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SideB レイド戦の礼儀って大事だと思います12

「ああ、十字さん。今日は大変でしたし、もうお休みになるところでしたか」


 俺の部屋の隣、F子の部屋から出て来たのは部屋主ではなくこのアパートの管理人こと志亜さんだった。もともと俺に用事があったのだろうか、横に並ぶと先ほどの俺のようにどこか遠くを眺め、すっと目を閉じる。


 しばしの沈黙。さて、今目の前にいる彼女は"どっち"だ?


「え、ええっと、今晩はもうそうしようかと。正直何が何やらという感じなので疲れましたし。あと明日はまた夜勤で夜は寝れないですから」

「それがいいかもしれませんね。突然カラスの群れに襲われるなんて体験はそうそうありませんから」

「ははは……その体験を逃した身なんですけどね」

「以前お聞きした黒い画像は力也さんが飛鳥さんのご友人のスマホごとお持ちしたと聞きましたが?」

「ああ、そのはずだったんだけど。やはり黒い画像データの入った端末を持つだけじゃダメだったみたいで……ええっと、もしかして今回のこと怒ってます?


 管理人さんモードの志亜さんはすっと髪をかき分け、再度視線を俺から外し遠くを眺める。もとは好みドストライクの部類だったのでその凛々しい横顔に見とれるなという方が無理だ。でもあんま見てるといろいろと怖いのでそこはチラ見で我慢な?


「この世界では遠くのものと連絡を取るすべがあふれているな、"クロス"」


 あ、志亜さんこと"シーア"の声のトーンと俺のテンションの変化を感じる。あと心拍数も内心爆上がり中なのは秘密。


「……元の世界では"共鳴石《きょうめいせき》"とやらがあったんだろ?」

「なんだ、もう聞いているのか?」

「詳しくはまだ教えてはもらってないけど察するに異世界のスマホみたいなものじゃないのか?」

「ふふっ、そんな便利なものでもないし……無粋なものでもない」


 そういってシーアはふと胸元で見えない何かを指で擦《さす》るような仕草を見せる。俺が首をかしげていると彼女はくすりと笑った。


「"共鳴石《きょうめいせき》"は互いに思いあうものでしか連絡はできない」

「はい?」

「言ったとおりだ。もとは一つの青い結晶。それを二つに砕き装飾品などに加工して互いに持ち合うのさ。それこそ、肌身離さずに……な」


 どこかもの悲しい表情で再度胸元で指先をすり合わせるシーア。なるほど、もしかしたらシーアは共鳴石をペンダントにでもして装備していたのだろう。そして相手と連絡を取り合うたびに石を愛おしそうに指で撫でていたのかもしれない。そしてその相手は……。


「今回は絵芽に危害が及ぶことはなかった。だが……生憎と私や絵芽は"やりなおし"が聞かない身だ」

「え?」

「言葉通りだ。お前の……この世界ではコンティニューと呼ばれているんだったか?まあ、その術式は私と絵芽には効果が無い」

「そ、そうなのか? というかなんでだ?」

「ふふ、私たちは"同族"だがどいつもこいつも相性が悪いということだ。肝心なのはそこじゃない。つまり私と絵芽はこの世界でも死んだらそれまでということだ」


 死ねば終わる……その当たり前の事実を言われただけのはずなのに、言いようのない強い違和感に気が付けば手は頭を押さえていた。頭が痛いわけではない。ただふと当たり前のことを忘れていた、それがなんだか怖くなった……といえばいいのだろうか。


「困惑しているのがまるわかりだぞ。まあ、無理もないか。お前はこの世界の常識とセブンスフィールドの常識が混じりあった状態なんだろうが、どちらかというとまだこの世界でのお前、十字の魂が強く出ているみたいだからな」

「魂って……それもたしか元の世界とやらの常識だろうが。これ以上いたいけな俺を怖がらせるなよ。泣くぞ?」

「それはフリか?」

「違うからもうおやすみを言わせろ」

「そうだな、それがいい。だがこれだけは言わせろ」


 そういってシーアは突如俺へと顔を近づける。いや、近づけすぎじゃないか?


