第65話 体脂肪(ボディファット)の行進
昨夜は――
女将の仕返しイタズラに怯えつつも、
お菓子、アニメ、ゲーム。
合宿最後の夜にふさわしい、
最高にだらけた時間を過ごしたオタ研一同。
そして当然のように。
食べ過ぎた女子が二名。
まのんと、守のんである。
――そして、朝。
「さあ!みなさん起きてください!
ウォーキングに行きますわよ♪」
地獄の号令が、静寂を破った。
「……なんでそんな元気なのぉ……」
寝ぼけたかすみんが布団に沈む。
彩夏がスマホを見る。
「守のん……きみは正気か!?
まだ5時だよ!?」
「何を言ってるの。昨日あれだけ食べたんだから――
今日は15km歩くわよ♪」
その場の空気が、静かに凍りついた。
まのんが小声でつぶやく。
「ムリゲー……私は寝てる……おやすみ……」
その瞬間。
「まのん先輩。昨日の摂取カロリーから計算すると――
このまま寝ればプラス3kgですけど」
「いいんですか!?」
シャキーン!!
まのん、かすみん、彩夏――覚醒。
(※もちろん嘘である)
守のんは満足げに頷いた。
「源蔵。あなたはしばらくそのまま」
昨夜は、悠斗が押し入れ、
女子と同じ空間で寝れた厳ちゃんであるが――
手足拘束+目隠し状態の厳ちゃん。
信用、ゼロ。
「むごい……」
「悠斗先輩は押し入れの中で着替えてください」
――今朝は、悠斗の受難が始まった。
(俺も厳ちゃんと同じ扱い!?)
押し入れの中。
狭い。暗い。そして――外の声が、やたら聞こえる。
「彩夏ちゃん、大きいぃぃぃ♪
さわってもいい?」
(!?)
「いいですけど……少しだけですよ」
(!?!?)
「柔らかぁ~いぃ……」
悶 +10%
「ねえ、かすみんも触ってみて」
悶 +80%
「ほんとだぁ~大きくて柔らかい……!」
悶 限界突破!!!
(やめろぉぉぉぉぉぉ!!!)
そのとき。
「彩夏ちゃん、その“ぬいぐるみ”可愛いね」
――どってぇぇぇぇん!!
押し入れの中で、悠斗が崩れ落ちた。
外では、
「「「ぶふっ」」」
完全に遊ばれている。
「あら~厳ちゃん。何してるのかしら?」
必死で目隠しを外した厳ちゃん。
守のんと目が合う。
「(やばい……!)」
次の瞬間。
頭に袋。
「お仕置きよ♪」
「ヒィィィ!!」
さらに悠斗を追撃。
「守のん、その格好で行くの!?」
「早朝だし、誰も見てないでしょ?」
「でも、悠斗先輩たちがいるよ?」
「大丈夫。男として見てないし」
(ガァァァン……)
悠斗の心に、致命傷。
それでも――
(いや、ワンチャン……!)
襖の隙間に張り付く悠斗。
その瞬間。
がばぁっ!!
襖が開いた。
「はい、証拠確保~♪」
まのん、スマホ連写。
「終わった……」
悠斗の青春が、静かに幕を閉じた。
そして。
玄関前、全員集合。
「さあ!ラジオ体操で準備運動よ♪」
「ウォーキングだけでいいよぉ……」
守のん、聞かない。
♪あ~た~らしぃ~朝が来た~♪
♪脂肪ぉ~の朝ぁ~♪
「さぁ!脂肪燃焼しますわよぉ~♪」
こうして始まった。
オタ研史に残る黒歴史。
――体脂肪の行進。
行進中、悠斗が厳ちゃんに話し掛けた。
「なあ厳ちゃんってさ……守のんのこと好きだよな?」
「あ、はい」
即答。
「でも内緒でお願いします」
「付き合ったら大変だぞ」
「分かってます。悠斗先輩見てれば」
「おい」
少しの沈黙。
「まあな。でも、俺は19年も一緒に居たからね。
まのんのイタズラや暴走が日常になって、
逆に無いと寂しい気がするんだよね。」
「僕からしたら、悠斗先輩とまのん先輩の関係って、
なんかいいなぁって言うか、羨ましい気がします。」
「恋人でもないし、友達でもない。
なんて言えばいいんだろう」
悠斗がしみじみ言った
「俺は苦楽を共にした戦友っていうか、
バディだと思ってる。」
「でも、付き合ってないんですよね。」
以前の悠斗であれば、この一言に動揺していたであろう。
「あぁ、幼馴染の線を越えてないからね。
でも、今はそれでいい。
厳ちゃんこそ、守のんとの関係はどうしたいんだ。」
「僕も今は今の関係でいいと思っています。
この合宿で思ったんです。
今のオタ研の雰囲気っていうか、関係を壊したくない。
って感じです。」
「お互い、時が来たら頑張ろうぜ!」
「はい!」
少しだけ、穏やかな空気。
最初に脱落したのは、食べ過ぎ まのんだった。
「ムリ……もうムリ……」
1km 脱落。
「……しょうがねぇな」
悠斗も付き添い離脱。
かすみん。
「ね、眠い……」
2km 脱落。
彩夏。
「足……上がらない……」
2.5km 脱落。
そして残るは――
「厳ちゃん!あと私たちだけよ!
脱落は許さないわよ!」
「ヒィィィィ!!」
守のん、ペース一切緩めず。
坂道ダッシュ。
腕振り強制。
なぜか途中でスクワット。
「なぜ筋トレ!?」
「脂肪は甘くないのよ!!」
(地獄だ!……けど心地いい)
厳ちゃんに、トドメが刺さる。
「あと5km行くわよ!!」
「ムリゲー!!!」
早朝の伊勢に厳ちゃんの悲鳴が響いた。
しばらくして。
ボロボロになった厳ちゃんが戻ってきた。
足は震え、魂は抜けかけている。
その様子を見て、
キタのぽんが腕を組み、静かに言った。
『……わしは悟った』
『悠斗と厳ちゃん』
……誰もが思った。
「ああ、これは――」
『ドMやな』
一拍おいて。
『確定』




