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SideB レイド戦の礼儀って大事だと思います13

 以下の会話は日を跨いだ深夜のコンビニ、その勤務真っ最中のワンシーン……ということをご理解した上で聞いて欲しい。今回も先に言っておくと無駄・長い・どうでもいいの三拍子がそろったくだりだと思うぞ?



「先輩先輩」

「なんだ?」

「二十歳ぐらいの女性がもらって贈り主に関心がわくものって……なんすかね」

「なんかそれに似た台詞を前も聞いた気が……いや、なんか若干悪化してないか」


 先日見た七辻との朝の勤務の時とは打って変わり、いつもの手より口を動かす山崎。ほれ、陳列中の商品を手にしたまま物思いにふけるのやめれ。しかも寄りにもよってそれチルド商品だぞ。さっさと棚にいれないと傷むだろうが。


「いやぁ、悪化どころか進展、いや、もうゴール直前っすよ! 先輩のアドバイスのおかげっす!」

「そうか。ならその感謝を言葉じゃなく労働という形で返すといい。俺が適度に喜ぶぞ?」

「ちょっ! 相談に乗ってくださいよ~先輩。前回先輩に聞いた七辻さんの情報のおかげで今度一緒に街にペンタブやタブレットの現物を見に行こうって約束をとれたんすよ」

「お前はまず現物じゃなく現実を見てさっさと己の仕事に戻るといい。見ろ、今日はなんか菓子の新商品が多く数も多いんだ。てか店長これ注文数間違ってないか?」


 積みあがった段ボールの数が正直異常だ。え? これ棚に全部入るのか?


「ああ、菓子類はそろそろ夏に向けてどこの会社も新商品をぶっこんでくる……って店長が言ってたっす。なんかウインドウショッピング感覚で楽しそうに発注してたの見たんで」

「その情報をなぜ今日の陳列商品の担当決める前にリークしなかったよお前……」

「ふっふっふ、情報を制する者がこの社会では強者っすよ先輩」


 そういってトンと胸を小突きどや顔を決めてくれる後輩君。なるほどそっちがそう来るのなら俺もそれ相応の対応をしないとな。


「そうだな、情報は大切だもんな。まあ俺は情報を秘匿するなんてマネはしたくないからとりあえず今日のこのくだりを関係者各位にリークしとこうそうしよう」

「このくだりの関係者各位って自分と先輩ともう一人しかいなくないっすか?」

「俺、情弱だから情報戦とかよくわかんないけど……まあ何事も当たって砕けろだしとりあえずな?」

「それ単に自分の思いが砕けるだけだと思います、はい」

「まあ、冗談はさておきマジで今日は商品多いからお前はさっさと陳列終わらせてレジや掃除のほう頼むぞ」

「あれ? 陳列の担当交代とかじゃないんすか?」

「それだと俺が他人様の弱みを利用する悪い奴みたいだろうが」


 邪魔をする気もないし、むしろ応援してやってもいいとは思っている。まあ一緒にいると何かと苦労させられてる感じはするが、憎めないタイプというやつなんだろうなこいつは。てか……山崎がなんかボケーっとしたまま動かなくなったんだが?


「先輩って無愛想そうに見えてやっぱ根はいい人なんすねぇ……」

「おい、侮蔑と賞賛を混ぜてくるな。あと無愛想ってなんだ。こう見えて俺はお前以外の人に対してはちゃんとコミュニケーションというのを大切にしてるんだぞ」

「あ~、いま先輩が無愛想に見えた理由がわかった気がするっす。最近ちょっと実はいい人かもって思ったんすけど……てか自分だけ除外とかひどくないっすか!?」


 ムスッとした表情で口を尖らせつつ商品の陳列を再開した山崎。しかしああは言ったものの俺としてはこいつとも他愛もない雑談をしてた気でいたんだが……いや待て……山崎が言う無愛想だったという俺……それは本当に"俺"だったのだろうか?


「あのー、先輩? なんかボケーっとして固まってますけど大丈夫っすか? あ、もしかして自分のこと適当に扱ってたことを反省してたとかっすか? ははっ、いいんすよ、誰にだって過ちというものはありますし」

「いや~、やっぱ今後も変わらぬ対応で参りますという決意しかないなと? あ、ちなみに今のところ客も少ないしレジは忙しくなさそうだから掃除終わったらお前も陳列手伝えよ。ちゃんとお前が活躍できるよう残しといてやるから」

「なんか単に役割交換するよりひどくないっすか!?」


 客がいないのをいいことにギャーギャーと喚く様子がなんだか滑稽で思わず笑ってしまう。本当に憎めないやつだ。ほれ、陳列が終わったなら次掃除しろよと、俺はくいくいと掃除用具のある方を指さす。


 しぶしぶと掃除に向かう山崎の背を見てふと心がざわつくのを感じる。


"最近ちょっと実はいい人かもって思ったんすけど……"


 山崎が言ったこのセリフが妙に気になった。奴が言う最近とはいつだ? 有栖が俺の部屋に押し掛けるようになった頃……つまりここ一、二か月ぐらいのことか? つまりそれ以前の俺は山崎から見て無愛想だったということか?