「"やりなおし"を当てにするな。私たちからすると、死んだはずの連中が何事もなく戻っているのを目にするのは気分が悪い。それに、お前もそう何度も死にたくも……死なせたくもないだろう」

「お、おう……」

「希源種《オリジンワン》どもを相手にするなら常に神経を研ぎ澄ませ。私が言うのもなんだがあいつらはまさに常識とは対極の存在にして能力の持ち主だ。そして……この世界の常識や技術とやらに順応し、変化している」


 もしかしてアドバイスをくれているのか? 少なくとも俺には絶対そういった優しさを向けることはないと思っていたんだが……。優しいところもあるものだ……。


「勘違いするな。お前たちが不甲斐ないと絵芽にも危害が及ぶ。そうなると私は何を差し置いても、何を犠牲にしてでも絵芽を守るぞ?」


 あ、やっぱり怖いです、はい。


「まあ、今回は無事だったしそもそも予感はあった」

「予感?」


 俺の問いにシーアはそっと近づけていた顔を離し、振り返るようにF子の部屋、いや、中で眠る絵芽の方を見つめているのだろう。


「絵芽がうなされていたし危険が迫っているかもしれなかった」

「え? それが予感の根拠?」

「そうだ。それで十分だ。"エメル"の予感は当たるしな。それに……言っただろう?」


 俺に背を向け、部屋に戻ろうとドアノブに手をかける。そしてそのままドアを開くこともなく、俺に目を向けることもなくぽつりとつぶやいた。


「この世界では遠くのものと連絡を取るすべがあふれている……それこそ、言葉だけじゃなく……ねえ、十字さん」


 その言葉を残し、シーア、いや、志亜さんは部屋へと戻っていった。


* * * * * *


「そういうことかよ……」


 騒動のあった日の翌朝、飛鳥ちゃんから渡された彼女のスマホを見て昨晩の志亜さんが言っていた言葉の意味が理解できた。考えてみれば"この世界"では簡単なことだった。


「まさか画像がこんな方法で……いえ、迂闊でした」


 飛鳥ちゃんは下唇を噛み、食堂のテーブルに両の拳をつけ体を震わせている。今食堂には俺のほかに有栖、飛鳥ちゃん、そして響が集まっていた。俺以外のみんなも悔しがる飛鳥ちゃんが居たたまれず、再度スマホへと視線を逃がす。


「この世界じゃ画像データなんていくらでも送りようはあるわけだ。そしてクロエラの憎悪の対象が餌になりえない場合は餌を求め雛鳥は移動する。だからこそ、昨晩雛鳥は"SNSのメッセージ機能"を使い、直近で連絡をとっていた飛鳥ちゃんの携帯へと"移動"したわけだ」

「そもそも黒い絵が現物ではなくデータとして存在している段階でその可能性を考えなかったのは確かに油断と言わざるを得ない。くそっ……情けない」


 テーブルにつけた握りこぶしにさらに力を籠め、今度は自責の念に駆られた響の体が震えている。まあ、俺としても正直今回の件は情けない限りだ。


 飛鳥ちゃんのスマホの画面に映った黒い画像。昨晩見たそれと違うのは卵のような白い丸は砕けたように散り散りとしており、中の雛が孵ったことを物語っていた。


「オリジンワン達もこの世界に来て変化していると……昨晩志亜さんにも言われた。どうやらやつらの能力や特性なんかもこの世界に合わせて変化しているみたいだな」

「そうみたいですね……これじゃあこの手記の情報だけ鵜呑みにしていると痛い目にあいそうですね」


 有栖がそう言ってカバンから取り出した相変わらず白紙で綴られた手記。まあヒントにはなるがそのまま攻略本とは言えなくなったな……でもよくよく考えると今のところそこまで役に立った情報載ってた記憶ないけどな!


「そういえば黒川さんの姿が見えないけど、一度家にでも帰ったのか?」

「あ、はい。昨晩は友達の家に泊まるといって来てましたが、昨晩の件もあって家族も心配してるからと」

「そうか……まあある意味ちょうどいいタイミングで離席してくれたな」

「え?」

「昨晩何があったのか……教えてほしいな」


 当然といえば当然の俺の問いに飛鳥ちゃんはこくりと頷く。昨晩は脱線に次ぐ脱線でまだ詳細を全然聞けてないからな。たしか昨晩は零華の携帯を通して志亜さんから有栖に連絡があったが、いったいどんな経緯でそうなったのか聞きたい。


「皆さんが出かけたのが八時ごろでしたよね? 皆さんが出てすぐにF子さんも部屋に戻ると言って出て行って……それからしばらくは私は黒川さんの気を今回の事件からそらしたくて色々とおしゃべりをしてたんですが……そしたらF子さんがしばらくしてまたやってきて零華さんに何か綺麗な石を渡していました」

「あー、精霊結晶《スピノプラタ》とかいってたなそういや」

「そうそう、受け取った零華さんもいつものおしとやかな雰囲気と違ってすごく驚いてました。F子さんにどこでこの石を手に入れたんだって詰め寄っててさすがにF子さんも泣きそうな目で助けを求めてきてたので間に入って宥めてて……」

