表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
62/66

第62話  支配者 守のん復活!?

波乱に次ぐ波乱だった合宿初日が終わり。


オタ研一同は、ようやく二日目の朝を迎えていた。


今日は待ちに待った自由行動の日。


コスプレ。  アニメ。  ゲーム。  マンガ。


朝から晩まで、オタ活全開。


誰もがそう信じていた。


――午前五時三十分までは。


「さあ、みなさん! 起きてくださいませ!!

 ウォーキングに参りますわよ♪」


部屋に響き渡る、守のんの高らかな号令。


その声で叩き起こされたオタ研一同は、

枕元のスマホを確認して、絶望した。


「……え?」


悠斗は二度見した。


目覚ましの設定は八時。


なのに、画面に表示されている時刻は――五時三十分。


眠い。


「守のん……まだ五時半だよ……」


布団に半分埋もれたまま、かすみんが眠そうに唸る。


「寝ぼけてるの? まだ寝るぅ……」


そのまま布団を抱きしめ、再び目を閉じた。


だが。


「何言ってるの!?

 昨日、あれだけお菓子を食べて、

ジュースを飲んだんだから!」


守のんは、びしっと人差し指を突きつける。


「運動しないと太るわよ!!」


「「「――っ!?」」」


女子陣の目が、一斉に見開かれた。


太る。


その二文字は、どんな目覚ましアプリより強かった。


「起きる!」


「着替える!」


「五時半でも行く!」


わずか三秒。


女子たちは完全覚醒した。


守のんは満足げに頷く。


「さあ、着替えて、着替えて♪

 悠斗先輩はトイレで着替えてくださいね」


「あ、ああ……」


悠斗は肩を落とした。


ほんの一瞬。


ほんの一瞬だけ。


何かこう、

ラッキーイベント的なものを期待してしまった自分を――

心の底から殴りたい。


また、まのんを悲しませる……


だが、押し入れの中から、別の男が声を挙げた。


「あのぉ~……俺は?」


厳ちゃんである。


守のんは一瞬たりとも迷わなかった。


「厳ちゃんはどうせ見えないから、そこで着替えなよ」


「え?」


「押し入れの中」


「いやいやいや!?」


問答無用である。


「隙間から、ちょっと光入ってるでしょ?」


「その“ちょっと”が、一番キツいんだが!?」


襖一枚の向こう側。


そこでは女子たちの着替えが始まっていた。


「きゃっ、かすみん、ピンク似合うね!」


「そんな大きいサイズって、どこで買うの?」


「守のん……大胆!」


楽しそうな声が、容赦なく聞こえてくる。


そして押し入れの中では。


「くっ……! 見えそうで見えねぇ……!」


厳ちゃんが、わずかな隙間に顔を押しつけながら、

必死の攻防を繰り広げていた。


見えないがその場でにやにやする男子

一人。いや一神。


(わしはまのんの願叶え神やから

 常に一緒が原則。これも仕事や)


本音:神様でよかったぁ~守のんLOVE!!


その時だった。


カチャ。


静かに、押し入れの外鍵が外される。


「……ん?」


次の瞬間。


バンッ!!


勢いよく襖が開いた。


「げっ!?」


そこには、仁王立ちの守のん。


そして。


硬直する、厳ちゃん。


「何を必死に覗こうとしてんのよ!!!」


「ち、違う! これは不可抗力で――」


「アウトですのよ♪」


守のんは、にっこり笑った。


その笑顔に、厳ちゃんの背筋が凍る。


「今晩もアイス食べたいなぁ~」


「わたし、ポテチー」


「唐揚げも欲しい!」


「コーラと烏龍茶もね♪」


女子たちが好き放題に注文を始める。


守のんは頷いた。


「もちろん、厳ちゃんのおごりで♪」


「そんなぁぁぁぁっ!?」


一方。


何もしていない悠斗には、

守のんがにこっと笑いかける。


「悠斗先輩にも、アイス一本あげますね♪」


「……ありがとう」


 この瞬間。


悠斗と厳ちゃんの待遇格差は、決定的なものとなった。


そして。


半ば強制的に始まった早朝ウォーキング。


朝の空気は冷たく、伊勢の町並みは静かだった。


最初の十分ほどは、みんな余裕そうだった。


「でも、守のん。いつも朝に歩いてるの?」


隣を歩きながら、かすみんが尋ねる。


「うん。食べすぎた時は、その分を歩いたり、筋トレしたりするかな」


「へぇ~。だから、あれだけ食べても太らないんだ」


悠斗は、昨日の守のんを思い出した。


ポテチ。  アイス。  ジュース。  深夜のお菓子。


それらを、驚くほどの勢いで平らげていた。


だが、その裏で。


ちゃんと動いていたのか。


(で……その分を歩く、って)


