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第37話 いざ蒲田、時給を賭けた桶狭間

あぁ……金がねぇ。


ポテチとコーラを、オタ研の人数分。

それだけで、財布が悲鳴を上げる。


学校で買うと、なんであんなに高ぇんだよ……!

スーパー価格を知ってる身には、もはや暴力である。


(ざまぁみろ!デビルまのん!!)

――キタのぽんの声が、脳内に響いた。


財布の中身を改める。


千円札――北里さんが、お一人。

十円玉――平等院鳳凰堂が、三棟。


……以上。


『泣いていい?ぽんちゃん』


『泣く前に反省しんしゃい。

 口軽まのん!!』


ちっ。

仕方ねぇ……バイト、行くか。


だが、行ったら行ったで、面倒な問題が待っている。


モンペ食堂――通称モンペキャバクラ。

そこで繰り広げられる、カネ婆とのNo1争いだ。


正直、ダルい。

めちゃくちゃダルい。


……けど。


オタ研合宿。

そして――ドイ照れのフィギュア。


それを考えたら、今日は最低でも五時間は入らないと。


『働け!働け!ヘタレまのん!!』


ぽんは、うるせぇなぁ。


時給計算をする。


千円札北里さん×二人×5時間。

=渋沢さん、一人。


「……はぁ」


元の時給で、千円札三枚だったら。

一万五千円!!(血涙)


*かつてNo1だった私は、

 新入りの六十四歳・カネさんに敗れ、

 No2へ転落した結果、時給を下げられている。


「くそぉ……カネ婆……!」


「No1は、必ず取り返す。」


『負けろ負けろ!No2のまのんさ〜ん♪』


――ぱこーん!


キタのぽんの頭に、いい音がした。


『ごめんなさい……(涙)』


本来、ぽんは3D画像のはずなのだが……

私の気合(物理)は次元の壁を超えるらしい。


よし。


「さぁ!いざ蒲田!出陣!!!」


『お、川中島の戦い・第二戦か!?』

『ふん。敵に情報を漏らすか!』


さて、と。

喜兵柄じいに連絡しとくか。


「あ、喜兵柄じい?金欠だからさ。

 今からバイト入っていい?」


「おぉ!まのんちゃん、いいよ、いいよ♪

 カネさんも居るし、No1とNo2揃い踏みだな。

 今日は満席、大儲けだ♡」


「なら、時給を上げろ!!」


「No1に返り咲いたらね♪」


「……喜兵柄じい。

 私が今から行くこと、みんなに内緒でね。」


『おい、まのん。策でもあんのか?』

『ないよ〜』


『え?』


『出たとこ勝負。

 その場、その時の状況に応じて、判断して動く!』


(また始まった……)


その頃――

昭和レトロ・モンペ食堂では。


No2まのん軍の出陣を知らぬまま、

激戦が繰り広げられていた。


No1・カネ婆。

対するは、No3トミさん、ヨネさん、よしさん連合軍。


だが――


「……無理よ……」


カネ婆の圧倒的な戦力に、

連合軍は次々と崩れていく。


「まのんちゃん……あとは任せたわ……」

――トミさん(八十一歳)は、静かに戦線を離脱した。


「ふん!」


カネ婆は、胸を張る。


「若さ(六十四歳)だけでも、

 あんな平均八十二歳の連合軍、敵じゃないわ!」


「まのんちゃん?

 私の魅力が怖くて、出勤できないんでしょ♡」


完全勝利――余裕の笑み。


そして。


カネ婆、熟練の接客技が炸裂する。


「さくじい♡

 痛風持ちなんだから、納豆は控えて。

 めかぶにしなさい。ひじき煮もつけるわ♪」


「かめ爺、年金入ったでしょ?

 今日は水じゃなくて、みかんジュース♡」


「兼次郎!

 七十五でその小食はダメよ!

 マスター、親子丼追加!」


「あいよぉ〜!」


(……さすが稼ぎ頭No1)


「兵力……ざっと二万五千の売上……」


だが――

調子に乗っている。

油断している。


そこが、命取りだ。


そのとき。


大雨の蒲田に、

(所持金1030円の)軍勢が迫っていた。


雨音が、ふっと途切れた。


その沈黙こそが――合図だった。


「――みなの者!」


織田まのん、雄叫びを上げる。


「敵は我らに気付いておらん!

 ここを――桶狭間とする!」


「おぉぉぉ!!」

(※自分で)


「今川カネの墓場にしてやれ!!」


「おぉぉぉ!!」

(※自分で)


『川中島じゃなかったんかーい!』

はばかれたキタのぽん


「かかれぇぇぇぇ!!」


『誰に言ってんの!?』


こうして。


川中島ではなく、

桶狭間の戦いの火蓋が切られた。


――だが。


この奇襲が、

織田まのん軍の運命を、

大きく狂わせることになるとは。


まだ、誰も――

知る由もなかった。

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