第57話 守のん、制御不能
暴君支配が終わり――
オタ研に、束の間の平和が訪れた。
露天風呂。
湯気に包まれながら、疲労と恐怖を洗い流す一同。
だが。
「……増えたな」
ぽつりと呟く男が一人。
まのんを熟知する男――悠斗である。
「あの“まのん系……一人増えた……」
嫌な予感しかしない。
その頃、女子風呂。
「まのん先輩から聞いた
唐辛子トイレットペーパーとクッキー、最高ですね!」
「でしょぉ~♪」
「家族と地元で試したら、大ウケでした!」
※被害、関東圏へ拡大中
――そして、悲劇は起きる。
「ぎゃああああああっ!!痛いぃぃぃ!!」
女将の絶叫が、夜の伊勢に突き刺さった。
「なにこれ!?お尻が痛いぃぃぃ!!」
「守乃ちゃん、やったでしょ(歓喜)」
「はい♪ さっきの仕返しです♪」
――黒幕、即バレである。
女将 VS 守乃。
――伊勢の乱、開戦。
そして当然。
その会話は、隣の男子風呂に筒抜けだった。
「厳ちゃん」
「はい?」
悠斗は静かに言う。
「この合宿ではな――
トイレと食い物は全部“罠”だと思え」
「えぇ……?」
「すぐ分かる」
その言葉を証明するかのように――
女子風呂ではすでに合戦が始まっていた。
無限シャンプー。
冷水地獄。
「なにこれぇぇぇ!?」
「冷たいぃぃぃ!!」
被害は無差別。
まのんも守のんも例外ではない。
合戦は場所を移し――
「まのん先輩ぃ~?ポテチとコーラ、
もう無いんですかぁ~?」
「え?」
お風呂から戻った
まのん、凍る。
「……全部、食べたの?」
「はい♪」
――格上、誕生。
守のん。
まのんを超えた瞬間である。
「ねぇ、厳ちゃん。コンビニで買ってきて♪」
「え!?なんでおれ!?」
「もちろん、奢りで♪」
「拒否権は!?」
「ないよ♪」
――即答だった。
一方その頃。
ただ一人、上の空の空男がいた。
(この合宿で――決める)
悠斗は拳を握る。
(まのんとの関係、進めるか――このままか)
(逃げるのは、今日で終わりだ)
だが。
その決意は、最悪の形で幕が開ける。
「悠斗先輩って、まのん先輩のこと好きなんですかぁ?」
――守のん、ど直球。
「なっ……!?」
悠斗、硬直。
「なぁ訳ないだろ。幼馴染だし」
即座に逃げた。
そして。
「わたしもだよ?
悠斗はただのイタズラ対象♪」
まのんも、同じ方向へ逃げた。
(おい、まのん!?)
(ちょっと悠斗、それ本音!?)
二人の心が、すれ違う。
「幼馴染ってさ――
知りすぎてて、一線越えられないんだよ」
(何言ってんだ
おれぇぇぇ!!)
悠斗、セルフ自爆。
そこに、かすみんが奇襲をかけた。
「じゃあさ、守のんは厳ちゃんのことどう思ってるの?」
「おい巻き込むな!!」
守のんは――笑った。
「厳ちゃんは……」
一拍。
「わたしの“イタズラ専用ターゲット”に
してさしあげますわ♪」
「なんでだよ!?」
厳ちゃん、終了のお知らせ。
「じゃあ二人でコンビニ行ってきなよ」
彩夏の一言で――
守のん&厳ちゃん、強制退場。
そして。
空気が、変わる。
かすみんと彩夏が目を合わせ、頷く。
「今日、決める」
合戦。拡大して再開。
「悠斗先輩。付き合うなら――
わたしか彩夏ちゃん、どっちですか?」
まのん、沈黙。
「……いや、それは」
逃げ場はない。
「男なら、はっきりしてください」
悠斗、完全包囲。
(地獄だ……暴君支配時代の方がマシだった……)
その時。
「ちょっと待ってよ」
まのんが、口を開いた。
「好きとか、付き合うとか――」
一呼吸。
「わたしと悠斗は、そんなの超えてるから」
「――他の誰とも、同じにはできないの」
静寂。
「二十年近く、一緒にいるのよ?
だから――」
その言葉だけが、残った。
(まのん……)
悠斗は、静かに息を吐く。
(今は――それでいい)
『……なのに結婚相手の希望は別なんよなぁ』
キタのぽん、核心を刺す。
『余計なこと言うな!』
即ツッコミ。
空気を変えようとする悠斗
「よし!せっかくだし、アニメでも見よう――」
と言いながら、
まのんの表情を確認した時
――パチン。
一瞬の静寂。
暗転。
「……停電?」
次の瞬間。
「守のぉぉぉぉん!!」
濡れ衣である。
もちろん、女将の反撃である。
暗闇の中、
誰かが悠斗の右手を逃げってきた。
震えていた。
(この手の感触、握り方は――
幼い頃から残る感覚)
――分かってる。
悠斗は、その手を握り返した。
その頃、コンビニでは
厳ちゃんの悲鳴が、夜の街にこだましていた。