「三階……十字か……」


 自分の名前を口にしたはずがどこか他人行儀な気分がしてならない。俺の元の人格であるクロス……いや、それがこの三階十字と融合して生まれたのが俺……なんだよな?


「ちょいちょい先輩? 事件っす! 事件すよ!」

「なんだ山崎? せっかく人がサボり8割シリアス2割で考え事をしているのに水を差すような真似を」

「それならためらいなく水浸しになるほど水を……って、違うんすよ! その水がなんか出ないんすけど? 今日工事あるとか連絡ありましたっけ?」

「はぁ? お前サボり10割の悪だくみのつもりか?」

「それもうただのサボりじゃないっすか……」


 疑心暗鬼で山崎に続き用具のあるバックヤードに入り、掃除用に使っている洗い場の蛇口をひねる。あれ? マジで水が出ないぞこれ?


「工事が入るなんか連絡は来てないが……おい、レジ横のほうはどうだ?」

「ダメっす。やっぱりこっちも水が出ないっすね」


 突然の水回りのトラブルは自宅のみならず職場でも厄介だとよくわかった。これじゃあ掃除はおろか什器の水洗いもできないんだが……。なんか顔に「体《てい》よく掃除をさぼれそうでラッキー」と書いてあるような笑顔の山崎は置いといて、この異変に何だか店の外からもざわめきが聞こえる。


「近くの飲食店もパニくってんのかな? どれどれちょいと様子を見に……レジは任せたぞ山崎。あと俺のやりかけの陳列も暇ならやってていいぞ」

「それならまだ水なしで掃除がいいっす……」


 まあ山崎のことだし陳列は絶対しないだろうから早めには戻らないといけない。店を出てすぐの大きなスクランブル交差点、そこでなにやら人が騒いでいる。なんだ? もしかして水道管が壊れてるとかか?


 人ごみをかいくぐり広がった目の前の光景に思わずごくりと息をのんだ。


「おいおい、冗談のつもりだったんだが、うおっ!?」


 結論からいうと交差点の中心に大きな噴水が出来上がっていた。ああいや、もちろん例えなのだが正直あの勢いはマジで水道管がいかれたとしか……いや、あの激しさは異常だ。実際砕けた地面の破片のようなものが俺の近くに落ちてきて当たっていたら結構シャレになっていない。


 それまで騒いでいたやじ馬たちも身の危険を感じたのか徐々に散開するように消え、駆け付けた警察たちがすぐさま道路に近づかないよう交通整理を始めている。


「あー、なんかこれじゃあ今日はこの後客も少なそうだな……あれ? ラッキー?」


 これじゃあ山崎のことをとやかく言えないな。自然と浮かんだ失笑を拭いがてらぱちんと両頬をはたき、店へと戻る。やれやれ、俺もサボり癖なるスキルを山崎から学んでしまったようだ。いや、バットステータスと言ったほうがいいのか? はは、まあそういうことにしておこう、うん。


* * * * * *


「それじゃあ先輩、すみませんが今日は少し早めにお先に失礼っす!」

「あいあい、次のシフトのやつが来るまでぐらいなら俺一人で大丈夫だ。客もほぼゼロで楽だったしな」

「そうっすよねぇ、毎回こう楽だといいんすけど」

「それだと俺らの給与もゼロになるぞ。まあ馬鹿なこと言ってないでさっさと七辻にどう玉砕されてもいいようにデート後のリカバリープラン考えとけよ」

「ちょっ!? 普通にそこはデートプランがんばれでいいじゃないっすか!?」

「ははっ、まあがんばれよ」


 ふてくされた面をしていたがその足取りはどこか軽い。そんな浮足立った山崎を見送るついでに俺も店の外に出てあたりを見回す。はは、結局バイト中はごたごたしていたようだが、いまは人の姿もまるでない。


 結局水の吹き出した道路の地下で陥没が起きたようで、現在目の前のスクランブル交差点は各方面の道路がフェンスで閉鎖され、車両はおろか歩行者も通行が禁じられている。バイト中に来た作業員の男性も道路には近づかないようにと注意していたが結構ひどい陥没だったのかな?


 普段は早朝のこの時間でも行きかう人の多い通りなんだが、今は俺しかこの世界にいないのかと思えるほどに人っ子一人いない。なんだかこの静寂がちょっと異常というか非現実感を感じさせる。


ボコッ


 何かが地面を突き破り盛り上がるような音がした。そしてその音が聞こえたほうが人の立ち入りが禁じられているほうからした。"何事か?"という興味よりも先に背中に滲む汗の感覚が俺を襲う。


「クロ……エラ……」


 人がいないからこそ、その掠れた小さな声が聞き取れた。そしてその聞き取れた名に……その異様な姿に思わずぞっとした。


 体格的には大柄な力也よりも一回りでかい……いや、異様に隆起した体といえばいいか。ぼろぼろに擦り切れ、いたる所が欠損した服に身を包んだ男性と思しき存在。そしてその顔は漆喰で塗り固めたかのようなのっぺらとした黒い面でもかぶっているように見える。


