表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
84/89

SideA 怨嗟は斯くして連鎖して07

 鼻を突く乾いた土の匂い。目を覚まし瞳を開けても視界は暗く、依然として深い谷底、いや、地下洞窟といっても良いかもしれない場所にシーアは横たわっていた。


 見上げると壁から突き出た岩が天からの照明を遮っており、状況の不変を物語っている。いや……変化はあった。


「……さて、どういうことだ」


 目を覚ました銀髪の少女はゆっくりと起き上がり、変化した地面を見回す。


 最初に感じた違和感は空気。シーアが眠りにつく前まで纏わりついていた湿った空気が消えていた。


 起きる際に嗅いだ土の匂いからもそれまでまとわりついていた苔の香りはなく、視線の先に広がる地面もまた水気を失っていた。


「これはもしかして……いや、もしかしなくてもパルラの事件となにか関係がありそうだな」


 頭を痛そうに押さえ、大きくため息をつく。


「アリスが言ってた話じゃあ人が"枯れて死ぬ"怪死事件が多発すると聞いていたが……てっきり血でも吸う希源種オリジンワンでも出たのかと思ったら」


 シーアは考えていても仕方がないと悟ったのか、ふと前後を見比べるように交互に見遣る。


「あっちはまだ少し濡れてる。こっちは乾ききっている。となると希源種オリジンワンがいそうなのは乾いているほうだろうな。おそらく私の"眷属"でも見て逃げたんだろう、なあ?」


 シーアが見つめる視線の先、乾いた岩壁の陰からゆっくりと姿を現した"眷属"を見てにやりと笑う。


「見回りご苦労、"エア"」

「グルルルルッ……」


 シーアよりも頭一つ大きいサイズのエアは突き出た口を閉ざしたまますっと頭を下げる。その頭をシーアが撫でるとどこか気持ちよさそうに穏やかなうなり声を上げる。


「いい子だ。そうだな、あとでお前にはまた力を借りるかもしれない。その時は一緒に暴れよう」

「ガウッ!」


 返事ともとれる泣き声をあげ、エアはすたすたと歩きシーアの背後、本来影があるであろう位置へ行くとまるで地面に沈むかのようにして姿を消した。


* * * * * *


「人が乾いて死ぬ? なんだそれは?」

「ちょ、ちょっとシーアさん! もっと声を抑えて抑えて!」


 書類の積みあがった机から声の主であるシーアへと体を向き直らせ、アリスは指を立てる。


「一応私は体調不良ってことになってるんですから、おしゃべりや仕事をしてるってのがばれたら大変です」

「だったら少しは体調不良な人を見習ってゆっくり体を休めたらどうなんだ」


 シーアはあきれた表情で首を横に振り、苦笑いを浮かべながら書類仕事に勤しむアリスをじろりと細目で見つめる。


「仮にも聖女様だろう? 本来はこういった仕事はあまりしないんじゃないのか?」

「あはは、先代たちはそうだったみたいですけど私は結構好きですよ。各地から寄せられた報告書・嘆願書の整理って、なんだか行ってもいないのにその地域の人々の困りごとを聞いている気がして。あ、ちなみにシーアさんの言う通り、本来は私の仕事じゃないんですけど、私から頼んでやらせてもらってるんですよ」

「うわぁ……信じられない」

「そ、そんな顔しないでくださいよ。これでも好きでやってるんですから」

「アリスはもう少し息抜きを覚えたほうがいい。ほら、せっかくお祈りや王都内の巡礼業務もしなくていいんだからさ」


 シーアはそういってすぐさまはっと口を押さえ、そっとアリスの方を伺い見る。案の定そこには頬を膨らませたお怒りの聖女様の姿。


「いいですか、シーアさん? 借りるという行為は返すという行為とセットなんですよ?」

「むぅ……」

「よりにもよって私の貸した十字架ロザリオをご自身の荷物ごと失くすだなんて……あれ、代々聖女が持つものですから失くしたってばれたら結構立場的にまずいんですよ? 私?」

「こ、心当たりはあるから! 山から帰った道は急いで確認したが無かったし……たぶんレヌギーヌの山から戻って寄ったあの食堂のはずだ。最後"お会計担当"のカグラと揉めてすこーしだけ暴れたときにたぶん落としたんだ! だからあの店が開くまであと一日! どうかご慈悲を聖女様!」

「そういうときだけ真摯な祈りを……普段全然信仰のかけらもないのに」


 ぷっくりと頬を膨らませるアリス。それを見てシーアは話題をそらそうとアリスの机の上に置かれた書類を手に取る。


「そ、それで、辺境都市パルラの怪死事件の対応はどうするつもりなんだ?」

「はぁ……あそこは遠くて移動だけでも半月はかかりそうですしねぇ。飛皇部隊ひこうぶたいが動ければいいんですが、生憎先日の襲撃事件が片付いたらすぐにまた任務のため出たみたいで。はは、私よりもレングスさんのほうが忙しいみたいですね」

「あいつはアリスと違って書類仕事が苦手だから逃げてるだけだ」

「シーアさんがそれを言います?」

「わ、私はちゃんと文字も書けるし文章だって書けるぞ!」

「そうですね、私の半分ぐらいのお年のお子さんだったら褒めてあげたいところなんですが」

「あ、アリス? 機嫌直して? そうだ! よかったら私がまた行ってちゃちゃっと片付けてくるから? ね?」


 ポンと胸をたたき笑顔で取り繕うシーアにアリスは小さく息を漏らす。


「はぁ……どうせそう言って最初から行くつもりだったんでしょう? 希源種オリジンワン探しもいいですけど、シーアさんこそたまにはゆっくり休んでくださいね?」

「わ、私はいつだって全力で休んでいるぞ?」

「まあ、シーアさんの体力は問題ないでしょうが……もっと"彼女"の傍にいてあげる時間を増やしてくださいね」

「……」

「彼女を救うためとはわかっていますが、それでも辺境都市パルラへの旅はかなりの遠出となりますから」

「ああ、わかっている。だが、それでも"エメル"の残り時間はもうあまりないからな。急がなくちゃいけない」


 シーアは手にした書類に目を通したのち、アリスに背を向けるとドアの方へと歩いていく。


「急がないとな……エメルの病を治せる希源種オリジンワン探しを……あと……ついでに聖女様の十字架ロザリオ探しもな」

「……いや、後者をまずは最優先でお願いしますよ? だめですよ雰囲気だけでごまかそうとしても? かれこれもう一週間近く部屋で仮病状態ですからね?」

「……善処しますです」

「まったくもうっ……ですよ」


 力なく返事をしながら部屋を出ていくシーア。その背を見守るアリスの表情はどこかもの悲しくも穏やかだった。

拙作をお読みいただきありがとうございました^^

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