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SideB レイド戦の礼儀って大事だと思います07

「友の死に涙を流すことを止めはしない。だが……自分を責めるのはやめよ、飛鳥」

「うぅ……ご、ごめんなさい兄様。でも、でも亡くなった"宗太そうた"さんがあまりにも報われなくて……」


 力也の横で嗚咽混じりの悲痛な声をあげる飛鳥ちゃん。あの電話のあと学校は急遽休みになったとかですぐに帰ってきた。そのときすでに力也が傍にいたことから察するに学校まで迎えに行ってそのまま一緒に帰ってきたんだろうな。


 なおも泣き止まぬ飛鳥ちゃんの頭をそっと撫でる険しい横顔はどこか優しさを感じた。だが、すぐさまその表情に影というかどす黒い感情のようなものが宿り、眼前へと鋭い視線を向ける。


「……貴様はどうしてこの場にいるんだ、"志亜"よ?」

「どうしました? 力也さん。私だってここの住人ですよ。お茶を飲みに食堂に来ることだってありますよ」

「十字や有栖に聞いた。貴様は"クロエラ"という希源種オリジンワンの特性を知っていたと……あの死をもたらす黒い紙の画像だったかは消すことはできぬが他者に移すことはできると」


 力也の弾劾じみた問いかけに対し、管理人さんこと志亜さんは涼しい表情を浮かべたままにっこりとほほ笑む。


「有栖が話していた黒い紙……ふふっ、"この世界"では紙ではなくデータでも巡り回っているんですね。知りませんでした」


 どこか論点のずれた答えに力也は苛立ちを隠せずにいる。今にも立ち上がり志亜さんへと掴みかかりそうな雰囲気に俺の横で緊張した面立ちを浮かべている有栖がごくりと息をのむ。俺はというと……。


「力也、怒りを抑えろとは俺も言えた口じゃないが……その怒りの矛先を向ける相手は管理人さんじゃない。希源種オリジンワンだ」

「……」

「今回飛鳥ちゃんの友達を救えなかったのは俺たち全員のミスだ」

「そ、そんなこと……」


 飛鳥ちゃんがはっと俺を見るが生憎俺の視線はなおも微笑む管理人さんから外せない。なんだろうな……まるで目の前に鎖でつながれていない猛獣が穏やかな表情でこちらの様子を見ているような緊張感。


「あいかわらず自分に厳しいんだな、お前は」


 管理人さんの口調とともにその場の空気が変わった。力也もそれを察知したのか反射的に拳に力を込め警戒を強めている。


「お前たちは大変だな」

「何がだ?」


 管理人さん、いや、表に出たシーアの人格を前に反射的に彼女の呟きに反応してしまった。シーアはというとどこか品定めするかのようににやにやとした笑みを浮かべ俺たちを見回している。


