第20話 推しキャラは今日も強い(※朝起きたらヒロインがデカくなってた件)
――さあ、爽やかな朝じゃあ。
……と、言いたいところだが。
「なんでやねん」
ぽんは即座に否定した。
視線の先。
布団からはみ出した腕。
シーツを押し上げる、明らかにサイズオーバーの体躯。
机の上に空のポテチ袋とコーラのペットが転がる。
「でっかくなっとるやないかぁぁぁ!!」
――まのん、巨大化。
淑女化計画、完全崩壊である。
「うっぷ……食い過ぎた……ぐるじぃ……」
当の本人は、顔面蒼白で転がっていた。
(昨夜、“一晩だけ”のはずがこれじゃ……
師匠に知られたら、終わりやぞぉ……!)
ぽんが頭を抱えた、その時。
「まのん」
低く、よく通る声。
「冷蔵庫が空っぽなんだが……そなたか?」
「……ん?」
ぽんはゆっくり振り返る。
――七兵衛のお面。
「まだ続いとるんかい!!」
悠斗、完全に七兵衛モード継続中。
「し、七兵衛様……」
まのんが弱々しく手を上げる。
「我慢できず……全部、いただいてしまいました……」
「うむ!」
悠斗は力強く頷いた。
「正直でよろしい! 褒めてつかわす!」
『褒めるんかぁぁい!!』
(なんやこの空間……地獄のフルコースか?)
「ありがとうございます、七兵衛様……♡」
「よし。では朝食は拙者が――」
(あかん)
ぽんは確信した。
(こいつ、唐揚げとか出す気や)
即座に介入する。
『まのん!』
『な、なに……ぽんちゃん……』
『今が分岐点や!!
ここで食うたら終わりやぞ!!』
まのんは、ふらつきながらも背筋を伸ばした。
そして――
「七兵衛様」
すっと姿勢を整える。
「わたくし、本日は――
サラダとスムージーが所望ですわ」
一瞬、静寂。
『……ぽんちゃん』
『なんや』
『正直、もう食べ物ムリ……』
『あ、そっち!?』
完全に想定外である。
「……うむ」
一拍。
「てか」
悠斗が素に戻った。
「冷蔵庫空っぽなんだけど?」
言うまでもなく、犯人は目の前である。
「では――」
まのんは微笑む。
「烏龍茶だけで結構ですわ」
(……おお)
ぽんは目を見開いた。
(今、自分から“引いた”やと……?)
「じゃあこのカップ麺、俺食うな」
「よろしくてよ♪」
(ほんまに限界なんやな)
だが、それでも。
――“選んだ”。
それは、ほんの一歩。
でも確かに、昨日のまのんとは違う選択だった。
支度の時間。
『めんどくさ……』
『却下や。やるで』
ぽんは容赦しない。
『メイク、身だしなみ、服、全部や』
『えー……』
『えーやない』
ぽんは、少しだけ声を落とした。
『まのん』
『……なに?』
『三澄投太の隣、立つんやろ?』
一瞬、空気が変わる。
『……あいつ、バケモンやぞ?』
『分かっとる』
『今のままで、ええと思うか?』
沈黙。
『……無理ゲー』
ぽんは小さく頷いた。
『やろ?
せやから、やるんや』
少しだけ優しい声だった。
『ちょっとずつでええ
“マシなまのん”になればええ』
『……マシて』
『今は“だめだめまのん”まんまや』
『うるさい』
『でもな』
ぽんは笑う。
『さっきの選択は、ええ感じやったで』
まのんは、ほんの少しだけ黙った。
『……そっか』
「まのん、行くぞー」
「はい、今参りますわ」
玄関で待つ悠斗。
ふと、まのんを見て――
「……」
一瞬、言葉が止まる。
「なんか……」
「なんですの?」
「いや」
悠斗は視線を逸らした。
「ちょっとだけ、それっぽいな」
「は?」
「いや、なんでもねぇ!」
(……なんだよ今の)
(ちょっと、ドキッとしたんだけど)
「ちょっと!? それ何よ!!」
「うるせぇな!」
「説明なさいよ!!」
(よし)
ぽんは満足げに頷いた。
(今の一言で、今日一日戦えるやろ)
そして、心の中で呟く。
(淑女化計画――再始動や)
だがな、まのん。
大学には今日も――
お前の天敵が、今日も――容赦なく待っとるで。




