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SideA 怨嗟は斯くして連鎖して11

「なるほど……あの石橋の上で率先していがみ合っていた奴らの大半がここにいるな。次の茶番の打ち合わせ中とかだった?」


 床に飛び散る扉だったものの破片。その場にいる者すべての視線をかき集め、真っ白な仮面をつけたシーアは物怖じする様子もなくぶっきらぼうに言ってのけた。


 村の入り口で警備をしていた村人と違いどこか荒事に慣れているようながたいの良い男たち。優に二十人は越えるであろう男たちはそれまでずさんな警備がてら酒を交わしていたのだろう。各々の得物ではなくそばに転がる空き瓶を手に侵入者を睨みつけるものもいる。


「誰だか知らんがここは宿屋でも酒場でもねぇぞ? あいにく引き渡す戒律等兵《プライア》もこの村には常駐していなくてな?」

「おい、こいつ……もしかして女じゃないか? その仮面の下が見れた面なら俺たちのほうで穏便に処理してやればいいんじゃないか?」

「それはいいな! ちょうど雇い主さんからの差し入れも切れそうで退屈してたところだしな」


 シーア同様に臆する様子もなく、むしろシーアの風貌から異性と気づきにんまりと下卑た笑みを浮かべる者が多数。そんな彼らとは対極的に、シーアは仮面の下に嫌悪感といら立ちを募らせていく。


「おい待てお前ら……そいつの身なり……それにその足鎧《レッグアーマー》」


 どこかこの場に酔いきれず冷めた顔をしていた男がはっとした表情で指さす。男の指示に何人かの物がシーアの正体に感づき、すぐさま空瓶を捨て得物へと手を伸ばす。


「村長さんは……いや……村長さん"達"はいるか? 取り次ぎや案内は不要。自分で行く。だからまあ……さっさとかかってこい、"雇われ"村人ども」


 開戦の合図代わりに誰かが投げつけたであろう酒瓶。それを難なく手で受け止め、同時に襲い掛かって来た男の突進をひらりとかわすついでに手にした酒瓶で頭を殴りつける。


 衝撃に気を失ったのか勢いを殺すこともできずそのまま堅牢な壁へと激突し、階を跨いでふき抜けとなっているエントランス全体に打楽器よろしく派手な破砕音を響き渡らせる。


 仲間がやられた様子に怯むこともなく男たちは我先にとシーアへと武器を構え挑んでいく。荒々しい動作で迫る男たちに対しシーアの動きはまさに優雅に岩の間を流れる水の如し。すべての動作が定められた結末……歯向かうものを地へと還す終焉へと流れるように導いていく。


 突き出された剣先を払いのけた手をそのまま拳へと変え顔面へと叩き込み、叩きつけられた巨槌を交わすステップの勢いそのままに足を振り上げ反撃の蹴りを無防備な脇腹へと食い込ませる。


 機敏な動きでシーアとの距離を詰め拳を繰り出すもその手にすっと伸びたシーアの手がやさしく包み込み……次に男がシーアの顔を見るときには天地逆転したかのように足元に天井が広がっており……何が分かったのか気づいた時には背中を襲うすさまじい衝撃とともに目の前が真っ暗になっていた。


 一人でダメなら二人がかりで……そう考え息を合わせ獲物を挟むようにして剣で薙ぎ払う男たち。そんな彼らもいままた自分たちが繰り出した刃と刃の狭い間をまるで空中で踊るかのように身をひねりかわす妖艶な動きに目を奪われる。それが致命的な隙となり、着地と同時に襲い掛かるシーアの反撃に対応できず地面へと伏していく。


 こうしてダンスの相手を誘うように群がる男性達をすべて相手にとって"不足あり"と振り払っていくシーア。彼女が二階へと続く大階段の前につく頃には彼女の目線に並び立つ者はおらず、彼女の膝元より下、所々がひび割れ血や散乱物で荒れ果てた床の上にすべての男たちが転がっていた。


「ブラッディを使わなくてこれか……"やられて"また強くなっているな……ははっ」


 乾いた笑いとともにその場に少女はその場に残すようにぽつりとつぶやいた。


* * * * * *


コンコンコンッ


「なんだ? 今取り込み中だ、後にしろ。ああついでだ、連中にバカ騒ぎもほどほどにしておけと伝えろ。酒を飲むなとは言わんがやかましくて敵わん」


コンコンコンッ


「おい、聞こえなかったのか! こっちは取り込み中だと言っている」


コンコンコンッ


「ええい、使えんやつだな! 誰だ一体……な!?」


 荒々しく押し開けたドアが開くと同時にこれまた荒々しく伸びた腕がドアの前に立つ男の顔面を掴む。


「仲良くご歓談中のところ失礼、ブラン村長。そして……バート村長」

「は、はぁ!? お前……はぁ!? なぜ……」


 シーアは掴んでいたブランを乱暴に投げ捨て、ソファから驚きのあまり立ち上がるバートを、そして尻もちをついたまま驚きの表情で見上げるブランを交互に睨み付ける。口元こそ笑みを浮かべているものの、対照的な感情に満ちた瞳がすべてを物語っていた。"ただではすまさない"……と。


