第23話 ――酷薄(こくはく)という名の勘違い
酷薄
情け容赦がなく、
思いやりがまったくないこと。
――今なら、辞書を引かなくても分かる。
その言葉が、何を指しているのかも。
まのんからの“告白”は、
今でもはっきり覚えている。
俺にとっては、尊くて、甘酸っぱくて、
一生抱えていくはずだった大切な思い出だ。
中学三年の春。
ブレザーにネクタイという、
少し大人びた制服。
二人だけの朝の教室で、
俺のネクタイが緩んでいるのに気づいたまのんが、
無言で近づいてきて――直してくれた、
その時だった。
うつむきがちで、
頬を赤らめ、
照れた表情を髪で隠しながら。
まのんは、確かに小さな声で囁いたんだ。
「悠斗。スキ♡」
――あの瞬間。
世界が止まった。
せっかく勇気を振り絞って告白してくれたのに、
俺は動揺して、顔が真っ赤になって、
何一つ、言葉を返せなかった。
……情けない話だ。
『それね……ネクタイ直すふりして、
悠斗の嫌いな虫を、
ネクタイの裏に仕込んだだけなのよ』
『なにやっとんねん……』
――キタのぽん
『それでね?
にやけ顔がバレるといけないから、顔を隠して
「悠斗。隙、すき……あり(笑)」
って言ったのよ』
『おい!まのん!!
悠斗君、完全に勘違いしとるやろ!?
どないすんねん!!』
『え~?放置プレイでよくない?』
『鬼か!!』
『いいの、いいの♪
悠斗って超モテ男なんだもん。
そのうち、もっといい人が簡単に見つかるでしょ♪』
『でも、それ以来や。
悠斗君、他の女の子の告白、全部断っとるやろ?
超・本気やで?
やっぱ、悠斗君でええやん!?』
(そうすれば、まのんから解放される♪)
『無理無理~!
今さら悠斗の彼女とか、結婚とか想像できないよ~。
それに、私には三澄君がいるの。
三澄君は特別な“王子様”なんだから♡』
――ゴラァ!!
まのん!!ぽんこつ!!
今は俺の改装中だ!!
いや、回送。
じゃなくて、海藻。
とにかく、しゃしゃり出てくんな!!
……コホン。
実は、まのんはまだ知らない。
俺とまのんは、
親同士が認めた、ほぼ許嫁みたいな関係だ。
特に、俺の親は――
異様なほど、まのんを気に入っている。
『悠斗君は超優良男子やで!
まのんには、もったいないくらいや!!』
『うん、それは分かってるよ。
だからこそ、
悠斗には香純ちゃんが合ってると思うんだ』
(こんな真剣なまのん――見たことない)
『あぁ、あのぶりっ子乙女か。
確かに、相性は良さそうじゃな』
『そうそう♪
香純ちゃんみたいに――
ちょっと抜けてて(+150p)
空気が読めなくて(+250p)
結構ずぼらで(+350p)
無駄に胸が大きくて(+210p)
めんどくさくて(+300p)
ずぼら度(+500p)
……そういう子が、悠斗には合ってるんだよね~♪』
――ピーーーッ!!
警告!警告!!
ぽんちゃんの堪忍袋がキャパオーバー!!
『それ全部!!
まのんやないかぁぁぁぁい!!
しかも全項目、まのんの方が数値高いんですけどぉ!?
つまりや!!
悠斗君には、まのんが一番お似合いちゅーことや!!』
だが、まのんは冷静だった。
『分かってるよ。
それでも、私には三澄君がいるの。
三澄君には、私が必要なの。
……あぁ、私って、なんて罪な女♡』
『なぬ!?
三澄君と、何かあったんか!?』
『今は言わなぁ~い♡
三澄君と私だけの……
ひ・み・つ♡』
『ひ・み・つ♡
キモぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!(おえ)』
『何よぉ!?キモイだと!?
ぽんちゃんだって神様なのに、
守乃ちゃん追っかけ回してるでしょ!』
『相手にされるはず無いのに!!
キモぉ~♪』
――こらぁ!!
キモコンビ!!
漫談はそこまで!!話を進めるぞ!!
――悠斗
『『あ、すんまへん』』
――まのん&ぽん
それでだ。
俺の両親は東京で仕事をしていて、
俺は村で、爺ちゃん婆ちゃんと三人暮らしをしていた。
両親は、二人とも超がつく堅物だ。
俺の彼女、そして将来の奥さんに求める条件は――
多すぎる……言い出したら、キリがない。
――ようは、
完璧な女性であること。
なのに。
なぜ、まのんを気に入った!?
両親は村に年に数回しか来ない。
まのんに会った回数だって、
せいぜい一、二回のはずだ。
――それでも。
両親は断言する。
「悠斗の嫁は、あの子しかいない」と。
……なあ、誰か教えてくれ。
俺は一体、どうすればいいんだ?
どうしても幼馴染の壁を超えることが出来ない。
俺は……まのんを振り向かせたい。




