第56話 暴君、撃沈す。
合宿地――伊勢。
宿に着いて最初のイベント
オタ活ではなく
「掃除、開始!」
休憩?
そんな概念は、すでに海の底だ。
ほうきを握らされたオタ研一同は、悟る。
――この合宿、終わった。
そして。
疲労がピークに達したその時。
「はい、次」
来た。
“精神修行タイム”
「『守乃によるコスプレ初級講座』を始めます」
食堂に現れたのは――
最新鋭、イージス守乃艦。
「遅い!
自由時間10分短縮。背筋20回追加」
対空防御、完璧。
対人制圧、無双。
もはや誰も逆らえない。
完全制海、制空権、掌握である。
「いいですか。
明日、旅館の庭でコスプレ撮影会を行います」
(強制)
その一言は、誰の耳にも届いた。
無表情の一同。
だが。
心の深海で――
厳蔵とキタのぽんが、静かに輝く。
(守乃ちゃんの……)
(セクシーコスプレ、来るぅ――――!!)
――魚雷発射!
「こらぁ厳蔵!無念無想!!」
厳蔵、大破。
「すみません」
「よろしい」
慈悲、ゼロ。
「では、心構えから説明します」
まのんが、必死に目で訴える。
(まじで何とかして!)
一瞬きゅん――悠斗の心が揺れる。
だが。
(迎撃ミサイル……怖ぇ)
首を横に振った。
終わりである。
講義は続く。
メモを取らなければ――
「腹筋10回追加」
あくびをすれば――
「腕立て10回追加」
寝ようものなら――
「あとで個別指導します」
(それが一番怖い)
こうして。
守乃艦による、完全支配体制が完成した。
そして、次にて始まる――
「コンプライアンス研修です」
誰も逃げられない。
「その1。人の物を盗らない」
ピタッ。
「まのん先輩。新幹線で香純ちゃんのお菓子、食べましたよね」
「すみません」
下剋上。
「その2。整理整頓」
「香純ちゃん。部屋、散らかりすぎ」
「えぇぇ、ごめん!」
瞬殺。
「その3。約束は守る」
「彩夏ちゃん。ゲーム貸す約束、忘れてますよね」
「はい」
無抵抗
「その4。借りたものは返す」
「厳蔵。ジュース代100円」
「あ、財布返してくれたら――」
「言い訳禁止」
終わった。
完全に終わった。
誰も抵抗どころか、
反応する力すら失った。
――その時だった。
「あの~守乃さん。お母さんからお電話です」
救世主、降臨。
女将(コスプレ済)が現れる。
「今は取り込み中です。用件だけ聞いてください」
一瞬、怯んだ守乃ちゃんを見逃さなかった女将
守乃ちゃんはお母さんに弱い。
見切った!
面白くなるわ!
――それが、オタ研夜明けの始まりだった。
女将がニヤリとして
高々に、お母さんからの用件を読み上げる。
「その1! あんた!!
わたしのポテチとコーラ、また勝手に食べたでしょ!」
「え」
守乃艦、HP-500。
「その2!
部屋がゴミだらけだから、汚部屋を掃除するわよ!」
「げぇ!」
-300。
「その3!
紗季ちゃんとの約束、また忘れてたでしょ!」
「あぁぁぁ!」
-450。
「その4!
それに借りたお金、返してないでしょ!」
「…………」
-600。
――沈黙。
守乃艦、機関停止。
だが。
オタ研の反応は。
「……まのん?」
「まんま、まのん先輩だよね」
「ちゃうわ!!」
即否定。
白旗を掲げた守乃艦に――
追撃が来る。
「それと。
“法律探偵JKりっちゃん”のキャラを
外でやるのはもうやめなさい
ずぼらなあんたと真逆じゃない。」
「うぐぅ……」
轟沈。
海の藻屑となる。
「やっぱり!だと思ったのよ~」
女将の追撃が決まる。
「アラフィフ世代のアニメキャラをよく知ってたわね。」
守乃ちゃん、口だけが開いたまま固まった。
シャツが肩からずり落ちる。
無防備。
無力。
「……さあ、露天風呂、行こ」
「どうぞご自由に……」
財布も返却された。
支配、終了。
その時。
厳ちゃんが、口を開く。
「守のん」
「……何よ」
拗ねた声。
「どうせキャラよ。本当は――まのん先輩と同じよ」
「巻き込むな!」
即ツッコミ。
「だからぁ、ちげーよ!」
「はいはい、押し入れで寝るのはわたしです。
それでいいでしょ。」
「何言ってんだ?。おれだよ。」
厳ちゃんは続けた。
「そのキャラいいじゃん。」
一同、止まる。
「好きなキャラに成りきる。
オタクなら普通だろ」
――静寂。
「それの何が悪い。好きなら自分で否定をするな。」
守乃の目が、揺れる。
「厳ちゃん……」
「やりすぎは、よくないけどさぁ」
少し照れながら。
「守のんがなりたい時は、おれたちは付き合うぜ」
守のん 言葉に詰まる。
「ね、悠斗先輩。いいっすよね?」
(振るな!!)
乗らざる得ない悠斗
「そうだな。
いつもはきついけど
オタク同士お互い様だもんな。」
まのん、かすみん、彩夏ちゃんの
厳しい視線が突き刺さる
圧
「まあ、あれだ今夜はみんなでお菓子とジュースで宴会だ!
合宿を楽しもうぜ!」
「わぁ~い!」
ポテチ、コーラに飢えていたまのん
宴会につられたかすみん、彩夏ちゃん。
一斉に風呂へ。
危機回避、成功。
――そして。
『ぽんちゃんは男湯ね』
『え』
『こっちに来たらチクるから』
『そんなぁぁぁ!!』
キタのぽん 神様である。
合宿最大の楽しみ
露と消える。
絶望。
だが彼は誓う。
(この恨み……必ず晴らす……!)
こうして。
合宿は、自由を取り戻した。
――しかし。
誰もまだ気づいていない。
まのんタイプが。
もう一人、増えることの恐怖を。
露天風呂にダイブして、
泳ぎ始める守のん
キャラ全開解放である。
もちろん
まのんもである。
『ごらぁ!泳ぐなぁぁぁ!!』
(あれ?ぽんちゃんが女湯にいる?)




