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第44話 聖女は二刀流――その矜持を、守るために

肩から腰へと流れる純白の布、胸元に輝く蒼の聖紋。

――ソヌティの守乃は、そこにいた。


そして、その隣。

銀糸の装飾が施された軽装鎧に、双剣を携えた清廉な戦乙女。

フィテナの彩夏。


並び立つ二人は、まさに――

『史上最強の聖女は二刀流の達人だった』

その世界から抜け出してきたかのようだった。


完成度、圧倒的。


――いや、これはもう“完成度”なんて言葉じゃ足りない。

キャラへの理解、解釈、そして覚悟。

どこからどう見ても、本物の聖女戦士だ。


『いやぁ……守乃ちゃん、ええなぁ……』


思わず漏れた感嘆は、もちろん健全な意味である。

もちろん、コスプレの完成度の話だ。ほんまやで。


『嘘こけ。どうせ守乃ちゃんLOVEやろ。ぽん!』

『だから今回も、まのんの出番はないってゆうてるやろ!』


軽口が飛び交う中――

遠く、神界から覗く視線が一瞬だけ揺れた。


(げっ、バレてる……気配を消さんと……

 ……なんや、香純ちゃんおらんやん)


その頃の香純は、くしゃみを一つ。


「へっくしょん!

 ……あら、寒気? 風邪っていうより、なんかキモ寒いわね……

 今日はお家で大人しくアニメみよっと♪」


平和である。


――そのとき。


「おーい! 守乃! 彩夏ちゃん! こっちこっち!」


人混みの向こうから手を振る男がいた。

厳蔵――通称、厳ちゃんだ。


「ちょっと厳蔵!

 また私だけ呼び捨て!?

 彼女みたいでキモいんだけど!!」


「じゃあ、もりのんでいいか?」

「……呼び捨てでいいわ」


――確かに。


「厳ちゃん、早く来て何してたの?」


「撮影場所の確認。

 どうせやるなら、いいロケーションで撮りたいっしょ?」


「余計なことを……」


「いいじゃない。

 せっかくここまで再現できてるんだから、

 いい場所で撮ってもらおうよ」


彩夏の一言で決まった。


「じゃ、まずは赤煉瓦倉庫前ね」


――結果。


カメラを構えた人々が、次々と集まってくる。


ポージングに集中する二人。

周囲を見渡し、動線を整理し、声を掛ける厳蔵。


厳蔵の動きに気付いた守乃。


――ああ、こいつ。

こういうとき、やたら頼れる。


……認めたくないけど。


その時だった。


「……すみません。

 ローアングルの撮影はやめてください」


守乃の声が、場の空気を変えた。


「ちょっとくらい、いいだろ」


「ダメです。

 モラルを守ってください」


「お前らだって、見せたいんだろ?」


その瞬間、守乃は一歩、前へ出た。


「違います。

 コスプレは――キャラクターを再現する芸術です。

 性的なものじゃない。

 不純な目的なら、それは冒涜です。

 お帰りください」


「気取りやがって……!」


吐き捨てるように男は言った。


――守乃は涙を浮かべた


「……なんで……」


守乃の声が、震えた。


「なんで……なんでぇ……!」


悔しさと、怒りと、無力感。

聖女衣装を握りしめた。


その横に、影が並ぶ。


「守乃。

 ここからは俺の役目だ」


厳蔵だった。


「守乃、頑張ったな。ここからは俺の役目だ。

 お前が好きなコスプレを守りたいなら、一緒に戦ってやる!

 悔しいなら隣にいてやる!

 弱いくせに逃げたくないなら、俺がお前を守ってやる!」


一瞬、場が静まり返る。


「――俺も、オタク文化が好きだって証明させろよ」


そして、厳蔵は男の前に立ちはだかった。


「はーい。

 規則守れない人は、スタッフ呼びますねー。

 ここ、神聖なイベント会場なんで」


「なんだよ、お前!」


「帰る前に、撮影データ見せてください」


男からカメラを取り上げ、

確認後、厳蔵は顔を歪めた。


「……ふざけんな。

 ソヌティとフィテナの合わせを、汚しやがって」


データは削除され、男はスタッフに引き渡された。


――見直した。


『……いや、ちょっと待て。

これ、惚れる流れやん。

それはあかんで。』

焦る キタのぽん


イベントは、その後何事もなく終了。


守乃は、厳蔵と目を合わせられずにいた。


その時、彩夏が言った。

「厳ちゃん、今日撮った画像を見せて?」


厳蔵と私はお互いに嫌いなはず。

でも、厳蔵は身をていして


私の大切なものを守ってくれた――


「……私も、見たい」

ためらいながら守乃が言った。


だが、その瞬間。

彩夏が叫んだ。


「ちょっと!?船の画像ばっかで

 二人の写真、一枚ずつしかないけど!」


「だって俺、今日の目的は――

 大桟橋に停泊中の客船『ルナ・クレセント号』だし」


「……は?」


「俺、客船オタクなんだよね♪」


――クソ厳蔵。


「ゴラァ!

 一番コスプレ冒涜してんの、あんたじゃない!!」


「なんだよ、守のん!!」


「あーあ……また始まった。

 今日は止める人いないから、

 昭和の喧嘩やっといて♪」

見物人 彩夏


(厳蔵とのバトル……嫌いじゃない)

心が揺れる守のん


――なお。


厳蔵のスマホの壁紙が、

今日の守乃ちゃん画像に変わった。


……ほんと、クソ厳蔵。

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