第25話 ミアと炎上
「「「んー……!!」」」
フレア、ルウリィ、俺が3人で異口同音に唸る。
昼公演までの間に何か食べようということになって、ミアおすすめのハンバーガー屋の看板メニューを頬張った俺たち3人の反応である。
「美味しいわね! さすが旅芸人、美味しい店を知ってるのね!」
「でしょー? 良かったよ、気に入ってもらえて」
ミアはにひひ、と笑う。その膝の上ではマホウカワウソのウソ君が魚肉ソーセージを食べている。
「もぐもぐ……ごくん。ねえミア、そういえば、『あの噂』ってなに?」
「『あの噂』? なんだっけ?」
「ほら、さっき言ってたじゃない。『療法塔か……。あの噂が本当なら、うちもあやかりたいもんだね』って」
「それ、うちのモノマネ?」
ミアは眉根を寄せながら笑い、「うち、そんなアンニュイかな……」と言ったあと、
「まー、ホントかは分からないんだけど、」
声を潜めて教えてくれる。
「療法塔では、魔力値よりもずっと大きな魔法が出せる研究を行ってるらしいんだ」
「本当か!?」
「ひっ……! ノイクさん……!?」
「びっくりしたぁ……! どしたの、ノイク君」
ガタン!という音がして、俺は自分が立ち上がっていたことに気づく。せっかくミアが声を潜めたのにこれじゃ意味ない。
「わ、悪い……ただ……」
「詳しく聞かせてちょうだい」
俺が言い繕おうとする横から、フレアが真剣な顔でにじり寄る。
「おーおー、どうしたアティック生たち。顔が怖いぜー?」
「魔力以上のってことなら、ノイクが魔法を撃てるようになるかもしれないんでしょ?」
茶化してみるが、それでも相合を崩さないフレアを見て、
「ホントに、ホントか分かんない話だよー?」
と前置きをして、ミアは続ける。
「旅の芸人なんてやってると噂話をよく聞くんだけどさ。ウスプラと逆方面の麓にあるイシャナの町に、療法塔からめちゃでかい魔法の噴火を起こったのを見たって人がいたんだ。いくら療法塔の優秀な魔術師でも出せるはずないくらい大きい魔法だったんだって」
「へえ……!」
「まー、でもそんなのが本当にあったら、衝撃が麓にも届いてるだろうし。見た人もその人と一緒にいた人くらいで、幻でも見たんじゃないのって話になったんだけど。もしくは通りすぎた隕石とかな。うちが知ってるのはそれくらい」
だからその怖い顔をやめてー、とミアはフレアの額を撫でる。
「でも、可能性はゼロじゃないわね。ね、ノイク?」
フレアが前のめりだった姿勢を戻して、俺の方を向く。
「……だな」
「まー、どうせ行くんだから聞いてみたらいいんじゃない? それにしても、」
と、今度はミアが前のめりになる。
「ノイク君は冷静に見えて、魔法のコトになると目が燃えるね。何がキミをそんなに駆り立てるの?」
その目は期待に満ちている。
彼女からすると、自分と同じように、無謀な夢を見ている人を見つけて純粋にうれしかったのだろう。
「そんな大した話じゃないぞ?」
「もったいぶるなよー。うちはさっき答えたんだから、教えてくれてもいーでしょ?」
たしかにさっき、
『でも、そこまでして大道芸じゃなくて……魔法大道芸をやりたいのはなんでなんだ?』
俺は同じようなことを彼女に聞いてしまった。
「……小さい頃に観た魔法演武がかっこよくて、それで」
「……そっか」
「へえ、そうなんですね……!! あ、実はわたしも気になってたんです……!」
ミアが頷くと同時、ルウリィがわあ……という表情を浮かべた。
「観たってことは……有名な魔術師さんなんですか?」
「ああー……いや、どうだかな」
「……?」
「あ、もうこんな時間だ!」「キュウ!!」
ミアとウソ君が時計を見て立ち上がる。
「じゃ、先に広場行ってるから! ちゃんと観に来てよー!?」
「もちろんよ!!」
そして、御神木広場で昼公演がはじまる。
今朝、途中から見たので前半は初めて見る演目ばかりで面白かった。
一度見たウソ君の火の輪くぐりだって、
「ええっ!?」
「あんなに燃やしちゃって大丈夫なんでしょうか……!?」
隣で観るフレアとルウリィが初見みたいにびっくりしていた。2回目なのに、つくづく良い客だな……。これでサクラじゃないのだから微笑ましい。
御神木にはしっかり結界が張っているのだろうから、俺はさっき観た時よりは安心して観られた。サプライズやハラハラが苦手な俺には、これくらいがちょうどいい。
「それでは、次が最後の演目です! ウソ君とうちの魔法演武をご覧にいれましょう! さあさあ、ウソ君、本気で勝負しよう!」
「キュゥ!!」
「うちから行くぞ、喰らえっ! 炎魔法!」
ミアが手首の辺りから火炎放射を放つと、ウソ君は後ろに跳びはねて避ける。
「キュウウウウ!!」
ウソ君が反撃する。おそらくウソ君の口から炎か何かが出て、
「どわっ……ああぁっっ!?」
ミアがわざとらしく避ける……というか、
「ウ、ウソ君本気出しすぎだろ! いや、本気でいいんだけど!」
どうやら、実際、ウソ君が想像以上に大きな炎を出したらしい。わざとにしては演技が迫真すぎると思ったんだ。
「……ま、負けてたまるかぁ!」
ミアはそう叫ぶと、右手のひらの上に小さな炎を出す。
そして、頭上高く掲げ、左手を右腕に添えると
「うおおおお!!!」
なんと、その小さな火が、数メートルはありそうな、大きな大きな火柱に変わった。
「「「わああああああ!!!???」」」
……すると、朝公演とは別種の、悲鳴まじりの歓声が湧く。
そこまではまだ、観客もスリルを楽しんでいたのだが……
「あれ……!?」
……問題はその後だった。
「まさか……!!」「おいおいおい……!!」
一人の声が伝播するように、町民がどよめき始める。
やがて、誰かが決定的な一言を叫ぶ。
「おい! 御神木に火が燃え移ってるぞ!!」
「え……?」
ミアは御神木の方を振り返り、立ち尽くす。
「なんで……? 結界は張ったのに……!」
「消火しろ!! 水魔法を使えるものは全員水をかけろ!!」
この町の長老か何かだろうか、嗄れたおじいさんからの号令がかかって、一斉に町民たちが手や杖を御神木の方に向ける。ルウリィもそれに加勢した。
「嘘だ……!」
「危ないわ、ミア!」
その場にへたり込むミアと、彼女のもとに駆け寄り、御神木から引き離そうとするフレア。
「……? なあ、ルウリィ」
俺は御神木を指差す。
「あの木は燃えてるのか?」
「ノイクさん、すみません。ノイクさんには見えないのかもしれないですが、今それどころじゃ……!」
「そこなんだよ。俺に見えてないんだ」
「はい!?」
「だって、ミアの炎は魔法じゃなくて本物《手品》なんだろ?」
「だからなんですか……!? って、ノイクさん!?」
確かめるため、俺は御神木に向かって歩き始める。
だって。
「——本物の炎なら、俺に見えないとおかしいだろ」




