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SideB レイド戦の礼儀って大事だと思います08

 ちょっと言い訳をさせてほしいんだ。食堂で何するでもなくただだらだらと待つだけのこの現状をな。あと有栖よ、やることないからって居眠りしそうなのはよくないぞ?


 さて話を戻すが……そもそも推理物の探偵と違って俺たちみたいな一般人が捜査ってハードル高いと思うんだ。学校に行って聞き込みとかも逆に不審人物と疑われるし怪しいやつを張り込みだなんて、学校近くでやろうもんなら一発で御用だ。


「それで……犯人捜しをしようと意気込んだものの? 結局飛鳥さんしかまともに動けない……と? それでいい大人三人が昼からそろって食堂でだらだらと?」


 帰って来て早々そんな風に言わなくてもいいと思います。ほら、起きろ有栖。早いとこ起きて目の前で絶賛クールな眼差し、いや、凍てつく眼差しを向ける零華になんか言って欲しい。力也も返す言葉もないのか顔を背けてだんまり状態だし。


「うーん、昨晩は十字さんが寝かせてくれなかったから眠いんですよぉ」

「あらあら……」

「待て零華。断じて違う」

「いいじゃないですの、言い訳なんかしなくても。ただちょっと子供たちの前でそういう話題は控えてほしいだけですわ」

「控えめに言って心外だぞお前」


 零華は俺の弁明を受け付ける様子もなく、自分を取り囲むように群がる五人のチビッ子たちの頭を順に撫で、にっこりと微笑む。


「ねえねえ、有栖はどうしたの? おねむさん?」

「きっと夜更かししたんだ。悪い子なのよ」


 今話している二人の女の子。おっとりしているのがたしか次女の水華すいかちゃんで、どこか年の割には大人びているのが一番上の長女、炎華えんかちゃんだっけか。ちなみになんか同年代と思われてるぞ有栖さんや?


「……寝る時間なんてどうでもいいじゃん」

「そ、そうだね。どうだっていいよね」

「なんか眠たくなってきたな僕も」


 順に長男のらい、次男の風太ふうた、そして三男の大地だいちの男の子三人。はは、相変わらず全員揃うとなんかわちゃわちゃしてるな五代家は。そして五人全員が他に似ることない個性的だからまあ見分けは付きやすい。

 

「あー、せっかくですからおやつはこのままここで食べましょうか」

「おやつ!」


 零華の提案に秒で元気な返事かけることの五つつが返ってきた。子供たちは食堂の椅子によじ登るようにして座り、目を爛々とさせている。ああ、風太だけがうまく登れず困っている。んで零華に支えられてなんとか他の兄弟同様席に着く。


「おい零華よ。今われらはここで希源種オリジンワンの対策を……」

「できてますの? 対策とやらは?」

「……なんでもない。今のは忘れるがいい」

「わかりましたわ、力也"お兄さん"」


 どこか小悪魔じみた物言いに力也もむすっとしたまま腕を組み、椅子に深くもたれるようにして座り込む。わかるぞ力也。たぶんこの状況ではあのお嬢様相手に俺たちは無力だ……。


 零華は肩から下げた買い物カバンから菓子を取り出すと手慣れたさばきで小皿に分けていく。子供たちはその様子に足をぶんぶんと揺り動かしていた。


* * * * * *


「それで、今回のそのクロエラとやらはどんな希源種オリジンワンですの?」


 出されたお菓子に夢中になる子供たちを横目に、零華は頬杖をついてこちらを見る。どうせなら子供たちに向けたままの温かい眼差しのままでお願いしたいがまあいつものことか。


「あらためて"憎悪に巣食う鳥"クロエラについてですが、まずはクロエラが現れたというセントガルド王国の極東に位置する村々について説明します。もとは"ヴィルギラ"という一つの村だったんですが、そこが仲違いで二つの村に分かれました。両村のちょうど中心にあり、二つの村を隔てるように南北に延びた険しい谷……その西に位置するヴィルギの村と東に位置するラヴィルの村になります」

「仲違い? そういえばそんなこと言ってたな」


 以前車の中で聞いたがどうして村の分割なんてことになるんだ? 二つの村が人口が少なくて一つの村に統合っていうのならわかるが?


 俺の早速の疑問点に気付いたのか、有栖は小さくこくりと頷く。


「なんでも村で次々に人が変死するという事件がおこり、その犯人が当時村で二大勢力のどちらの者かで争ったのが最終的な原因と言われています。ヴィルギの村のバートという男性が率いた”ロナド家”と、ラヴィルの村のブランという男性が率いた”アデム家”……この両家の争いといってもいいかもしれませんね」

「うっわ、めんどくさそう」


 げんなりとしているであろう俺の表情を見て横に座る力也がやれやれと首を横に振る。


「ふん、これだから人族ヒューマンレイスは。相手を従えたいのならばさっさと武勇をもって白黒をつければいいものを」

「あらあら、武勇のみでの決着だなんて、私たち精霊族スピレイスからしても考えられませんわね。私たちは獣じゃないのですから。話し合うことも大切ですわよ」

「ふん、話し合いなど建前で要は権謀術数による策略、騙しあい。そんなものでどうして相手に付き従うことができる。どうして納得ができる」


 あー、そこでテーブル挟んでの種族間のバチバチはしないで下さい。二人を鎮めるため俺が大きく咳打つと二人も察したのか落ち着きを取り戻す。


「話を続けてくれ、有栖」

「はい。結局その変死事件の犯人について、両代表は一人の女性を犯人だと結論づけました。当時ヴィルギの村をさらに東に抜けた先の"サグニヴァス水洞"と呼ばれた地底湖に連なる洞窟。そのそばの森の中に一人住んでいた女性。それが……」

