第23話 御神木広場の魔法大道芸
「さて、どうするか……」
俺たちの前には療法塔から研究資料を持ち逃げしたアムーノという魔法医師の描かれた手配書。
困ったことに、このおたずね者は俺たちがこれから尋ねる相手だった。
「そもそもなんで脱走なんかしたんでしょうか……」
ルウリィのつぶやきには、宿屋の店主さんが答えてくれる。
「私が聞いた時も教えてもらえなかったんだよね。持ち出した資料が国家機密並のものだとかで、脱走の理由すら知られると危険なんだとさ。まずはこの街を通るだろうってことで、つい一昨日からこの手配書が貼られているんだ」
「理事長センセはそんな人のところにあたしたちを遣ったってこと? なかなか反体制よね」
「そういう問題じゃないだろ……」
俺は一応フレアを注意してから、事実を訂正する。
「一昨日に手配書が出たってことは……俺たちがアティックを出立したのが4日前になるから、その段階ではこんな情報はなかったんだろ」
「なるほどね。せっかくだから探して取っ捕まえてその国家機密とやらを聞いてみようかしら」
「巻き込まれに行くなっての。それに、とっ捕まえるのは無理だろ。一昨日に指名手配されてるんだったら、とっくにウスプラを発ってもっと遠くの街に行ってるはずだ」
「まあ、そうだろうねえ。そんなに大きい町でもないから、いるなら見つかるだろうし」
宿屋の店主もため息混じりに頷く。
「あのあの、お二人はどうするんです……? 療法塔行きは中止ですか?」
「いや、アムーノ氏じゃなくても診てはもらえるだろう。俺たちは引き続き療法塔を目指すだけだ」
「そうね!」
「でも、療法塔側が、今それどころじゃないんじゃないでしょうか……?」
「そんなの、行ってみて聞いてみないと分からないじゃない。すごく暇でしりとりしてるかもよ?」
「それはないだろうけど、まあ、ウスプラで手をこまねいていても仕方ないしな」
「珍しくお二人の意見が揃ってますね……」
ルウリィが「こういう時ガンガン行けないとアティックの生徒にはなれないんでしょうか……」と少し不安そうにしている。
「にいちゃんたち、もし本当にいくなら、案内人を探した方がいい。結界が弱まったりしてる可能性もあるから、なるべく魔物の巣を避けていかないと」
「大丈夫! あたしたち、強いのよ! ぶっ放しちゃうわ!」
「ぶっ放せない敵がいるだろ」
魔虫みたいな。
とはいえ、これ以上遅れるのもなあ……。本当はガイドを探したいところだが……。まあ町ですぐ見つかれば頼むことにしよう。
宿を出て正門の方に歩き出すと、御神木広場に人だかりが出来ているのが見つかる。
「あっちで魔法大道芸やっているんだってさ!」
「いこーぜ!」
少年たちが人だかりに吸い込まれていく。
「ねえ、ノイク! 魔法大道芸ですって!」
「いや、見ないぞ?」
案の定フレアが目を輝かせるのを諌める。
「まあまあ、どうせ門の方向なんですから」
「いや、とはいえ……」
「ノイクさん」
ルウリィは少し背伸びして俺の耳元に唇を近づける。
「大道芸はきっと10分か15分くらいのものです。フレアさんを説得するよりその方がずっと早いですよ」
……たしかに。
そもそも俺の拒否なんて無視してフレアは噴水広場に走ってるしな。先に行った少年たちの友達みたいに。
「わあ……!」「おお……!」
俺たちも人だかりに加わると、俺たちと変わらない歳に見えるポニーテールの少女とモヒカンみたいな髪型(毛型?)のカワウソがその中心に立っていた。
「それじゃー次は、火の輪をマホウカワウソのウソ君がくぐります!」
そういうと、少女は持っていた輪っかに火を近づける。ボっという音と共に輪っかに火が点いた。
「はぅぅ、マホウカワウソ、かわいいなぁ……♡」
ルウリィが目を♡にしている。
魔法生物の獣医になりたいという割にこれまで特に魔法生物に反応を示さなかったルウリィだが、小動物系がお好みらしい。
「さあ、飛んでみよう!」
キュウゥ!という鳴き声と共に火の輪をくぐるウソ君。
拍手喝采だ。
「それでは、次が最後の演目です!」
「もう!?」
フレアが叫ぶ。ルウリィの先ほどの助言は慧眼だったな。
「ウソ君とうちの魔法演武をご覧にいれましょう!」
「魔法演武!?」
またしても間髪入れずフレアが叫ぶ。いい客だな……。
「フレアさん落ち着いてください、見世演武ですよ」
「見世演武って?」
「見せ物用の魔法演武だ」
派手な魔法やギリギリでの攻防を演出するものだ。どこまでが台本通りでどこまでが本気なのかは当人たちにしか知り得ないし、建前としては、『本気で魔法演舞をしている』ということになるわけだが。
「さあさあ、ウソ君、本気で勝負しよう!」
「キュゥ!!」
「うちから行くぞ、喰らえっ! 炎魔法!」
少女が手首の辺りから火炎放射を放つと、ウソ君は後ろに跳びはねて避ける。
「ひっ……!」
ルウリィがさっと自分の目を覆う。
気持ちは分かる。火が止まったのはウソ君の目と鼻の先もいいところ、毛一本くらいの距離だ。
「見世物なんでしょうけれど、ドキドキしますね……! わたし、応急処置出来るでしょうか……」
「キュウウウウ!!」
ウソ君が反撃する。おそらくウソ君の口から炎か何かが出て、
「どわぁっ!?」
少女がわざとらしく避ける。
「もう、心臓に悪いです……!」
「ウソもなかなかギリギリを突くわね……!」
ウソ君の敬称を略すな。
「負けてたまるかぁ!」
少女はそう叫ぶと、右手のひらの上に小さな炎を出す。
そして、頭上高く掲げ、左手を右腕に添えると
「うおおおお!!!」
なんと、その小さな火が、数メートルはありそうな、大きな大きな火柱に変わった。
「「「わああああああ!!!」」」
観衆が盛り上がる。
こりゃでかいな……!
「さあ、ウソ君! これを喰らいたくなければ降参すると言え!」
「キュ、キュウ……!」
ウソ君が土下座して、その場で白旗を振る。どこから取り出したんだ。
「いいぞー!!」「頑張ったなウソ君!!!」
再び、拍手喝采が巻き起こった。
少女はかぶっていた帽子を脱いで一礼すると、群衆の前に差し出して回った。
みんなが思わずお金を入れていく。銅貨がほとんどだが、たまには銀貨を入れる人も。
「わ、わたしも入れてこようかな……」
「ええ、素晴らしいものには対価が支払われるべきね! ねえ、ノイク?」
興奮した様子のルウリィとフレア。
「あ、ああ。ただ……」
問題は——
「何よ?」
——どうして俺にも、その火柱が見えていたか、ということだ。




