第24話 魔法大道芸人ミア
大道芸を終えた少女が、キャスケット帽を裏返して観衆の前を回る。
「観てくれてありがとうございまーす! お気持ちの分入れてもらえたら嬉しいです!」
見ていた人たちが笑顔を浮かべて、銅貨や銀貨を入れて去っていく。
「わー、ありがとうございます! 13時から昼公演もやりますので、また寄ってってください!」
彼女の肩の上では、マホウカワウソのウソ君も彼女に合わせて礼をする。
「ウソくんかわいぃよぉ……♡」
俺の隣、ルウリィが目をハートにしてウソ君を見つめている。
「おにーさんたちも、よければ銅貨1枚でも! もちろん銀貨でも金貨でもいーんだけど!」
芸人さんは最後に、後ろの方に立っていた俺たちの前にもやってきた。
「ああ……!」
俺はなけなしのお小遣いから銅貨を1枚取り出して、彼女の帽子に入れた。
「ノイクさん……!!」「ノイク……!」
俺がおひねりを出したのがよほど意外だったらしく、ルウリィとフレアが嬉しそうに驚嘆の声をあげる。それにしても反応が大袈裟じゃないか?
しかし、俺が銅貨を出した理由は、演目が素晴らしかったからだけではない。どうしても聞きたかったことがあったのだ。
「あの——」
「んー?」
おそらく周りに聞かれない方がいいそれを聞くため、後ろの方で動かずに他の人がいなくなるのを待っていた。
「この大道芸って……どうやってるんですか?」
「どう、って?」
俺の質問を聞いて、大道芸人はすっと目を細め、訝しげにこちらを見る。
その反応こそが証左になった。俺の読みはおそらく当たっている。
「ノイクさん、なに言ってるんですか?」
「……魔法大道芸なんだから、魔法でしょ? そりゃ」
「いや、今のは魔法というより……」
俺は周りを見回し、先ほどまでいた観客たちが散り散りになったことを確認する。
そして、小声で、
「……今のは、手品ですよね?」
と聞いた。
「なんでそう思ったの?」
「なんでっていうか……」
どこから話そうかと思案していると、帽子の中から銅貨を取り出す芸人。
「言いがかりつけるためにくれた金なら返——……」
そして、銅貨を俺に指で弾いて返そうとするも、
「……にしては、キミはなんでそんなに嬉しそうなんだい?」
と、その動きを止める。
その問いについ、
「あの……」
俺の口はこう答えていた。
「……俺にも、出来るでしょうか?」
「…………はあ?」
「……なるほど、つまりキミ——ノイク君は昨日の夜、そっちの可愛い女子2人の下着を見た、と」
「そこは取り立てて話すところじゃないんですよ」
俺が魔力値ゼロであることと、この町に来てからの一連の出来事について伝えると、大道芸人はその猫みたいな口元を意地悪に上げて、本筋じゃないところに触れてくる。
「にゃはは、ごめんごめん」
楽しそうに謝ってから、俺の話の本筋をおさらいしてくれる。
「ノイク君はこの町では魔法が見えない。なのに、うちの出した炎魔法は見えた」
「はい」
「一晩寝て魔法が見えるように戻ったのかとも思ったけど、ウソ君の出した魔法はやっぱり見えないまま。となると、うちの出した炎は魔法じゃなくて手品なんじゃないか……と」
「そういうことです」
「はあーなるほどね。それにしても、本当にいるんだね、魔力値ゼロとか、魔力値無限大とか……。……やっぱりアティックは恐ろしーとこだな」
「やっぱり?」
「あ、てーかさ、高等部1年ってことはうちと同い年だね」
ルウリィが首をかしげるのをスルーして芸人さんは答える。
「あら、同い年なのね! 芸人さん、ベテランっぽかったからもっと年上なのかと思ってたわ。芸人さんは芸人さんを何年くらいやってるの?」
「芸人さんは芸人さんを……っていうかまだ名乗ってなかったね、ごめんごめん」
すると、芸人少女は右手をズボンで拭いてから、
「うちの名前はミアです、よろしく」
と、フレアに握手を求める。
「うん、よろし……ええっ!?」
そして、フレアが応じようとすると、なんと、芸人——ミアの右手から花がボン!と現れた。
「なにこれ!?」「すごいな……!」「びっくりしました……!」
「にひひっ。まー、まやかしだけどね」
出てきた花をフレアにさっと渡しながら、
