SideB レイド戦の礼儀って大事だと思います14
状況を整理しよう。突如目の前に現れ、現在粉々になった水瓶に代わる新しい水瓶をまた性懲りもなく諸手を挙げて召喚している希源種の"ラパン"さん。水瓶無限召喚? そういうのは水の確保に苦労する乾燥帯地域でやると重宝されるぞ?
んでかっこよく登場しすぐさま手負いというか空腹状態で絶賛目を回しているどら子さん。暴虐竜女とかいう通り名はどこへやら。普段聞かない実に可愛らしい声で空腹を訴えるご様子だがマジで何しに来たよお前……。
「十字ぃ……なんか食べるもの……あたしもう無理だうごけない……」
絶賛準備中の敵を前に堂々とその場にへたり込むのだめだと思うぞ? ほら、ラパンも首を傾げてる。んで水瓶もまた倒れて口を……ってやばいだろおい!
交差点の中ほどで依然動けない様子のどら子へと急いで駆け寄り、水瓶の口から避難させようとするもラパンは両の手を組むと勢いよく振り上げ、巨槌のようなその剛腕を振り降ろし地面を打ち付ける。
バキバキッ!
さながら薄氷にヒビが伝染するかのように地面のアスファルトに亀裂が走り、どら子を抱き上げたところで浮遊感が俺を襲う。
「おいおい嘘だろ!?」
道路の下で陥没が起きたとは聞いていたが俺の想像していた規模と大きくかけ離れすぎている。というかこれもう奈落の底に続く崖なんだが!?
このままではまずいという危機感。だが幸いなことにおつむと体はすぐさまこの状況を打開すべく動いた。いや、"動かしてくれた"というべきか?
まずはF子の幻妖術式がセットされたリングをはめた左手で抱きかかえていたどら子に対し"共鳴"を念じる。これで竜承を覚えた。んですぐ様印章術式をセットしてある右手で"ライトライト"を発動。なおも落下中ということもあり伸ばした人差し指からまっすぐと直線状の光が伸びる。
そしてタイミングを見てすっと横に指を動かし、先っぽだけフックのように曲がらせる。そう、欲しかったのは簡易ピッケルだ。具現化された光を右手でつかみ、竜承の力を活かしそのピッケルの先を壁へと向かい振り下ろす。
狙い通りピッケルの先が壁に突き刺さり、徐々に落下のスピードが減速していく。どれほど深く落ちたかわからないが、次に地面に足がついた底はまるで地底洞窟。いや……地底湖か? ばしゃっと水の鳴る音とともに着地した俺はすぐさま頭上へと目を向ける。それまで広がっていた空が随分と遠くに見える。どうやらこれもまたこの世界が異分子である希源種を隠すために生み出した隔離空間……俺の中では通称"ボス部屋"と呼んでるやつだろう。
「おいどら子! お前空飛ぶ能力とかないのか? なんかこう……"ドラゴンウイング"みたいに翼生やして飛べるとかないのか?」
「うぅ~、あるけどあれすんごくおなかすくから今は無理~」
「あるのかよ!? んで使えねぇのかよ!」
自分で振って自分でツッコミ入れてと大忙しで俺もそろそろ腹がすきそう……あ、てか竜承を使ったからマジで腹がすいてきたんだが……。
「クロ……エラ……」
しずくが滴る暗闇の中、愛する者の名を呼ぶ声が足音とともにゆっくりと近づいてくるのがわかる。どうする……暗くてよくわからんがなんか横穴が続いているようだからそちらに……それとも覚悟を決めてここで迎え撃つべきか。
「クロ……エラ……」
「あー、クロエラはここにはいないぞ。あいつはたぶん今頃学校に行く準備でもしてるんじゃないかな? なんか生徒のスマホにあくどい悪戯してるかもだからそっち行ってくれよ……生徒?」
あれ、待てよ……先生なら生徒のスマホに画像を入れるなんてこと……いや待て、もしも生徒のスマホが無防備になる時間を知っている奴なら? いやいやいや、それでも誰かに見られたらまずいだろうしそれならまだ生徒の自宅ぐらいわかるだろうし
家のポストにでも"紙"を入れたほうが……。
「いや……もし何かしらの事情で生徒のスマホを預かる立場の奴がいるなら?」
「クロ……エラ……」
「おい、ちょっと考え中だから待ってろ」
全く人が珍しく名推理チックに考えてるんだから待ってほしい。あと両手上げてなんか地面からまた新しい水瓶を呼び出すのやめてほしい。んでその口をまたこちらに向けようとするのやめろ。
その辺に落ちていたがれきの破片を手に、竜承の力を全開にしてぶん投げる。分厚い陶器の壁もアスファルトの破片には勝てなかったようで、口から入った瓦礫はいい感じに底に穴を開けてくれた。その様子に棒立ちのラパン。
ポリポリと頭をかいたのちラパンが水瓶に手を添えるとそれは砂のように崩れ土へと還っていく。お? 諦めたか? あ、ダメだわ。また両手を挙げて水瓶を呼び出そうと……って、させるかぁ!