「……守るものが多いからな。はは、私はその点ずいぶんと楽だ」


 そういってシーアは俺の横に座る有栖へと視線を向ける。


「"エメル"と"アリス"……"レイア"とあとはまあ……私を慕う変わり者の"アイギス"ぐらいか。私が守りたいと思うものは……もう少ないからな」

「シーアさん……他にも……他にもあなたのことを思う人はいますよ」

「……"私が壊したあの世界"にか?」


 どこか投げやりなシーアの言葉に有栖は勢いよく立ち上がる。その勢いのせいでさがった椅子が大きな音を立てて倒れる。


 有栖は机に身を乗り出すように前のめりになり、眼前のシーアへと顔を近づける。その表情は悲しみとも怒りともとれるやりきれないものになっている。


「セブンスフォードは壊れてなんかいません! ただ"ディペン"によって私たちが別の世界へと転移しただけです!」

「それでも王都コアは崩壊した……"私が何もしなかった"せいでな」

「あなたのせいじゃない! 私たちが……いえ、"私が何もできなかった"から……あなたのせいじゃない」

「……」


 感情が高ぶりそれ以上の言葉が出せずただ嗚咽とともに涙を流す有栖。それを眺めるシーアはバツが悪そうに押し黙る。


 しばしの沈黙。そしてぽつりと響く声。


「"ソラ"が通う学校だったか。今回の犠牲者が出たのは」

「へ?」

「お前に聞いているんだ"クロス"」

「お、おう……」


 唐突な問いかけとそれまで見たことがない管理人さんのまじめな表情に驚きつつ何とか返事をする。


「そもそも画像は今回亡くなった宗太とかいう者とは別の手元にあった。その以前の画像の所有者はどんな奴だ?」

「え、ええっと……」


 俺が返答に詰まり飛鳥ちゃんの方に救いを求める。彼女は涙をぬぐい、まっすぐとシーアを見つめる。その表情からはそれまでのか弱さは消え、見るものに立ち向かう強さを感じさせる。


「以前の画像の所有者も私の友達。篠田結衣しのだゆいという同じクラスの女の子です。亡くなった宗太さんとも親交があって、彼がパソコンやスマホなどの機器に詳しいこともわかっていたので今回相談したみたいで」

「ふむ……同じ学校の仲間というわけか。おいクロス」

「なんだ?」

「お前たしかバイト先の奴からもクロエラについての話題を仕入れていたな?」

武藤むとうっていう俺んところのバイト先の客の事件のことだな。そいつの家のポストに黒い紙を入れようとした不審者がいてその後カラスだかに襲われたって……」

「ああそうだ。そいつは先に話に出た飛鳥の友人たちとは何か関係はあるのか?」

「え? うーん、どうだろうなぁ。あんな嫌な性格の奴だし結婚もしてなさそうだったな。あいつたしかバイト先近くの広告関係の会社で働いてるって聞いたな。前職は知らんがなんかコネでその会社に入ったって。まあ随分煙たがられてるってその会社の他の客から聞いたことがあるな」

「……随分と人に憎まれていそうだな。だが、飛鳥の友人とはあまり関連性はなさそうか。それに、"方法"も違うみたいだしな」


 俺たちがいるのもお構いなしに独り言をつぶやきながら考え込むシーア。その様子に有栖や俺だけでなく力也や飛鳥ちゃんまで少し驚いている。


 それに気づいたのかシーアが首を傾げ俺たちを順に見回す。


「なんだ? なにか気になることでもあるのか?」

「い、いや……ずいぶんとまじめに考えてくれているんだなと」

「お前たちのためじゃない。アリスのためだ」

「し、シーアさんそれは……」

「このぐらいいいだろう……直接戦闘に手を貸すわけでもないし。あいにくクロエラに関してはあの手記には大した情報も残していないだろうしな」

「で、でもこの世界でまであなたを希源種オリジンワンに関わらせるわけには」

「ふふ、そういってちょくちょく私から情報を聞き出そうとしているじゃないか」

「そ、そんなこと……うぅ、すみません、つい……」


 そんなこと……あったよなそういや。さっきもクロエラの情報聞こうとしてたし。まあ、どこか俺もそれをあてにしてた気はする。なんだかんだ一度は希源種オリジンワンと対峙し、倒した存在らしいからな。


「すみません……自分で言っておきながら私……」

「気にするな。アリスは……アリスは私の数少ない"友達"だからな……」


 シーアが浮かべたその笑顔には偽りなんてものはない。むしろ感情をむき出しにしたような純粋な笑顔に思わず見とれてしまった。どうやら俺だけじゃなく、力也も首を横にぶんぶんと振っているあたり同類だな。


