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第27話 指名手配犯と秘密の扉

「アムーノ……!?」


 静かな空間に自分の声がして、その声が動揺していることに気が付く。


 群衆の中で唯一、俺と目があっているその男はアムーノ。この町で指名手配されている魔法医師で、おそらくこの幻の炎を出した犯人だ。


 逃がすまいと彼を睨んでいると、彼も俺のことをじっと観察するように、値踏みするように見ている。


 ふと、なくしていた聴覚が突然蘇ったみたいに、周りの音が聞こえるようになる。ルウリィが結界をいたのだろう。それと同時、まばらな拍手の音が聞こえ始める。


 町民の視点でいうと、炎は無事に消えて、しかも何故だか御神木ごしんぼくはピンピンしている。その様子に、理解は追いつかないながらも喜んでいるということらしい。

 

「ノイク!」

「ノイクさん、大丈夫ですか!?」


 駆け寄ってくるフレアとルウリィの声。しかし、俺はアムーノから視線を外さない。


「……ああ、見ての通り全然大丈夫だ。でも……」


「でも……?」


 ルウリィが俺の視線を追って、


「あのご老人が何か?」


 という。


「『ご老人』……?」


 アムーノは、強くうねる髪が片目にかかっている、おそらく30代そこそこの男だ。


 俺がルウリィの言葉にまゆひそめていると、なんと、アムーノは堂々と、ゆっくりと、こちらに近づいてきた。


「やあ、すごいね。君が火を消してくれたのかい?」


 そして、見た目に似合わないしわがれた声で話しかけてくる。


 どうしてそんなに余裕のある態度なんだ?


 どうして誰も捕えようとしないどころか、気づきもしない?


「……何言ってんだ。あんたが全部やったことだろ」


わしが?」


「そうだよ。なんのためにこんなことをした?」


「はて……こんなこと、とは?」


 とぼけた声を発するその男の目には、鋭い眼光が据わっている。


「どうしたのよノイク、こんなおじいちゃん捕まえて怖い顔して……」


「フレアまで何言ってんだ。この男は……」


「儂がなんだって?」


 そして、その目を細める。


「……君には儂が何に見えているんだ?」


「あんたは、指名ては——。——!?」


 そこから先は、音にならなかった。魔法で音を消された……!?


 喋れなくなっている俺に、片頬の口角を上げたアムーノが耳打ちする。


「"君にしか見えない場所"で待っている」


 そして、周りに喧伝けんでんする。


「みんな! 彼が御神木ごしんぼくを救った英雄だ!」


「「「「わああああああ!!」」」」


 と、町民が押し寄せる。


「おい!」


 もみくちゃにされているうちに、俺は彼を見失ってしまった。





「それにしても本当に助かったよ、ありがとうねえ、ノイク君……!」


 騒動の後、俺が一躍いちやくヒーロー扱いされている間に、俺は町民に説明をした。


 先ほどの炎は幻であること、その証拠に木が少しも焦げてもいなければ灰一つ舞っていないこと、ミアの結界はしっかりと作用していたこと。


 疑う顔もあったが、何よりも、俺自身が燃えていないことを証拠として、町の人々はとりあえず理解不能な怪現象もあるもんだ……と、処理してくれたようだった。


「いや、別に。変なことに巻き込まれただけだ。ミアも災難だったな」


 ミアが頭をかく。


「うち、いまだによく分かってないんだケド……結局何が起こってたってコトなの?」


「さっきも言った通り、とにかくみんなが見ていた炎は偽物だったんだ。燃えないし、熱くない、ただの幻。それがどういう原理で発生してるのかも、なんのために発生させたのかも、俺にも分からないが」