 俺はとっさに腰に手を伸ばすも毎度のごとく空を切り、すぐさま拳を構える。落ち着け俺……今は確かF子の"幻妖術式"、で支配眼《ドミネート・アイ》。そして前回役に立ったのでそのままセットした摩子さんの"印章術式"でライトライトが使える。


「支配眼《ドミネート・アイ》はたしか念動力みたいなもんだっていってたが、ぶっつけ本番だがいけるか!?」


 支配眼《ドミネート・アイ》の力を念じ、刹那瞬きをしたらそこには奇妙なものが映っていた。なるほど、響はたしか見えざる手と表現していたが……ちょっとまって、あれなんか指一本しかないんだけど?


 何やら俺のイメージ通りに動く人差し指だけを突き出した手がふわふわと浮かんでいる。ためしに近くの石ころをつんつんとつつくとコロコロと動いてる。なるほど、腕一本分とまではいかないが、俺が指一本分の力で動かせるものなら念じれば自由に動かせそうだ……でも目の前のあいつ絶対そんなひ弱な力じゃ1秒も止めれる気がしないんだが?


「とりあえずツンツンっと」


 目の前の希源種《オリジンワン》と思しき化け物の後頭部をツンツンとつついてみる。すると化け物はポリポリとつつかれたであろう場所をかき、後ろを振り向く。


「なるほど……よし、いったん封印だなこれ。てかなんかやけに朝日がまぶしい」


 俺が一人うんうんとうなずいていると目の前でまたも驚きの光景。希源種《オリジンワン》がすっと両手を上げるとまたも地面が隆起し、何やら馬鹿でかいものが地面から突き出てくる。あれは……壺? いや……水瓶か?


 突如現れた水瓶はゴロンと転がり、まるで深淵へと続く大穴のようなその口を俺へと向ける。何事かと思ったが……ただ事じゃないのはすぐに分かった。


「くっ、なんだ? 体が熱い? いや……おいおい、これってまさか!?」


 俺は慌てて自身に向けられた水瓶の口から逃げるように横へと走る。そしてバイトの制服に守られていないあらわになっていた腕を見て理解した。あいつは"水分を吸っていた"のだ。その証拠に、腕がひりつくように熱い。


「人が干からびて死ぬ……だったか? くそっ! まだクロエラには会えていないのにその彼氏さんが先に来るのかよ! なあ、"ラパン"」


 "絶望をため込むもの"。どういった理由でそんな名がつけられたのかは知らないが、今はたぶん俺のほうが絶望している。志亜さんに気をつけろと言われたばかりだが、気をつけようがないぞこんなの。


「クロ……エラ……」

「あいにく俺の名は元の世界じゃ"クロス"だから"クロ"違いだ。わかったらいったんお引き取りしてまたのご来店をお待ちしていませんで別れたいんだが?」


 ラパンがすっと腕を振るうと水瓶はクルクルと回りまたもその口を俺へと向ける。おいおい、冗談じゃない。


 俺が舌打ち交じりで再度走り出そうとした瞬間、目の前の水瓶に向かい何かが飛来し、その衝突の衝撃で見事に粉砕された。


「あははははっ! なんだ"黒塗り野郎"、ま~たあたしにぼこぼこにされにやってきたのかよ?」


 突如現れたバイオレンスな雰囲気の女性。はは、今はなんだかそれがすごく頼もしい。


「おい、あいつとはお知り合いなのかよ、"どら子"?」

「お、なんだ十字? フライドチキンを買いに来たんだけど……お前の働いてる店そういやここだったな」


 にかっとした笑顔で振り返ったどら子は先日の眠そうな面とは一転して生命力を持て余すほどに元気だ。ど派手な赤のレザージャケットと黒のショートパンツも相まって……え? もしかしてこいつの仕事って夜の店とかそういう? いやいやいや、いまはそこはどうでもいい。


「今はチキンよりもあいつをどうにかしてくれよ。今ならもれなくもう一匹の鳥の希源種《オリジンワン》も譲ってやるから」

「そういや鳥の群れみたいな希源種《オリジンワン》がいるって言ってたなお前ら。なるほど、あいつがいればこいつもいるよな。ははっ、セットでお得ってやつだ」

「これほどまでにセットで損した気分になったことないぞ俺?」


 バチンと大きく拳を手に打ち付け気合を入れるどら子。そのうち付けた拳が火の光を浮かべ、メラメラと音を立てて燃え出す。


「まあこんなやつ一回戦ってるから朝飯前だ……あ、そうだ……朝飯前だった。術式なんか使ったら……」


 今から戦おうというのにものすんご~く気の抜けた声のどら子さん。あと不穏な空気。あ、燃えたばかりの手がもう消火してる……。


「十字~、なんか食べるものないか~? あたしもう……きゅ~」


 うん……どうしようほんと。絶望しかないんだが?


拙作をお読みいただきありがとうございました^^

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