「先に言っておくとバカ騒ぎの元は断っておいてやったぞ。話し合いは静かにしたいと思って……なぁ?」


 作りこんだとわかる笑みを向け、目線でソファに座れと合図する。当てにしていた援軍も来ないと察し、二人は恐る恐るといった動きでソファに並んで座る。それを見てシーアも向かい合うようにソファへと腰を下ろし深くもたれかかる。


「さて、何から話そうか。まあとりあえず話の腰を折ってしまったから、お前たちの話を続けてくれてもかまわないぞ? 私は酒を飲んで騒ぐこともなく静かに聞いてやるぞ?」


 謙虚と高圧を兼ね備えたシーアの態度に思わずごくりと喉を鳴らす二人。やがてブランは深く呼吸をしたのち、必死に引き締めた表情でシーアを見る。


「お前が……いや、君が腹を立てているのはわかる。私たちは君に殺されても文句が言えないことをしてしまったのだから。だが、それでも弁明をどうか許してほしい」


 冷や汗どころの騒ぎではないほどに汗ばんだ額。それでもブランはすがるように手を組み、ふと顔を俯ける。それを横目で見たバートもうなだれる様に首を垂れる。


 シーアはというと肯定するでもなく否定するでもなく、ただ無言のまま冷ややかな視線を向けている。再びの深呼吸を挟み、ブランはゆっくりと口を開く。


「君はこの村で起きていることをどこまでわかっているかね?」

「……アデム家とロナド家、それにエイド家だったか? 派閥のようなつながりがあり、黒い紙をエイド家のものに"死"もろともなすりつけて監禁している"程度"だな」


 シーアの回答にブランは思わずため息を漏らす。そして頭を押さえ頭痛を振り払うかのようにかすかに首を横に振る。


「そこまでわかっているなら私たちの立場を……いや、私たちの犯した罪を少しはわかって欲しい」

「わかりたくもないし、許したくもないな」

「……この災いの元凶がエイド家の……この村がまだ一つだったころの領主である奴らの一族が原因と知ってもか?」

「え!? そうなの? ……そうなのか?」


 予期せぬ新情報に刹那、素に戻ったシーアだったがすぐさま取り繕うように落ち着いた声で問いかける。


「あいつらは魔女を……黒き災いの鳥を招く魔女を匿っていたのだ」

「魔女?」

「そうだ……魔女は使用人として当時領主であった"ヴァイス"が率いるエイド家に取り入ったのだ。そしてその息子をたぶらかし、"ヴィルギラの村"を支配しようとしていたのだ」


 ブランはどこか苦虫を噛み潰すかのように苛立ち、せわしなく足を揺らしている。シーアはその様子を静かに見守っていたが、ふとしまっていた仮面を取り出しそっと立ち上がる。二人に背を向け仮面をつけるとゆっくりとした足取りでテラスに続く窓へと歩いていく。


「少し待ってろ……ここは空気が悪い。」


 シーアは窓を開けテラスへと出るとそっと胸に手を当てる。ブランとバートはシーアが立つと同時に思わず身構えたが、シーアが何もせず自分たちから離れていく背を見て小さく安堵の息を漏らし互いの顔を見やる。


「おい、聞こえているか? 話は終わったわけじゃないんだろう」

〈シーア!? あれ? つなが……〉


 シーアが大きくせき込むとブランとバート、そして刹那聞こえた声の主はびくりと驚きから体を震わせる。


「あー……それで、ヴィルギの村の村長バート。そしてラヴィルの村の村長のブラン。今回の事件についての話を続けようか。両村で発生している黒い紙の呪い。その紙を持ったままだと死ぬという呪い。ああ、ちなみにヴィルギラの村というのはこの村がまだ一つだった時の名前だな? そしてそのヴァイスというのがエイド家の当主にして領主……だったな?」

「あ、ああ……」


 シーアのまくしたてるような説明に場の空気にそぐわぬきょとんとした表情の二人。銅像のように微動だにせず呆けていたが、シーアの背中越しに伝わるはりつめた緊張感にはっと我に帰ったのかぶんぶんと頭を振る。


〈シーア……大方話が難しくなってわからなくなってきたから私にも聞かせようとつなげたんでしょ〉


 胸元から聞こえる夜風に溶けてしまいそうな微かな声に思わず喉を鳴らすシーア。シーアにしか聞こえぬ声は同じくシーアにのみ威圧感をひしひしと伝えていた。


〈人を心配ばかりさせておいてほんっとうにもう……帰ったら覚えててね? 悪い子ちゃん?〉


 仮面をかぶっており、あまつさえ背中を向けていたため二人からはシーアの表情は読み取れなかったであろう。だが当の本人はある意味二人以上に恐怖からか体を硬直させており、ぎこちない様子で何とかブランたちへと振り返る。


 無論、仮面の下には本日一番のげんなりとしたシーアの表情。


「じゃ、じゃあ続きを聞こうか……」


 引きつった口を動かし、なんとか話は再開された。

拙作をお読みいただきありがとうございました^^

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