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第51話 ――合宿(※健全)の始まりは、新幹線と検問から。

オタ研合宿の行き先は、最後まで伏せられたまま。

分かっているのは、ただひとつ。


――とりあえず、東海道新幹線に乗っている。


それだけだ。


旅行気分で、緊張感の欠片もない一行。

ただ一人、異様な緊張感をまとっている人物がいた。


「それでは――始めます

 時間の関係で所持金と手荷物検査を同時にします。」


低く、冷静で、逃げ場のない声。


守乃ちゃんによる、“恐怖の手荷物検査”の始まりである。


「道徳と規則に基づいた健全な合宿を成し遂げ、

 オタ研を“健全なサークル”として大学に認めさせ、

 存続させるためにも――厳しくチェックします!」


ドン、と宣言が落とされた。


「余裕だぜぇ!」

「何も問題ないっしょ」

「ま、形式だけでしょ」


そう高を括っていた面々は、

このあと自分たちが税関以上の洗礼を受けるとは、

まだ知らない。


「まずは――悠斗先輩」


呼ばれた悠斗は、素直に財布と荷物を差し出す。


数分。

五分。

十分。


無言で、淡々と、すべてを確認する守乃ちゃん。


「……財布、手荷物ともに問題なし。合格です」


その瞬間、背後で小声の密談が始まった。


「ちょっと! 悠斗だけで十分も掛かってるわよ!?」

「税関の手荷物検査以上ですよ……(焦)」

「でも私は大丈夫です! たぶん!」

「僕は押し通ります! 権力に屈しません!」


「そこ、静かに」


氷点下の視線が飛ぶ。


「次。まのん先輩。財布と手荷物、すべて持ってきてください」


「……はい」


観念した私が差し出した瞬間。


「――なんですか!? この大量のお菓子とコーラは!!」


「えっ、えっと……?」


「限度額を異常にオーバーしています。

 オーバー分は没収です」


「ちょっと待って!?

 スーパーKTの安売りでポテチ大袋は159円、

 コーラ2ℓは129円だったのよ!?

 それ没収しすぎでしょ!(※嘘)」


「甘く見ないでください。裏付け捜査済みです」


淡々と、そして残酷に。


「先輩行きつけのKT、直近一か月の最安値は

 ポテチ245円、コーラ198円。

 3日分だけでも1329円。

 ――どう見ても規定の倍はあります」


ぐさり。


「部長たるもの、率先して規則を守ってください」


チンチンチンチンチーン!

まのん、完全KO。


(容赦ねぇぇぇ!)


続いて、余裕満々の彩夏ちゃん。


「彩ちゃん。財布はOKです」


ほっとしたのも束の間。


「合宿中、電子マネーHeyHeyアプリは削除します。

 ……五万円も入ってるじゃないですか」


「え?」


「再ダウンロードしていないか、

 3時間おきにチェックしますから」


(検察からスカウト来るぞ!)


彩夏ちゃん、戦意喪失。TKO負け。


三人目、にこにこ笑顔の香純ちゃん。


「かすみん。財布も電子マネーもOK。

 でも――そのポーチを」


「え?化粧品しか入ってないよ〜」


(隠れポケット、絶対バレないし)


「……まだまだ青いわね」


にやり。


「そのポーチ、マリドッゴ製ね。

内部構造はすでに調査済みよ」


「え?」


「ほら。ここ」


指が滑り込む。


「――あらあら。四万円も出てきたわ」


「えぇぇぇ!?」


「合宿中はお預かりします」


「そんな殺生なぁぁ……!」


「あと、このランジェリーは風紀違反で没収します」


(まさに検察じゃん!)


ピィー!

テクニカルフォール10対0!

守乃選手、圧勝!

香純選手、現役引退!!


こうして、

お菓子も金も没収された三人の怨嗟が渦巻く中。


「……次、厳蔵」


全員が息を呑む。


しかし。


「財布、電子マネー、手荷物――

 すべて規定通り。合格です」


「……え?」


(なんで!? 今日こそ引導を渡すつもりだったのに!

 でも厳蔵のことだから、絶対何かある……

 合宿中に見破ってやる!)


奇跡の“一発合格”に、一同は首を傾げる。


その直後、悠斗が厳蔵を連れ出した。


「なあ厳ちゃん。どうしたんだ?

 君が守乃ちゃんの規則を守るなんて」


「まあ……新作ゲーム買って金欠なのもありますけど」


苦笑しながら、厳蔵は続ける。


「守乃のやり方、強引で敵も多い。

 でも――このオタ研を守るためでしょう」


悠斗は黙って聞く。


「自分を犠牲にしてでも大事なものを守ろうとする人間を、

 僕は守りたいんです」


「……分かった」


悠斗は頷いた。


「守乃ちゃんが、犠牲にならなきゃいいんだな」


そして、女子たちの元へ。


「まのん、彩夏ちゃん、香純ちゃん。

 この件は、初合宿成功のために

 副部長兼部長補佐の俺が承認したことだ

 理解してくれ。」


(決まった……!)


だが、その瞬間。


「――ちょっと待ってください、悠斗先輩」


冷たい声。


「その白い靴下、何ですか?

 中高生じゃあるまいし。

 黒パンツに合わせるとか、成人としての自覚はあるんですか?」


一拍。


「あと三年で社会人ですよ?

 ……嘆かわしいです」


「……え?」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


チンチンチンチンチーン!

悠斗、精神的轟沈。


――健全な合宿は、

こうして血みどろのスタートを切ったのだった。

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