「し、志亜よ。先ほどの非礼は詫びる。それで、何かクロエラについてはわかりそうなのか?」

「ああ、この世界に移ったことで希源種オリジンワンもその術式や特性がこの世界に合わせ変化しているようだが、それでもわかったことはある」

「ほ、本当ですか志亜さん?」


 シーアの台詞に飛鳥ちゃんも関心からか反射的に立ち上がり身を乗り出す。


「ああ、武藤とかいう奴のときは元の世界同様に"黒い紙"を用いていたというのに、どうして飛鳥の学校では紙ではなく"データ"を用いたんだ?」

「そういえば……どうしてだろう。そんときは連絡先知ってたしお手軽にデータで送ったとか?」

「で、でもそれじゃあメールにしろその他のメッセージアプリにしろ送信元を見れば誰から送られたかってばれませんか?」

「それもそうか……」


 飛鳥ちゃんからの問いかけにすぐさま自身の意見がまーた性懲りもない見当違いかと思ったが……待てよ、だったら……。


 俺がはっと一つの可能性に気づき顔を上げた先でシーアもまたこくりと頷いた。


「クロエラは飛鳥の友人である結衣とかいう奴のスマホに直接データを入れることができた存在。そして……武藤という奴にはそれができなかった。だからしかたなく身を隠してまで"紙"を使ったんだろう」

「それって……つまり結衣ちゃんのスマホを隠れて操作することができた人がクロエラってことですか?」

「ああそうだ。そして……その結衣という奴と亡くなった宗太。そして武藤を憎んでいた奴だ」

「し、シーアさん、それって……」


 シーアの口から出た新たな特性にごくりとなる俺の喉。まあ考えてみればそうだよな。クロエラの通り名は"憎悪に巣食う鳥"だったか。


「クロエラの子が"餌"として襲うのはあくまでクロエラの憎悪の対象。ふふ、親が差し向けた憎悪を餌に子は成長し、それを取り込むことで親鳥であるクロエラもまた成長する。だからクロエラの憎悪の対象でない者の手に意図せず渡ったとしても、卵からかえったひなはただ親のもとに"還る"だけだ。そして親が雛に餌を与えるように、奴は雛を餌のもとへと運んでいく」


 シーアは黙って自身を見入っている俺たちを見回し、小さく笑いながら息を漏らす。


「私の推理ショーはここまでだ。あとは自分たちで探せ」

「ああ、助かった」


 俺の感謝とともに控えていた飛鳥ちゃんと力也が無言のまま頭を小さく下げた。有栖もとことことシーアのもとへと移動し、その手をぎゅっと握る。


「すみませんシーアさん。相変わらず頼りっぱなしで」

「……気にするな。私のほうこそエメル共々あなたには随分と世話になったんだからな」

「そんなこと……あ、待って……そういえばクロエラのときって確か私が貸した十字架ロザリオをシーアさんが失くしてその罪滅ぼしに……」

「がんばってね! 有栖!」


 有栖の回想を遮るかのようにシーアは握り返した有栖の手をぶんぶんと振り、苦笑いのままそそくさと食堂を逃げるように出ていく。わかるぞ……あれはなんか過去にやらかしてるな。


「あ、有栖? クロエラと戦うときはここの住人全員連れてった方がいいわ」

「はい?」

「あいつひな鳥たちをけしかけるだけじゃなく他にも色々と厄介な術式というか戦闘手段があるし、ただのでかい鳥だと思ってたらまず勝てないから。それにもしかしたら"あいつ"も……はは、それはないか。じゃあ私行くね」

「ちょ、その辺もっと詳しく教えて下さいよ!」

「ごめんね、そろそろ絵芽がアニメ見終わるころだから。あとはまあ適当によろしくやっといてね」


 去り際の笑みはたぶん作り笑いだが去り際の問題発言は事実……てか嘘だろ、本当に行っちまったよあいつ……力也だけでなく飛鳥ちゃんまでも頬をぴくぴくと震わせている。


「おい有栖」

「なんでしょう?」

「持つべきものは友って言葉がこの世界にはあるんだ」

「奇遇ですね、元の世界でもありましたね。そして……友達は選びましょうって言葉もあったんですよね」

「そうか……奇遇だな、この世界にもあるぞ」


 それ以上は何も言わないことにしましたとさ、まる。

拙作をお読みいただきありがとうございました^^

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