空腹に少しふらついたが俺は右手で"ライトライト"を発動し、刺さると痛そうな槍……のようなものを書く。少々不格好だがそこに竜承があれば十分に脅威だろう。
「お前ほんと調子こいてるとその水瓶もろとも命没収するぞほんと……没収?」
待て待て待て……そうか、預かるじゃなくて没収ならありえるんじゃないか? 授業中にスマホを触ってると先生に怒られ、厳しい奴だと一時没収なんてよくある話だ。これはもう限りなく正解というか真相に近づいたのでは? って、いかんいかん。それどころじゃなかったな。
「これでも……くらえっ!」
俺が投げた輝く槍……のようなものは距離が離れていることに油断していたであろうラパンの左肩を貫く。痛みがあるのかどうかはわからないが、血こそ出てはいないものの貫通したところがどす黒く固まった血の痕みたいになっているのを見るにダメージにはなったようだ。以前のトライドみたいにまた不死身とかじゃなくてよかった。
「クロ……エラ……」
「お前ほんとそれしかしゃべれないのかよ。まだやるようならもう一本いくぞ?」
俺は右の中指を突き立て、にかっと笑みを浮かべる。だがここだけの話、内心めちゃくちゃ焦ってる。というのもここに降りる際のピッケルを作るのに一回。んで今ほど投げた槍のようなものを作るので一回。んで次の一回が最後なのだ。
そう、これまたトライドの時に摩子さんから聞いたが俺の天恵とやらは三芒星。その三角形の辺が全部消えたら寝ないとまた使えないとか。
「クロ……エラ……」
「まだいうのかよ。だからクロエラはここにはいないぞ」
「うぅ……まだ終わらないのかぁ十字? あたしそろそろおなかが限界で目が回って……」
「お前もこの期に及んでまだそんなこというのかよ……」
メキメキッ
俺が投げた槍のようなものが突き刺さっていた壁。深々と刺さった槍を中心にヒビが広がっていく。どうやら薄い壁を挟んでまだ空間が広がっていたようで、そこにはまた暗闇に続く空洞が広がっていた。だが、そこに横たわるように転がっていたものに思わずぞくりと背中に悪寒が走る。
「死……死んでるのか? それに……その服装……まさか"元の世界"の?」
暗闇の中横たわる黒いフードに身を包んだ遺体。損傷が激しくボロボロではあるが、その容姿や風貌から女性だということがわかる。そしてフードの隙間から見えるこの世界のものとは思えないどこか世界史の図鑑などで見た中世を彷彿とさせる衣装。
「クロ……エラ……」
「は?」
ラパンはそれまでのもっさりとした動きからは想像できないほどに倒れた女性のもとへと素早く駆け寄り、そっとその身を起こすように抱きかかえる。
「クロ……エラ……」
ラパンが抱き起こしたことにより顔を覆っていたフードが外れ、その遺体の顔が奴の背中越しに垣間見えた。ああ……そうか、あの女性は俺たちのようにうまく"着地"ができなかったのだ。だらんと垂れたぼろぼろの手。あれは崖から転落し、壁に何度もつかまろうとして擦った傷かもしれない。そして歪に曲がった四肢や首は……。
「そいつがクロエラ……なのか?」
「クロ……エラ……」
そっと倒れていた女性の遺体をこれ以上傷つぬよう優しく抱きかかえ、ラパンは以降俺たちのほうを振り向くこともなく、開けた空洞の奥へと歩いて行った。
拙作をお読みいただきありがとうございました^^




