SideB レイド戦の礼儀って大事だと思います10
こういうのもあれだけど初めてじゃないか? 真面目に攻略というか? 敵を倒すために一致団結してるのは? ただし一部を除く。
「その……さすがに寝ているとはいえ子供たちを残していくのは……」
「しょ、しょうがないですよ零華さんは! その気持ちだけで十分ですから!」
先ほどはこの後起こるであろう戦いに意気込んでいた零華だが冷静になったのだろう……有栖に励まされてどこかしょんぼりと肩を下ろしている。そうだよな、子供を連れていっても残していっても夜中の戦闘はまずいよな。
零華はそもそも子供たちがいないと精霊術式が使えないらしいし、これはしょうがない。いたしかたなしだ。
「すみません……お力になれなくて。その……夜はやはり視界が悪くて」
「適材適所というものだ、飛鳥よ。それに、今は友の傍にいてやるがよい。画像は念のためスマホごと一旦我が引き受けたとはいえ、何が起こるかはわからんからな」
おそらくこの戦いに一番参加したかったであろう飛鳥ちゃんだが彼女は夜目がきかない。先日そういえば翼が生えてたけど”陽紅鳥”とかいう鳥の獣人族みたいなものだっけか? まあ力也の言う通り今は黒川さんのそばにいて上げてほしい。
さあ、ここまではいいぞ? 俺的には100パーセントまっとうな理由として認定しよう。
「ふわぁ~……よくわかんないけど……? ようは鳥の群れなんだろ今回の希源種は? あいにく鶏肉は美味しく食べてるから間に合ってるぞ。それに……あたしはさっき仕事から帰ったばかりで眠いんだよ。だ・か・ら、今回の獲物はお前らに譲ってやるよ。お礼は今度チキンナゲットXLサイズ奢りでいいぞ?」
「お前……眠いって言いながら現在進行形でチキン貪るのってどうよ? 寝る前に揚げ物とか胃もたれ……しないのか、お前胃袋ドラゴンだもんな」
眠たげな瞳を浮かべたまま手にした袋から次々とフライドチキンを取り出しては口に淀みなく運び続けるどら子……。なんだか見ている俺のほうが胸やけが……。
何してるか知らないがお仕事帰りという理由よりもチキンに飽きたという理由のほうが……いやまて、ナゲットをあほみたいに要求しているしそれはないか。まあ色々ないわ、うん。
「うひひひひひ、私の力が必要か? だが残念だったな! 今晩は先約ありだ! というかおでかけ禁止令を志亜姉さまに言い渡されたからイン・イン・インポッシブルぅ!」
「お出かけ禁止令を志亜さんから? 何かやらかしたんですか? F子さん?」
「聖女様がデフォで私を罪人認定! うひひ、我が業もついに越えてはいけないラインを?」
「んで……何やらかしたんだよお前?」
「……電気代が越えてはいけないラインを越えちゃって今晩待機当番言い渡されちゃった! うひひひひひ!」
なにその理由&役割。え?引きこもりに待機当番とかご褒美じゃないの?
