第29話 昭和レトロの戦場(モンペ)
くしゅん。
……くしゅん。
「……はぁ」
ダイエットが進まないことで、
彩夏ちゃんにがっつり怒られた。
それだけでも十分に心が削られているというのに――
――悠斗の野郎。
香純ちゃんに、あんなにデレデレしやがって。
思い出すだけで、眉間に力が入る。
でも!
そんな沈んだ気分も、ここからは切り替えよ!
なぜなら、この後は――
『昭和レトロのモンペ食堂』出勤♪
通称、モンペキャバクラ。
私はそこで働く、看板娘――いや、ナンバーワンだ。
(よし。お爺ちゃんたちに慰めてもらお~っと♪)
私は胸を張り、引き戸に手をかけた。
「さて、この扉を開けた瞬間――
お爺ちゃんたちの歓声の嵐が――」
がらがらがらがら。
……。
……あれ?
店内に響くはずの――
「まのんちゃーん!!」
という黄色い――
いや、だみ声の歓声は、どこにもない。
代わりに目に入ったのは、店の中央で一か所に固まって
輪を作るお爺ちゃんたちの姿だった。
「……?」
その輪の端にいた、ひろ爺が私に気づく。
「おう!まのんちゃん、久しぶり!」
――以上。
え。
反応、それだけ?
(あれ?私はナンバーワンのまのんよ!?)
『なんか、いつもと雰囲気が違うで?』
隣で、キタのぽんが首をかしげる。
『あ、ほんとだ!
今日のぽんちゃん、一万円札に見える!』
『いや、わしの雰囲気やのうて……
それ、まのんが今、金が欲しいってことやで?』
なお、キタのぽんの姿は
その時点での私の「欲しいもの・好きなもの」に
見える仕様である。
『だって金欠だもん!
だから、仕方なくバイトに来たんじゃん!!』
すると――
お爺ちゃんたちの輪の中心から、
一人のお婆ちゃんが、優雅に抜け出してきた。
「あらぁ~、初めましてぇ~」
にこり、と完璧な営業スマイル。
「あなたが……
ナンバー2、売上序列二番のまのんちゃん?
お可愛いこと♪」
……。
「私は、
ナンバー1、売上序列一番のカネよ。
よろしくね」
「――はぁ!?」
思わず声が裏返った。
(なんだぁ!こいつ!!)
その直後、
奥から慌てた様子で駆け寄ってきたのは――
ナンバー3のトミさん。
「まのんちゃん!大変なのよぉ!」
「どうしたんですか?」
「まのんちゃんが居ない間に、
あの子が入店してきて……」
「一週間でナンバーワンになって、
威張り散らしてるの!」
「えぇっ!?」
「十九歳のまのんちゃんには負けるけど、
私だって、あんな子に負けるはずないのに!!」
拳を握りしめる、八十一歳。
「まのんちゃん、仇を取って!!」
(仇って……)
「あの……カネさんって、どんな人なんですか?」
「まあ、私に比べたら下の下なんだけどね。」
いや。上の上である。
そこから始まる、止まらない輝く経歴。
――六十四歳。
――若い頃、ミス穴守稲荷。(局地的)
――銀座のホステスで元ナンバーワン。
――保険セールス全国一位。
――年金予定額 月19万円
「……まあ、私の足元にも及ばないわ♪
なのに、なんであの子が一番なのよ!!」
(トミさん……
もういい。やめよう……)
(全部、負けてる……
っていうか、惨敗……)
(年金は知らんけど)
そのとき。
「おーい、まのんちゃん!
早よぉ、三つ編みにして、モンペ履いて働けや~」
喜兵柄じいの声が飛ぶ。
「あいよ~!
まかしといてぇ~!」
――が。
「あ、そうそう。
まのんちゃん、ナンバーワン陥落したから」
嫌な予感。
「今回から、時給二千円ね♪
売上トップに返り咲いたら、戻してあげるよ」
……。
「え?……えぇぇぇ!?」
(レコレコのたきえちゃんのフィギュアが……
遠のいてゆく(涙))
時給三千円から、二千円。
現実は、容赦ない。
その瞬間――
お爺ちゃんたちに囲まれたカネさんが、ニヤリと笑った。
(……くそ)
「見とけ!!おカネさん!」
(――ここで引き下がったら、私は終わりだ)
私は、気合を入れる。
三つ編みにして、モンペを履いて――変身!
『レトロモンペまのん!!!』
ジャンプ!
「トオゥ!!!」
『よっしゃ!わしが登場曲入れたる!!』
“ぽん、ぽこ、ぽこぽこ、ぽんぽん!”
『ゴラァ!
笑点やないかぁーい!!』
“デデデン、デデデン……”
『ゴジラやんけぇ!!』
“ちゃちゃちゃちゃちゃちゃ、ちゃんちゃん!”
『新喜劇やろ!!』
『もうええわ!』
『それ、わしのセリフや!!』
喜兵柄の激が入る。
「こらぁ!まのんちゃん!
はやく働いて!!」
「はぁ~い……」
――さぁ。
ナンバーワンを懸けた、
まのん vs おカネさん。
昭和レトロの戦が、
静かに――そして確実に、始まる。




