第18話 ポテチ vs 神――勝者は誰だ?
さぁ、開幕だ!
ポテチを食べたい まのん。
ミッションを遂行したい キタのぽん。
――淑女の品格を賭けた、運命の最終決戦。
『では、ぽんちゃん』
私は優雅に微笑む。
『“淑女として”お願いするわ。
ポテチとコーラを――ご用意してくださる?』
『……は?』
ぽんちゃんが目を細めた。
『それは“命令”か?』
『いいえ?』
私は首を傾げる。
『お願い、ですわ』
『……』
一瞬の沈黙。
『却下や』
『淑女は“節制”が基本。
間食の要求は減点対象やで?』
『そうですの』
私は、すっと一歩近づく。
『では、評価のお話をいたしましょうか』
『っ……!』
ぽんちゃんの肩が、ぴくりと震える。
『“トイレまで付いてくる神”という記述と、
“淑女の願いを無視する神”――』
私は、にっこり笑う。
『どちらが評価を落とすと思う?』
『ぐっ……!』
『ちなみに』
私は紙をひらひらさせる。
『“淑女からの正式な依頼を拒否”――
これ、かなり重いらしいわよ?』
(知らんけど)
『……そんな項目、聞いたことないんやけど』
『今、できたの』
『理不尽すぎるやろ!!』
ぽんちゃんが叫ぶ。
だが――
私は、静かに言った。
『それでも――淑女としてお願いしているの』
一歩も引かない。
『それを無視するのなら――』
にっこり。
『書くわよ?』
『……っ』
数秒の沈黙。
ぽんちゃんの視線が、わずかに泳ぐ。
『……くそ』
小さく、吐き捨てる。
『分かった! 分かったから落ち着け!』
落ち着くのはキタのぽんである。
――決着。
『今晩だけじゃ!』
ぽんちゃんが叫ぶ。
『師匠に頼んで、特別にプログラムを解除してもらう!
夜十時から、明日の朝七時まで!
その間は――食べても飲んでも自由!!』
(実は、わしが寝てる間は常に解除されてるんやけどな。
あほやこいつ……)
『……ふふ』
私は、優雅に微笑んだ。
『よろしくてよ、ぽんちゃん。
あなたの決断――高く評価して差し上げますわ』
――その瞬間だった。
「悠斗ぉぉ!!
ポテチとコーラを返せぇぇ!!」
『まのん、こえぇ!!』
今更ながら、まのんに憑りついたことを後悔する願叶え神。
「なんだよ!
全部やるって言っただろ!?」
(やべぇ……全部食って飲んだの、バレたら殴られる……!)
「クーリングオフよ!!」
「アホか!!
そんなもんにクーリングオフがあるか!!」
「淑女だって!!
ポテチとコーラくらい、食べるわよ!!
いいから返しなさい!!」
「……もう、食っちまった」
「はぁぁぁ!?
あれだけあったのに、もう!?」
「まのんなら一日分だろ」
悠斗――
とばっちりである。
「九州醤油ぉぉぉ……!!
ポテチぃぃ……!!
コーラぁぁぁ……!!」
どたばた。じたばた。
……止まらない。
十九歳の成人女性が、床で手足をばたつかせて泣く光景を、
わしは初めて見た。
「分かった、分かった!!
買ってくるから!!
一緒に行くか?」
「やだぁ。歩くのめんどい」
「……アイスも買ってやる」
「行く」
『おい!!
どんだけ食べる気や!!』
『いいじゃない♡
大学卒業まで、まだ三年もあるんだから
ゆっくり痩せればいいの♡』
『まのん。
本当に夢を叶える気があるんか?』
『あるわよ♡
今があるから、未来があるの』
『ちゃう!!
今日を変えんと、未来は変わらん!!』
『明日から変えるから大丈夫』
(……嘘つきの顔やんけ!!)
『わしは騙されんぞ!!』
『あ、そうだ。
昨日、守乃ちゃんがぽんちゃんを見たのって――
お風呂だっけ?』
『……まのんさん、行ってらっしゃ~い♡』
しょぼんちゅ。
ちょろい。
神のくせに、実にちょろい。
「さぁ、悠斗! 行こう?
ポ・テ・チ♪
コーラ♪
アイス♪」
『くそぉぉぉ!!
なんなんや、あの笑顔は!!
いつか、悔しいぃ!って言わしたる!』
(なお、仕返し案はまだ浮かんでいない)
――そして、近所のスーパーへ。
「九州醤油ポテチ♪
コーラ二リットル♪
ジャイアントコーン♪」
「まのん、ストップ!!
もう金がねぇ!!」
「えぇ~!
チキンナゲットも食べたぁい」
「ぶりっ子しても効かねぇからな!!」
(……甘えるまのん、普通に可愛いんだけど)
「食べたいぃ! 食べたいぃ!
食べたぁぁぁい!!」
(……可愛い――けど)
(だめだ。ダダこねループに入った。
こうなったら――)
「まのんちゃ~ん。見てくだちゃぁ~い♪
まのんちゃんが大好きな
村の妖精『田んぼん』でちゅよぉ~♪」
「……っ!」
「うん! 田んぼん!
もう泣かない」
出た!!!
まのんの出身村が誇る、ゆるキャラ『田んぼん』。
そして、その指人形を常備している男――悠斗。
さすが、まのん歴十九年。
……ていうか。
『選挙権のある十九歳が、
ゆるキャラで泣き止むってどうなんや』
――キタのぽんの疑問――
なお。
ダダをこねても、
お金が無いとナゲットは買えない。
現実は、非情である。ナゲット的に。