* * * * * *
とにもかくもだ? 食堂を出たのち、最大8人まで乗れる力也の車は満員になることもなく俺、有栖、響、摩子さん、そして俺の横で運転中の力也を乗せ移動中だ。
さすがに前情報で10メートルを超えるサイズの馬鹿でかい鳥が相手となっては被害を避けるために人気のないところへ移動しとかないとな。
「もうそろそろ着くぞ、お前たちが以前"トライド"とやりあったというパーキングエリアに」
「ああ、ありがとな。あそこなら人もいないし広さも十分だろう」
先日トライドとやりあった山中に続く道の途中にあるパーキングエリア。最初はさらに先に行った展望スポットのほうが開けているのでいいのかと思ったが力也曰く「空を飛ぶ相手を前に遮蔽物がないところで戦うのは不利」とのことなのでこちらにしたわけだが……。
「なあ、この中で空を飛ぶ相手にまともに攻撃できるのって誰がいるんだ?」
「ああ、そうですね。戦いの前に皆さんの戦闘手段を聞いておきたいですね」
「有栖君は俺のうちのドアを豆腐にする"トウフメーカー"でまあ大人しく時間をつぶしているとして他はどんな感じだ?」
「え? なんですその術式所有者も初耳の名称?」
有栖の反論の視線はスルーして……今回はちゃんと準備しとかないとな。相手ま~じでボスっぽいからな。控えめに言って怖いからな、うん……。
「響の"詠唱術式"をセットすれば俺も"ハウリング"を使える。あと、出がけに揚げ物の油でギトついたどら子の手に我慢して触れて"竜化術式"をセットしたからな。まあ竜承を使ってその辺に転がってる石でも投げればノーダメってことはないかな?」
「ふむ、我は遠距離の攻めは好かんが、無いわけではない。我が身に宿る剣獅子は爪の鋭利さも剣さながらだが、相手に合わせ爪や牙の形状を変えて戦う万能にして万の獣に勝る力。その中には飛ぶ鳥をも切り落とせる遠距離型の爪撃もある」
ふむふむ、飛ぶ鳥を切り落とすとか今一番必要で頼もしいワード。是非とも力也君には俺の出る幕をなくす作業にいそしんでほしい。てかマジで頼んだ。
「飛ぶものが相手となると"ハウリング"だけでは少し効率が悪そうだな。あれは相手との距離が遠すぎると衝撃が飛散しやすくなる」
「え? そうなのか?」
「我ら天人族の詠唱術式は声による力の具現。声の通りが悪すぎる距離では威力も落ち気味だ。"ハウリング"は音の波を増幅し具現化し、衝撃として相手に伝えるものだが、遠いほどにその衝撃の威力も落ちていく」
響の説明に驚くも何となくしっくりはきた。騒音を通り越した爆音はそれだけで思わず体を震わせる。ましてそれが具現化した見えない津波のように襲い掛かることを想像すれば……そうだな遠くに離れると波も弱まりそうだわな。
トントンッ
あ、今日のコミュニケーション手段はそっちなのねやっぱ。
『あいかわらず詠唱術式はポンコツ。"重ね掛け"でもしていろ。喉がもつならな』
ホワイトボードを手に少しドヤった表情の摩子さん。相変わらず響には敵対心が剥き出しだが、"重ね掛け"ってのはなんだ?
俺の疑問を察したように響はこくりと頷くと口に手を当てすっと目を閉じる。あれ? それではうまくしゃべれないのでは……?
「すでに声は残しておいた」
「うおっ!? え? 今の声って……響だよな? え?」
驚く俺を見て少し意地悪な笑みを浮かべ、口に添えた手を外す響。
「"セット"と呼ばれる声を設置する術式だ。声を残し、任意のタイミングで放つことができる。最も、声を残している間も喉を消費してしまうのだがな」
「そ、そうなのか。いや、いきなり声が聞こえたときはビビったぞ」
「はははっ、驚かせてすまないな」
俺の横にいた有栖もなんだか手品でも見たお子さ……観客のように目を輝かせていたのだが俺の声なき声を察してか獰猛な瞳に変わってく。あぶないあぶない。
「でもなんだか声が遅れて聞こえるとかいう腹話術みたいなもんだよな? これが同攻撃につながるんだ?」
「ふっ、わからぬか十字よ。"セット"は声を残す術式。そして詠唱術式はまさに"声"による術式」
あー、そういうことかよ。つまりうまく使えば詠唱術式を一人で同時に何度も、いや、"重ね掛け"と摩子さんも表現していたことを察するに同じ術式を重ねて発動することで威力が上がるのだろうな。
「"ハウリング"を何重にも重ねて発動もできるってことか?」
俺の問いに響は不敵な笑みで応えてくる。
「単に一度の渾身の"ハウリング"を発するよりも幾重にも重なる"ハウリング"のほうが威力も高く、何より喉の持ちも良い。まあ、その分術式を放つまでに時間がかかってしまうがな。まあそこは印章術式も同じだろう? 摩子」
トントンッ
『戦いに備え声の温存でもしていろ。というか黙れ』
むすっとした表情でなおもペンをすさまじい速度で走らせる摩子さん。そういや以前ものすごい速さで馬鹿でかいトンボの化け物の絵を描いてたが、もしかしてこれも術式なのか?