「何してんだあいつら……」


 昨晩なんだか零華はすごくげんなりしていたが、おそらくあれは襲撃以外にその精霊結晶《スピノプラタ》とやらのことで頭がいっぱいだったんだろうな。


「それで……その後どうなったんだ?」


 おっと、危うくまた脱線するところだった。響の話の先の催促に俺もはっと緩みそうになっていた顔を引き締める。


「奴が姿を現したのはまさにその時でした」

「……クロエラか」


 俺の口から不意に飛び出した名に……飛鳥ちゃんはすんなりと首を縦には振らなかった。


「食堂のガラス戸越しに見えたのは全身を覆う黒いレインコートに身を包んだ人影でした。そして奴が私たちのほうに指をさすと……それは遅いかかってきました。話にも聞いていましたがあれは本当にカラスのように真っ黒な鳥。ただその色はカラスよりも夜の闇よりもどす黒く……本当に憎悪という感情が具現化したような気味の悪い"黒"」


 昨晩の襲撃を思い出し少し緊張した様子の飛鳥ちゃん。だが流石は力也の妹というべきか、それでも臆することなく小さな深呼吸を挟み話を続ける。


「私はすぐに黒川さんを食堂の奥のほうへとさがらせました。そしてその間にF子さんと零華さんがクロエラの雛の相手を」

「ん? F子はいいとして零華も? あいつ子供たちがいないと術式を使えないんじゃないのか?」

「そのはずだと私も思ってたんですが……零華さんは何の問題もなくセブンスフォードの時のように精霊術式を使われていました。少なくとも、零華さんの"フラムプロテクト"のおかげでクロエらの雛はガラス戸を破った後も食堂の中には近づけず攻めあぐねていました。そして敵の動きが散漫になったところをF子さんが支配眼《ドミネート・アイ》で徐々に叩《はた》き落とすように倒していきました」

「ドミネートアイ?」

「三幻眼の魔女《トライアイウィッチ》の魔眼の力の一つだ。幻妖術式の中でも最上位と言われる能力の一つで"アイギス"……いや、瞳の得意とする術式だ。この世界では"念動力"といえば伝わりやすいか。奴にしか見えぬ見えざる手で相手を攻撃するといわれている」

「なにそれずるい。てか、あいつそんなに強いのか!?」


 問いに答えてもらってあれだがあのF子がそんな戦闘力強いとか……いや、あいつもまた境界を分かつもの《アナザーディメンション》の一人。種族の代表だからやはり強さは常人の比じゃないということか……でもやっぱり納得いかん!


「はは、正直零華さんとF子さんのお二人が全部片づけてくれたようなもので……私は黒川さんに危害が及ばないように……またお二人の力が見られないように必死に抱きしめて守ってただけで、あはは……」

「そう悲嘆する必要はない、飛鳥。お前のおかげで黒川さんは無傷だったのだろう。何より、お前が彼女の視界を遮ったおかげで二人も術式を気兼ねなく使えたということだ。お前はお前の役割を果たした。むしろ俺たちがふがいないばかりに……すまない」


 深々と頭を下げる響に飛鳥ちゃんは慌てて頭を上げるよう頼みこんでいる。それを見てばつが悪い俺と有栖……どうするよ? 俺たちも一回頭下げたほうがいい?


 俺と有栖はそっと互いに顔を合わせたが、うん、ここはやはり便乗したほうが無難だよな。


 その後俺と有栖も響に倣い頭を下げたところで飛鳥ちゃんが申し訳なさ過ぎて泣きそうになってたが……いやまあ、あんだけ昨日格好つけといてこのざまだしもう少し頭下げておこうな。


 あ、ちなみに雛を撃退したらいつの間にか例の人影は消え、零華が術式の反動で眠そうになって倒れたところに志亜さんがやってきて零華のスマホを借りて有栖に連絡したとのことだった。


 なぜ零華のスマホから志亜さんが連絡をと思ってたが……理由は至極簡単だった。


「このご時世にスマホはおろか自宅に備え付けの電話もないとかマジか……」

「マジです……志亜さん、連絡手段は共鳴石だけがいいって言ってスマホ持たないんですよ。というかあの人、普段は私のスマホを連絡手段にしてますからね……」

「それで務まるのかよ大家業……」


 上は飛鳥ちゃんや響と別れ部屋に戻る直前の有栖との会話な? てかそれでよくまあ昨晩この世界では遠くのものと連絡をとる術《すべ》が多いとか何とか言えたなあの女……。

拙作をお読みいただきありがとうございました^^

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