悠斗は前方を見る。


守のんは、軽やかな足取りでどんどん進んでいる。


嫌な予感しかしなかった。


そして。


三キロ地点。


「もう無理……」


まのんが、その場にへたり込んだ。


「あと、任せた……」


かすみんも、電池が切れたぬいぐるみみたいに崩れ落ちる。


「え、まだ三キロだよ!?」


「その“まだ”が怖いんだってぇぇぇ……」


さらに。


五キロ地点。


「はぁ……はぁ……っ」


負けず嫌いの彩夏ちゃんも、ついに足を止めた。


「私は……ここまで……」


「彩夏ちゃんまで!?」


結果。


最後まで歩き切ったのは――


悠斗。  守のん。  そして、なぜか厳ちゃん。


十キロ完歩である。


「厳ちゃんもやるじゃん。」


(後ろから拝む、守のんのプリプリのおかげです。)


心が読めるぽんちゃん

『右に同じく』*本来、まのんに同行すべき


旅館に戻る頃には、

まのん、かすみん、彩夏ちゃんは満身創痍だった。


「はぁ……朝ごはん食べたら、二度寝しようよ……」


まのんが、魂の抜けた声で呟く。


「賛成……」


「もう一回寝たい……」


「寝かせて……」


全員一致。


しかし。


「何言ってるんですかぁ~♪」


守のんだけは、なぜか元気いっぱいだった。


「せっかく伊勢に来たんだから、

朝ごはんのあと、さっそく観光しましょうよ♪」


「昼からでよくないか……?」


悠斗が弱々しく反論する。


だが。


「ダメです♪ 午後はコスプレタイムですから♪」


「支配……復活!?」


キャラが丸くなったように見えても。


やはり守のんは、守のんだった。


「さあ、早く朝ごはんを食べましょう♪」


「えぇぇぇぇ……」


まのんとかすみんが、顔を見合わせて震える。


「今食べたら……キラキラ出る……」


だが守のんは、聞いていない。


「朝食のあと、お風呂も行きましょうね♪ さあ、食堂へ!」


そのまま全員、半強制的に食堂へ連行された。


食堂の入口では。


女将が、朝から不気味に笑顔で待っていた。


「おはよぉ~。よく眠れたぁ?」


その笑顔だけで、嫌な予感しかしない。


「電気風呂は健康にいいからねぇ~♪

 朝ごはんも健康メニューだよぉ~♪」


「……その“健康”って、信用していいやつ?」


守のんが警戒する中。


かすみんだけは、目をきらきらさせていた。


「えっ、朝ごはん選べるの!?」


「和定食と、エスニック定食だよぉ~♪」


「わたしエスニック好きー!」


ぱっとメニューを見た瞬間。


かすみんは笑顔になった。


だが。


その横で。


まのんと守のんの表情が、すっと消える。


エスニック定食。


――妙に赤い。


赤い。


とにかく、赤い。


まのんと守のんは、そっと目を合わせた。


そして。


無言で頷く。


「わたしたち、和定食にする」


「うん。和が一番だよね」


「えー? なんでー?」


 残りのメンバーは、せっかくだし、

とエスニック定食を選択した。


「いただきまーす!」


食堂に声が響く。


だが。


和定食組の二人だけは、妙に警戒していた。


ちらちらと、エスニック組の様子を窺う。


絶対に、何かある。


昨日までの流れなら、絶対に。


だが。


「……あれ?」


かすみんが普通に食べている。


「美味しい!」


 彩夏ちゃんも、普通に食べている。


「辛くないな」


厳ちゃんも平然としている。


「無反応……?」


まのんが眉をひそめた。


「もしかして……」


守のんが、恐る恐る自分の和定食を見る。


「こっち……?」


まのんは、震える手で玉子焼きを持ち上げた。


小さく一口……ぱく。


「…………」


「どうですか?」


「……普通に美味しい」


「えっ、ほんとですか!?」


 守のんも食べる。


「……あ、美味しい!」


「でも守のん、油断しちゃダメだよ」


「はい……」


なぜか和定食を、爆弾処理みたいに慎重に食べ進める二人。


そして。


オタ研一同、無事に完食。


「……何も起きなかった?」


まのん、守のんが拍子抜けした、その時。


食堂の奥から。


「辛ぇぇぇぇぇっ!?」


「痛い痛い痛い!! 口が燃えるぅぅぅ!!」


「水! 水ぅぅぅぅっ!!」


別のお客さんの悲鳴が響いた。


全員が振り向く。


すると。


女将が、満面の笑みで叫んだ。


「当たりぃぃぃぃ!! おめでとうございまぁす!!」


「ハバネロ入り玉子焼きを引き当てたお客様には、

 当宿オリジナルのお茶をプレゼントぉぉぉ♪」


「なんでもいい! 早くお茶ぁぁぁ!!」


「はい、どうぞぉ♪」


女将は、にやりと笑いながら

ペットボトルのお茶を差し出す。


そして。


一口飲んだお客さんが、絶叫した。


「にっがぁぁぁぁぁぁっ!?」


「センブリ茶だこれぇぇぇっ!!」


被害は、ついに伊勢地方へと広がっていた。


その光景を見ながら。


まのんが、ぽつりと呟く。


「……もしかして、これも天井に薄ぅ~く

 書いてあったりして?」


悠斗は、そっと視線を上に向けた。


そして。


「あった……」


天井の隅に、小さな字でこう書かれていた。


『ロシアンルーレット朝食、開催中♪』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