トントンッ
『印章術式は本来複雑な印を結ぶことで様々な力を顕現させるもの。お前らのようなぽっと出てぱっと消える貧弱な術式とは違う。それに、私たちも印章をキープしておけば即座に術式は発動できる』
「キープ?」
また謎の表現が出て首をかしげていると横からくいくいと俺の肘を引っ張る有栖。
「天魔族の印章術式は複雑な印を完成させると同時に術式としての力を顕現させます。ただし力が強い術式ほど印が複雑なため描き終えるまでに時間がかかります。そこでいくつかの印を描き終える直前で止めて置き、いざというときに素早く最後に手を加えることで術式を発動させるのが彼らの基本戦術なんですよ」
「理屈はわかるけどそんな描きかけの印なんかどこに……」
トントンッ
声を遮るような少し強めのホワイトボードを小突く音。その視線の先では摩子さんが先ほどの響とは比にならぬほどの意地悪な笑みを浮かべている。
『描きかけの印は術者にしか見えない、いや、そもそも術者にも見えてはいない。それは自信を中心に浮かぶイメージのようなもの。だが、私の周りには数多の印が見えているぞ。いつでも発動できる無数の術式がな』
「な、なんだかよくわからないけどすごそうですね」
「ふふっ、実際摩子さんはすごいんですよ十字さん。天魔族の境界を分かつものは伊達じゃないんですよ」
ああ、光陣を紡ぐ手だっけか。いいですね、うちの通り名とは違って……。
「でもまあ、今回はしっかり準備はできた感じがするな。はは、これなら馬鹿でかい鳥が相手でもなんか行けそうな気がしてきたわ」
すっと胸を撫で下ろしていると力也も目線こそ寄こさないもののこくんと無言で頷く。
「さあ、来るなら来いクロエラ……今晩の俺たちはただ狩られるだけの地を這う虫じゃないからな」
安心感からか、台詞の中身も自分で言うのもあれだけどちょっとカッコつけた感じがにじみ出ている。なので同じく絶賛かっこよさを意識して引き締めていた表情だったが、唐突になるスマホの着信音にすぐさま崩される。驚きのあまり変な声出そうになったのは秘密。
「な、なんだ? 誰のスマホだこのタイミングでよりによって」
「あ、すみません、私のです」
そういってスマホを耳元に近づける有栖。お前、戦闘中はマナーモードにしとけって前の世界で……ないわな、スマホなんてもの。"セブンスフォード"とかいう元の世界には。
「零華さん? もしもし?」
どうやら零華からの着信のようだ。なんだ? 子供たちが夜更かしでもしだして臨戦態勢にでもなったから自分も行くとかか? 俺と同じ想像でもしていたのか、横にいる力也もどこか苦笑いを浮かべている。
「あれ? 零華さん……え? し、志亜さん!? なんで零華さんのスマホで……は、はいぃ!?」
有栖の素っ頓狂な声は社内にいる全員の目をかっぴらかせるには十分な声量だった。"ハウリング"さながらの衝撃的ボイスだが……。
「どうした有栖? さすがに密集した車内でバカでかい声は同乗者に迷惑だぞ」
依然スマホを構えたまま口元を引きつらせている有栖。どこか視線も焦点が合ってないようにぐるぐると回っている。
「落ち着けアリス。敵も近くにいるかもしれないんだぞ。大きな声はやめ……」
「クロエラ……うちに……共会荘に来たそうです」
すまん有栖。前言撤回アンド四人分にして返すわ。社内には俺、力也、響、そして摩子さんの言葉にならない驚きの声が重ね掛けよろしく響き渡った。
拙作をお読みいただきありがとうございました^^




