第55話 守乃ミサイル、発射
部屋割りが決まった。
結論だけ言う。
厳ちゃんは押し入れ。
以上。
「おれの人権は?」
誰も答えない。
いや、答えられない。
そんな微妙な空気を――
ぶち壊したのは、
空気を読むという概念を知らない女子だった。
温泉大好き少女、まのん。
「ねぇねぇ!
早速、露天風呂いこーよ!」
その瞬間。
『ぽんちゃんは着いてくんなよ』
『むごいぃぃ!!(泣)』
ぽんこつ神の悲鳴が、旅館の廊下に虚しく響く。
……だが。
そのときだった。
「お待ちください」
静かな声。
だが、その一言で空気が凍った。
全員が振り向く。
そこに立っていたのは――
合宿の絶対権力者。
守乃だった。
「お風呂の前に」
一拍。
「合宿中の注意事項、行動指針、行動計画をお伝えします」
一同、凍結。
「……え?」
守乃は淡々と言った。
「ではミーティングを行います。
食堂へ集合してください」
そして――
戦艦・守乃。
その砲門が、静かに開いた。
――食堂。
守乃ミサイル、発射。
ヒュウウウウ――
ドォォン!!
「まず注意事項です」
守乃は直立不動。
完璧な姿勢だった。
「みなさん、気が緩みすぎです。
合宿中は常に緊張感を持ち、襟を正し、
他の方々に敬意を持って接すること」
「はい……」
(まだ余裕♪余裕♪)
――と思ったのも束の間。
守乃バルカン砲、起動。
ダダダダダダダダ!!
「移動中、みなさんの様子を観察しましたが、
怠惰な日常生活が読み取れました」
一同、沈黙。
「合宿中は
早寝早起き、間食禁止、
適度な運動、精神の鍛錬を必須とします。」
「はい……」
(無理ゲー)
そして。
守乃、最終兵器起動。
……無音。
「逆に怖いわ!!」
守乃は一枚の紙を取り出した。
「本日の行動計画です」
読み上げる。
「14:00~14:30
旅館周辺の清掃
15:00~
わたくし守乃によるコスプレ初級講座
16:00~
わたくし守乃によるコンプライアンス研修
17:00~
各自オタ活
18:00~
夕食(精進料理)
※肉・油分禁止
19:00~
入浴
入浴20分
体洗浄15分以内
20:00~
自由時間(外出不可)
21:30~
瞑想ヒーリング
腹筋・腕立て20回×2セット
22:00
消灯
翌朝は座禅があります」
――温泉旅行は。
跡形もなく砕け散った。
オタ研、生存者なし。
アーメン。
だが。
そのときだった。
くい。
悠斗が袖を引かれる。
まのんだった。
(なんとかして……)
その目がそう言っていた。
距離が近い。
……ちょっとドキッとした。
だが、まのんはさらに目で訴える。
(アホ!
この暴君を止めろ!)
更にかすみん、彩夏ちゃんの視線が突き刺さる
……仕方ない。
ここは――
俺が行くしかない。
悠斗は立ち上がった。
「守乃ちゃん」
食堂が静まり返る。
「無秩序はまずいと思うけどさ」
守乃がこちらを見る。
悠斗は続けた。
「サークルだし。
初めての合宿だし」
少し笑って言う。
「もうちょっと、ゆる~く
楽しくしてもいいんじゃないかな?」
悠斗、会心の一撃。
の、つもりで続ける。
「ここ、修行僧合宿じゃないよね?」
沈黙。
守乃は悠斗を見つめた。
数秒。
そして言った。
「だから、この行動計画なんですが」
一同。
(聞いてない)
守乃は続ける。
「何か異論がある場合は」
一拍。
「400字詰め原稿用紙
五枚以上で提出してください」
「博士論文か!!!!」
「提出期限は明日朝六時です」
「鬼ぃぃぃ!!」
守乃は完全に無視した。
「では皆さん」
優雅に微笑む。
「早速、清掃を始めますわよ」
玄関前。
生気を失ったメンバーが集合していた。
そこには――
掃除道具を抱えた守乃。
直立不動。
「これから清掃作業を始めます」
旅館前を指差す。
「明法大学の看板を背負っている以上、
手を抜くことは許しません」
さらに続ける。
「近所の方にお会いしたら
大きな声で挨拶すること」
以上。
その横で。
まのんが看板を外そうとしていた。
「まのん先輩」
守乃が言う。
「晩御飯のおかずを減らしますよ」
「それだけは……ご勘弁を(涙)」
完全降伏。
張り子の虎ではない。
張り子のネズミである。
そのとき。
守乃が法被を配った。
背中には大きく書かれている。
『明法大学
オタク文化研究サークル』
一同。
「なんじゃこりゃぁぁ!!(恥)」
すると。
キタのぽんが笑った。
『おぉ~えぇやないの!
わしも欲しいなぁ』
その瞬間。
まのんがニヤリとした。
『ぽんちゃん』
『あんたの姿ってさ』
『わたしが今
欲しいモノ、好きなモノに
なるんだよね?』
『まのん、やめてぇ!!』
まのんは目を閉じる。
念じる。
『法被が好き』
『法被が欲しい』
次の瞬間。
ぽんの姿が変わった。
背中に巨大な文字。
『ぽ・ん・こ・つ・命』
『恥辱ぅぅぅぅ!!(涙)』
そんな騒ぎなど気にもせず。
守乃指揮官が号令を発した。
「では」
静かに宣言する。
「始めますわよ」
こうして――
オタ研一同は
旅館前の清掃を開始した。
「悠斗先輩!
見本を見せてください!」
「厳蔵!
葉っぱが一枚残ってます!」
「まのん先輩!
心がこもってませんわ!」
悠斗・まのん・厳蔵。
「「「無理ゲー!!」」」
守乃の激は続く。
だが。
誰もまだ知らない。
この地獄の合宿が――
まだ序章にすぎないことを。
「誰や合宿を企画したんわ!!」
一同。
その視線が一斉に向いた。
悠斗。
守乃が微笑む。
「合宿の提案者は
悠斗先輩でしたね」
嫌な予感しかしない。
「では先輩」
守乃は静かに言った。
「責任者として
見本を示していただきます」
一拍。
「腹筋五十回、追加です」
悠斗。
「俺ぇぇぇ!?」
冷や汗。
守乃の声が飛ぶ。
「みなさん!
私語厳禁です!」
「腹筋回数を増やしますよ!!」
――ここは本当に。
オタク文化研究サークルで
間違いないのだろうか。