「なるほどねえ……」


「ノイクさん、その口ぶりだと……誰が発生させたかは分かっているのですか?」


「……十中八九な」


「誰なんだい!?」


 ミアが目を見開いて俺の服をつかむ。


「……フレア、ルウリィ。俺はさっき、誰と話してるように見えた?」


「おじいちゃんよ、白髪の。ねえ?」


「ええ。上品な感じの……」


「……そうか」


 どうりで、指名手配されているのに見つからないわけだ。


「——俺には彼が30代くらいの男に見えていた。それは、アムーノ氏の顔だった」


「アムーノ!?」


「それって、指名手配犯の……!?」


 フレアとミアが驚きの声をあげる。


「ああ」


「まさか……外殻がいかく魔法を使っているってことでしょうか……!?」


 外殻魔法は法律で禁止されている、いわゆる"禁忌きんき魔法"の一種だ。偽の容姿を身体の周りに発生させ、他の人物になりすます。


「だろうな。だから、魔法の見えない俺には外殻が見えず、アムーノ本体が見えたってことだろう」


「そんな……! でも、外殻魔法は禁忌魔法かどうか以前にあまりにも技術が必要な魔法のはずです」


 ルウリィもキャンプの時に言っていたように、


『複雑な形にするのと、薄くするのは、かなりの魔法技術と魔力が必要になるんです』


 外殻魔法は、布のように薄い結界魔法を、皮膚の形に加工し、さらに色をつける。尋常ではない魔力と技術が必要になるのだ。


「さすが……っていうと語弊がありますけど、療法塔りょうほうとうの魔法医師はダテじゃないですね……」


「ああ。外殻も使い捨てだろうし……。もう、その(・・)爺さんを探してももういないだろう」


「でも、ノイクにだけは見えるのよね?」


「……ああ」


 ——この町では、という注釈は付くが。


「じゃあ、今すぐ探してとっちめましょう! あたし、ミアの公演を台無しにした責任をとって一発撃ち込んでやらないと気が済まないわ!」


「いる場所なら、検討はついてる」


「え……!?」


「あいつは去り際に、『君にしか見えない場所で待っている』って言ったんだ」


「ノイクさんにしか見えない場所……あっ」


 ルウリィは合点がてんがいったようだ。


「昨日ノイクさんがぶつかっていた壁ですね……!」


「あそこね! じゃあ、すぐに行きましょう!」


「でも、罠かもしれませんよ……?」


「だとしたって、行かないと何も始まらないわ!」


「……そうだな」


 ただ、ルウリィのいうことも一理どころか百理くらいある。


「ルウリィとミアは、そうだな……さっき行ったハンバーガー屋で待っててくれ。俺たちが夜まで戻ってこなかったら、町の人たちに伝えてくれ」


「うちも行くよ!」


「いや、ミアは、療法塔に行ってもらう必要があるかもしれないから、やっぱりここにいてくれ」


「でも……」


「任せて、ミア! あたしがぶっ飛ばしとくから!」


「……よし、行くか」


 


 俺とフレアは例の路地についた。


「本当にここに道なんてあるの? 壁にしか見えないんだけど……」


「ああ。昨日は俺も通れなかったんだが……」


 俺がそっと手を前に出すと、


「えっ!? 壁の中にノイクの手が埋まったわよ!?」


 フレアが声をあげた。


 どうやら、通れるようにしてくれているらしい。……ますます手招きされてる感じがして、罠の可能性が増したな。


 俺が見えないし通れる壁——となると、もはや俺にとっては空気でしかないんだけど——の中に入っていくと、フレアもついてきた。


「うわ、壁をすり抜けちゃったわ。オバケになった気分」


 この結界は今現在、何人なんびとたりともはじいたりはしないらしい。


 路地を数歩歩くと、地面に黒い(ハッチ)があるのを見つけた。


「なるほど、この路地を通らないと入れない場所ってことか」


 おそるおそる開けてみると、そこには地下に向かう階段。


「行ってみましょう」


 十数段の階段を降りきったところに、またしても黒い扉。


「邪魔するわよ!」


 バコーン!と扉を開けるフレア。


 奥には、机に向かって座るアムーノの背中があった。


「まったく……ノックくらいしたらどうだ。最近のアティックじゃ、そんな基本的なマナーも教わらないのか」


 アムーノは振り返り、さっきまでとはまったく違う、年なりの声で彼は言う。


「よく来たな、ノイク・ムロゼ」


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