「クロエラ……か?」


 俺の推理に有栖は無言のまま俺を見つめ返す。どうやら当たりというわけか。


「両方の勢力にも属さず……森の中に一人で住んでるということは身寄りもなかったのでしょう。都合がよかった……ということですわね」


 パチンと取り出した扇子を鳴らし、零華の表情が険しくなる。力也も同様にどこか憤りを感じさせる。もちろん俺も零華の推理に顔を俯けた有栖を見て胸糞が悪くなる。


「彼女が……クロエラがどうして森の中で一人生活するようになったかの記録はありません。ですが、当時私のところに来た報告では彼女は"人喰いの魔女"として忌み嫌われていたと」

「人喰い!?」

「は、はい……なんでも彼女が住む森には誰のものともわからない人骨が至る所に転がっていたと」

「地図上ではたしか竜帝国ヴィンタニアの国境近くでしたわよね。ふふ、その人骨とやらが人族ヒューマンレイスのものだけならいいですが……まさか"追放者グレイバー"ではありませんよね、ねえ? 有栖さん」


 どこか冷たい視線が向けられ、慌てて首を横に振る有栖。安心しろ有栖。また性懲りもなく新しい用語を出した零華を今俺がめちゃくちゃ睨んでいる。めちゃくちゃ相手にされてないけど……。


追放者グレイバーは"罪なき他種族を殺めたもの"。その罪が正式に認定されれば死罪が確定。そこに一切の情状酌量の余地はありません」

「ふん、人族ヒューマンレイスが他の種族から不可侵とされるには必要な処置であろう」


 力也の武骨な物言いに思わず「どうして」と言いかけたがぐっと飲みこんだ。なんでだろうな、もの悲しい気分だが理由はわかる気がした。それが他種族への"中立の証"であり誠意、いや、落とし前というやつなのだろう。


「えっと、クロエラの話に戻しますけど、彼女はいつの間にかあの森に住むようになっていたみたいで、一切村の者とも関わりを持とうとはしなかったようです。時折り森に訪れた村人が黒いマントで身を隠す彼女を見かけていたそうです」

「うーん、不審者要素満載だな。ちょっとそれだと色々悪評が立つのも仕方ない気はするな」


 俺が苦笑いを浮かべたのを見て有栖も少し口の端を緩めている。そういや山崎も黒いレインコート姿だって言ってたっけか。


「ときに有栖さん?」

「はい、なんです?」

「その村で起きていたという変死事件とはどのようなものでしたの?」

「お、そういや俺も気になるな」


 興味本位に聞いたわけだがどうも様子がおかしい。有栖は少し気分が悪そうに手記に目を落とし、一呼吸おいて俺たちを見る。


「人が……人が干からびて死ぬという異常な事件でした」

「干からびる? え? 今回のクロエラのやり口と違うのか?」

「はい……まるで体中の水分が吸い取られたかのような。そして……」


 有栖は再度ひと呼吸置いたのち、深刻な表情を浮かべた。


「当時シーアさんはその変死事件を調べるためにヴィルギやラヴィルの村の先、サグニヴァス水洞を抜けたさらにその先にある"辺境都市パルラ"に向かっていました」

「ん? ど、どういうことだ? よくわからんがその変死事件の犯人がパルラとかいう街から移動してきたってことか」

「むしろ時系列的には逆なんですよね。最初に村の方で変死事件が確認され、その後しばらくしてパルラの方でも事件が起き始めたと。おそらく犯人はサグニヴァス水洞を徘徊していたというのが正しいんでしょう。あの洞穴は地下でパルラ近くの森の中にある"ブラドロ湖"や山間湖である"アガツマ湖"といった複数の湖が流れ込む流域でもあり、"フォディレ流域"とも呼ばれていましたね」

「ふふ、あまり地名を増やしても十字さんの理解が追いつきませんわよ」


 察してくれてありがとう零華よ。そして察した通りの結果でなんかとても悔しい。まあ、それはおいといて……。


「まあ、それよりも……有栖さん? その口ぶりですとその変死事件の犯人について何かご存じなんですね?」


 あ、先に言われてしまったな。零華の推察にそれまで無反応だった力也がちらりと有栖を伺い見る。有栖はというとぱらぱらと手にしていた手記をめくりながらため息をついている。なんかすごーく嫌な予感がする……。


「犯人の名は"ラパン"……クロエラが……彼女が唯一気を許したとされる男性。そして……"絶望をため込むもの"と呼ばれた希源種オリジンワンです」


 本日二体目の希源種オリジンワンの名に俺はどっと疲労感というかやるせなさを感じた。管理人さんが去り際にもしかしたら"あいつ"がとか思わせぶりなことを言っていたが……そんなことだろうと思ったよ畜生!

拙作をお読みいただきありがとうございました^^

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