「まー、ノイク君の言う通り、全部手品だよ。今の花も、さっきの大道芸も。ウソ君は魔法使ってるけど、うちは魔法は使ってない。だから魔法大道芸っていうより……まー、ただの大道芸だね」
ミアは肩をすくめる。
「そうなのか……!」
不思議な高揚感が俺を襲う。——それがいいことなのか悪いことなのかわからないが。
でも、魔法が見えないから俺だからこそ、これは魔法じゃないと見破れた。その事実がどうやら俺をこんな気持ちにさせているらしい。
「どうして魔法を使わないの?」
「まー、そう思うよねー……」
フレアの質問に、ミアは気まずそうに頬をかいた。
「ノイク君がいるとこでこんなこというのもアレなんだけど、うち、そんなに魔力値が高くないんだよね。むしろ低い方っていうか」
「そうなんですね……!」
「名を売るためにも、下積みの今は1日に1公演だけってわけにはいかないじゃん? なのに、本物の魔法を使ってたら1公演やる前に魔力切れを起こしちゃうんだ、うちの魔力値じゃ」
「あれだけ大きな炎出したら、誰だってそうなりますよ……」
ルウリィがフォローするが。
「本物はならないんだよ。ていうか、ならない魔術師だけが、本物になれる」
ミアは肩をすくめて、
「まー、要するに向いてないんだよね、魔法大道芸」
さらっとそんなことを言う。
「それに、万が一お客さんに燃え移ったりしないように、自分の周りに結界魔法を張る必要もあるから。結界が魔力切れで弱くなっちゃうなんてことがあったら困るし」
「そんなケアもしっかりしてるのね、立派だわ」
「しっかりとかそんなんじゃなくて、マナーだよ。せっかく人を楽しませようとしてんのに、なんかあったら面白くなくなっちゃうでしょー。それがイヤなだけ。それに、お客さんだけじゃなくて、この町みたいに……」
彼女は親指で大樹を指差す。
「大事な御神木がある、ってこともあるし」
「あの木ってそんなに大事なモノなの?」
御神木を指差すフレア。
「ああ。あの御神木を保護して、その加護を受けるために出来た町だからな。キミたちも旅立ちの前にお参りしときなー。……って、そういや、どこから来たのかは聞いたけど、どこにいくのか聞いてなかったね?」
「療法塔よ!」
フレアがまた、「みてみてこれ出立許可状!」とフレアがまた自慢げにかかげる。
「療法塔か……もしよかったら、うちがガイドしてあげよーか?」
「出来るのか?」
出来るなら、渡りに船だが……。
「ああ。うちも大道芸人だなんて名乗ってはいるけどさ、それだけで食っていけるわけじゃないから。旅の大道芸人をやりながら、荷物や手紙の配達人もやってんだよね。療法塔にはそろそろ集荷に行かないといけないと思ってたし」
「そうなのか……!」
「ていうか配達人の方が儲かっちゃったりね。やんなっちゃうよ」
「……でも、そうまでして魔法大道芸がやりたかったんだな」
俺が言うと、
「いやー、つくづくキミみたいな反応をしてくれるやつは初めてだよ」
と照れくさそうに笑う。
「俺みたいな反応って?」
「そんな感心するみたいな……。さっき『どうやってるんですか?』って聞かれた時は、『偽物!』って塩でも投げられる覚悟したもん」
「ノイクさんはそんなことは言わないんですよ」
「どうしてルウリィちゃんが自慢げなのかは分からないけど……」
胸を張るルウリィと、苦笑いを浮かべるミア。
「でも、そこまでして大道芸じゃなくて……魔法大道芸をやりたいのはなんでなんだ?」
「なんで……? さあ。魔法大道芸人になりたかったから、かな」
答えになってるのか? と一瞬思ったけど。
「下手くそでも、偽物でも、才能がなくても……魔法大道芸人になりたいから、魔法大道芸人を名乗ってる。『名乗るだけなら誰でも出来る』ってよくバカにされるけどさ、それって逆にいえば、『名乗るだけなら誰でもしていい』ってことでしょ?」
「……そっか」
「……いつか、本物になって見返すんだ」
ミアは小さな声でそう呟いてから。
「あ、ガイドだけど、昼公演のあとでもいいかな? さっきみんなに演るって言っちゃったからな。約束を破るわけにはいかないでしょー?」
「ああ、もちろん」
この場合は、急がば回れだ。
「療法塔か……。あの噂が本当なら、うちもあやかりたいもんだ」




