表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
59/66

第59話 まのん

二人の間には、まだ雨が降っていた。


窓を叩く音だけが、やけに大きい。


誰も、さっきのことを話さない。


それでも――

空気だけが、確かに変わっていた。


「……ポテチ、美味しい♪」


いつも通りのはずの一言が、

ほんの少しだけ、遠い。


たったそれだけで、

全部が違って見えた。


――そのとき。


『まのん』


心に聞こえてきたぽんの声は、やけに静かだった。


『ほんまに、これでええんか?』


少しの沈黙。


『……いいよ』


間。


『本音とちゃうやろ』


『トイレに行ってくる』


まのんは、逃げるように部屋を出ようとする。


『……お願い』


かすれた声。


『それ以上、言わないで』


ぽんは、言葉を止めた。


だが、視線だけは逸らさない。


『……悠斗くんのこと、ほんまに好きなんやな』


『違う』


即答。


けれど――


その先が、続かない。


沈黙。


雨音が、やけに近い。


『……悠斗はさ』


ぽつり、と落ちた声。


『わたしと同じ場所に、いちゃいけない人なの』


『なんや、それ……』


『……いいの』


小さく、笑う。


笑っているのに、どこか歪だった。


『わたしは、ここでいい』


ぽんは、何も言えなかった。


言葉にすれば、全部壊れてしまいそうで。


――雨の音だけが、続く。


『……それで、ええわけないやろ』


低く、押し殺した声。


『まのん』


『お前、自分で自分を切り捨てとるだけや』


『……違う』


『違わへん』


一歩も引かない声音だった。


『悠斗くんを遠ざける理由に、自分を使うなや』


『……っ』


言い返せない。


その沈黙が、答えだった。


ぽんは、歯を食いしばる。


『……ほんまに、好きなんやな』


今度は、否定はなかった。


ただ――


目を伏せたまま、まのんは黙っていた。


その代わりに、ぽつりと呟く。


『……巻き込みたく、ないの』


『わたしなんかといたら……

あの人は幸せになれない』


『だから――』


言葉が、途切れる。


『離れてほしかった。それだけ』


ぽんは、顔を上げた。


『……アホか』


小さく吐き捨てる。


『そんなもん、優しさやない』


一拍。


『ただの独りよがりや』


『……それでもいい』


まのんは、笑った。


壊れそうなほど、静かに。


『それで、悠斗が幸せになるなら』


ぽんの中で、何かが切れた。


『――黙れ、まのん!!』


声が、震えていた。


怒りか、悲しみか、分からないまま。


『わしは、願叶え神や!!』


一歩、踏み出す。


『お前の願いも、逃げも――』


『まとめて全部、ひっくり返したる!!』


まのんが、目を見開く。


『まのんは――』

喉が詰まる。


『……絶対、幸せにする』


『わしは一回受けたもんは、絶対叶える』


静寂。


雨音だけが、戻ってくる。


その中で。


まのんは、ふっと笑った。


涙を、こらえながら。


『……約束だよ』


かすかな声。


『ほんとうに、約束だよ』


ぽんは、力強く頷いた。


言葉は、もういらなかった。


――雨は、まだ止まない。


けれど。


(……まのん)


(お主を選んだことは――)


(間違ってなかったな)


『……なんでだろ』


涙声のまま、まのんが呟く。


『今……ぽんちゃんが、

 悠斗に見える』


まのんは、零れた涙を見せないように、

そっと背を向けた。

肩だけが、小さく震えていた。


ぽんは、一瞬だけ目を伏せて――


『……そら、そうやろな』


悠斗は、まのんの寂しげな表情が、

少しだけ緩んだことに気づいた。


「まのん」


「さあ、みんな!

 伊勢の夜は長いぞ!」


「守のん、厳ちゃんが帰って来たし、

 宴会再開しようぜ!!」


何も知らないまま笑っている悠斗が、

少しだけ、眩しかった。


――明日になれば。

きっとまた、いつもの二人に戻る。


「さあ、ポテチ、ポテチ!!!

 守のんに食べられちゃったから

 キープしなきゃ!」


「まのん先輩、いっぱい買って来たから大丈夫ですよ」


小声で。

「……厳ちゃんのお金で」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