もう一回ください!」
「あれ……やばくない?」
香純ちゃんが引きつった声を出す。
「夢ちゃん…… 逃げましょう!!」
――誰かに、手首を掴まれた。
引っ張られるまま、走る。
(えっ……? これって……
池袋ラブストーリー的な……?)
「きゅん♡ 王子様登場!?(悠斗か?)」
――と思ったら。
「……厳蔵かぁぁぁい!!」
「ゴラァ!!『まのんランキング』1845位の男が、
私の手を握るんじゃねぇ!!」
もちろん適当な順位である。
「ゴラァ!! その役目は俺だぞぉ!!」
(俺のヒロインを勝手に連れて行くな!)
取り残された悠斗が吠えた。
「俺も夢ちゃん推しなんですぅ」
源蔵――先輩 < 推し
『あれ? 悠斗くん。やっぱりそうなのか?
もったいねぇな。』
――キタのぽん。
「ちょ、ちょっとぉ~!! みんなどこ行くんですかぁ!!
置いていかないでください!!
刑法第218条、 保護責任者遺棄罪ですよぉ!!」
守乃ちゃんの悲鳴。
「こらこら! 僕たちを置いていかないでよぉ!」
彩夏ちゃんも叫ぶ。
『――まのん。
諦めろ。
夢ちゃんになりきるんじゃ(笑)』
キタのぽんが諭す。
『……ぽんこつ。 覚えとけ』
――こうして。
夢ちゃん伝説は、池袋に刻まれた。
次回――
逃げ切れるか? それとも炎上か?
ラブコメは、まだ加速する。




