第21話 ヒロイン、完全敗北
「まのん! そろそろ学校行くぞ!」
悠斗の声が、玄関に響いた。
「そうですわね。参りましょう」
優雅に返事をしながら、まのんはバッグを手に取る。
「ちょっと、このバッグ――
わたくしのではありませんわ。」
ぽんがにやけながら言った。
『あぁ、それまのんのやで。
バイト代で昨日、仕入れておいてやった。』
確かに、財布が軽くなっている。
『だから、フィギュア代って言っただろ!
2か月も我慢したんだぞ!』
『無限タワマンニートとたかだか二か月の我慢。
どっちを選ぶんじゃ?』
『くそぉぉぉ、ミッションクリアしたら
絶対、復習してやる!』
『それ“復讐”やで(笑)』
もはや夫婦漫才である。
「まのん、早くしろよ。行くぞ!」
「ごめんあそばせ。今、参りますわ」
「……今日もその喋り方かよ。正直、抵抗あるな」
(本気で“夢ちゃん”になるつもりなのか?)
「さぁ、参りましょう」
『でもさ、ぽんちゃん。この喋り方……
自分でも正直、まじ気持ち悪いわ……』
『エリート妻への第一歩や。慣れなはれ♪』
大学構内。
「ごきげんよう♪」
「ごきげんよう♪」
「ごきげんよう♪」
……何度も繰り返すが、
「おはよー」
「うっす」
まのんの変化に対する反応は――
驚くほど普通になっていた。
「あれ? ザワつきがないぞ?」
不思議がる悠斗。
「私が淑女だと認識されたってことかしら?」
調子に乗るまのん
『ちゃうちゃう。
単に、まのんに興味がな・い・の♪』
ぽん。それを言っちゃ、おしまいだ。
そして午前の授業。
教授の声は、安定の子守唄。
眠い。だが寝られない。
地獄の時間を耐え抜いた、その先に――
待ちに待った昼休み!!
(胃袋――もう完全回復よ……!)
心の中でガッツポーズ。
――生姜焼き定食。
――ご飯大盛り。
それが、私の叶うことのない願望だった。
「すみませ~ん。
ヘルシー定食、ご飯少な目でお願いします」
『ゴラァ!!
ぽん!! 腹減っとんじゃ!!』
『はぁ~?まのんちゃんはダイエット中でちゅよねぇ~
太った分は取り戻さないとねぇぇぇ♪』
『くそぉ……またあの手(師匠へチクる)しかないか――』
(いや、そうだ!
悠斗に生姜焼きを頼んでもらえば――私、天才♪)
(……無駄なこと考えてるなぁ。
わしはまのんの心が読めるんじゃ。)
(でも、そんな手があったか!?)
キタのぽんが先手必勝で、ふっと風をおこした。
「ねえ悠斗くん。
このシュウマイ、食べてくれない?」
(ゴラァ! 私!なにを言ってんだぁ!)
「え!? いいのか!?
あとで返せとか、倍返しとか言わないよな!?」
(そこまで信用ないのか? 私……)
『っていうか!!
ぽん!! 唯一の肉系おかずじゃねーか!!』
『知らんがな♪
美味しそうな葉っぱあるやん♪』
『こんなんじゃ、腹もたないよぉ……』
『おや?
デビルまのん、弱っとる?』
そのときだった。
「まのん先輩と悠斗先輩♪ こんにちは~」
来た。
空気を読まない女――香純ちゃん。
「あれぇ~?まのん先輩
今日もダイエット食ですかぁ?
でも、昨日より太ってません?」
(やめろ香純ちゃん!! そこは地雷だ!!)
(このクソぶりっ子ぉ!少しは忖度はないんかい!?)
まのんの怖さを知るぽんが怯える。
(あかん! まのんの頭から水蒸気出とる!!)
「あら……そう?
気のせいじゃないかしら」
まのんは微笑む。
「わたくし、一度決めたことは守り通しますの」
(嘘つき)
悠斗とキタのぽんが一致した。
「でも~、ダイエットすると
バストも小さくなるって言いますよぉ~?」
「唯一の取柄の巨乳、なくなっちゃいますよ♪」
(終わった……)
頭を抱える悠斗
(ええツッコミやん!)
喜ぶキタのぽん
そこへ――
「香純さん。それは侮辱罪よ」
救世主、守乃ちゃん登場。
「我らがオタ研部長・まのん先輩の取柄が
巨乳だけなんて、あり得ないわ!」
(……いや、守乃ちゃん。これは勝ち目ない)
首を振る悠斗
「じゃあ言ってみてぇ♪
まのん先輩の良いところ」
「それは――」
守乃ちゃんは、即答した。
「巨乳でしょ。
それと、巨乳でしょ。
あと、巨乳でしょ。
最後に……巨乳」
(ほらな)
ため息をはく悠斗
(全部一緒やん♪)
笑いを堪えるキタのぽん
だが――香純は我々の想像を超えてきた。
「えぇ~♪
そんなに取柄があるんですねぇ~♪」
「でしょ? 私、凄いのよ♪」
全員で(何が!?)
「あれ?
みんな集まって、どうしたんすか?」
最後の刺客 登場!
「夢ちゃん先輩――♪」
一瞬、場が静まる。
「また一段と太ったっすね」
――ピィィィィィィ!!
(……わかってるよ)
(私がダメなのは、わかってるけど……)
試合終了。
152対0。
観客、全員帰宅済み。
まのん、完全敗北。
――俺の好きなまのんに、何を言う!
(あれ?)
(なんで俺、今こんなにムカついてるんだ?)
なお、このセリフの主は、
次回――明らかになる。
“分かるわい!”は禁止やで。




