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SideB レイド戦の礼儀って大事だと思います05

 こう言ってはあれだが、もう少し早く気付いてほしかったよ。


「あ、結衣ちゃん!? 大丈夫!? え、あ、そ、そうだよねごめん。ええっと……」


 飛鳥ちゃんの友達の家に向かう途中、飛鳥ちゃんのスマホが鳴った。どうやら寝ていたわけじゃなく、スマホを充電していてそのまま他の部屋でくつろいでいたようだ。今日はもう日曜で休日だが、最近の高校生ってこんな遅くまで夜更かしするんだなぁと思いつつ会話に耳を澄ませる。


「は? 例の画像消えたの!? ほ、ほんとうに?」


 飛鳥ちゃんの驚きの声に力也がすっと車を道の端に寄せる。俺もどこかほっと胸を撫でおろし、力也や有栖、そして友達の無事を知り目を潤ませたまま気丈な声で会話を続ける飛鳥ちゃんを順に見回す。


「有栖よ、"クロエラ"とやらはその黒い紙とやらを所有するものに襲い掛かるのだったな?」

「は、はい。報告によれば黒い紙が現れるとその夜にカラスのような黒い鳥に襲われると……」

「だったらその黒い絵の画像がなくなったらしいし、いまこうして真夜中なわけだが無事のようだし、俺の勘違い……だったのか?」


 なんかすごく顔が熱くなる。いや、周りもなんかどことなーく俺に気を使って無言アンド顔をそらすというお気遣い。


「ま、まあ何もなかったのならそれでいい。帰れば……いいのだな?」

「そ、そうですね。結衣ちゃんには明日勘違いだって謝っておきますね。あ、心配しなくても希源種オリジンワンやその辺は伏せてありますから……あはは」

「じゅ、十字さん! 自分から希源種オリジンワンに立ち向かおうとしたの……その、なんていうか、そ、そう、いいことだと思いますよ」

「もうやめて! 今はもう早く布団にくるまって今日のことを忘れたい」


 羽織っていたジャケットをかぶり、逮捕され連行される際に顔を隠す犯人スタイルに変身する。そのまま顔を窓に向ければ完璧……いややっぱお恥ずかしい!


「じゅ、十字さんすみません! もとは私が変な相談しちゃったせいですから」

「今日はもう私のことは忘れて下さい」

「な、なんで敬語なんですか!」

「飛鳥よ……そっとしておくがいい。下手な情けは余計傷口をえぐるぞ」


 力也の制止に飛鳥ちゃんからはそれ以上の言葉はなかった。くそう、そもそもあれだ。今回の事件に似た紛らわしい"クロエラ"とやらがいたのが悪い。


「なあ有栖」

「な、なんです?」

「今回勘違いしたその"クロエラ"ってどんな希源種オリジンワンなんだ? 他になんか書いてないのか?」


 げんなりとした表情の俺に有栖が慌てて手記を取り出しページをめくる。


「え、ええっと、セントガルド王国の極東部にあるヴィルギの村とラヴィルの村という隣接した二つの村で存在が確認されたそうです」

「隣接してるのに別々の村なのか?」

「はい。もとは一つの村だったんですけど、なんでも昔から村を隔てる谷を境に仲が悪かったようなんです」

「なんだ? よくありがちな互いの村の男女が愛し合っていたのに権力がそれを引き裂いて……とかか?」

「うーん、そういうわけではないとは思うんですけど……」


 煮え切らない様子だな。あいかわらず欠陥だらけの攻略本といったところだ……。まあ俺にはいまだにどう見てもただの白紙のページにしか見えないが。


「なあ、前から気になってたんだがお前のその手記ってもしかして管理人さん……"シーア"が書いたものなのか?」

「うーん、正確にはシーアさんの旅の話をまとめるのにエメルさんが使ってたものですね。まあ……途中からはシーアさんが引き継いだので記載内容が曖昧なものも多いですが」

「うーん、ってことは元の世界じゃシーアは希源種オリジンワンを倒してまわってたのか」

「そうですね。目的は"倒すこと"ではありませんでしたが、結果としては彼女のおかげで希源種オリジンワンのほとんどが討伐されたはずです。その証拠に、"この世界で書き足された2種"以外の46種類の希源種オリジンワンに関しては何かしら情報が記載されています」

「あー、全部で48種いるんだっけか」


 いまさらだけど多いわ。未知の化け物とか一匹相手にすりゃ満足だろ……訂正、一匹も相手にしないのが望ましい。


「話を脱線させて悪い。それで、クロエラのその黒い紙とやらは結局何だったんだ?」

「手記ではあの紙は"卵"だといわれています」

「卵?」

「はい、紙に描かれた卵から孵った雛が次々と村人を餌に成長し、増え続けたと描かれています」

「え、じゃあその鳥の群れを全部倒さないと延々と増え続けるのかよ!?」


 害獣の根絶とかこの世界でも難しいのに、いくら何でもいったん繁殖を始めた鳥の群れをすべて駆除って不可能じゃないか? 俺の焦っているであろう顔に有栖がくすりと笑いかける。


「大丈夫ですよ、クロエラは"親鳥"を倒せばすべて消滅するとのことです」

「親鳥?」

「はい、卵を生み出すのはその親鳥で、成長した雛を取り込み徐々に力を高めていくんだとか。だから倒すのはその一匹だけでいいはずです」

「そうなのか、はは、よかった。ならまあまだ簡単だな」

「そう……ですね」

「なんかやけに歯切れ悪いな」

「……大きさ、50メートル越えだそうです」


 10秒前に簡単とかほざいた自分を殴りたい。全然簡単じゃない……てか間違いなくそれボスレベルだろ。


「今回はわたくし見学枠でもよろしいでしょうか」

「さっき簡単って言ってませんでした?」

「簡単に諦めれるの意と解釈して下さい」

「……十字さんなんだか都合が悪いとき敬語多くないですか?」

「お断りの際の言葉遣いって大事だと思うぞ」

「いや、そういうことじゃ……ふわぁ~、眠たい」


 大きなあくびとともにむにゃむにゃと口を動かす有栖。そういやもう2時近くか。良い子と「よ」からはじまる女の子は寝ている……あ、眠気交じりの不機嫌フェイス、やめとこうこれ以上は。


「まあ、今回は勘違いで済んだけど、山崎から聞いた話じゃ"クロエラ"が現れたのは間違いなさそうだし、とりあえずひと眠りしたらまた対策練らないとな」

「そうですねぇ。少なくとも今までのような小型ではないですし、間違いなく強敵だと思います」

「大きいってだけでもう脅威だしな」

「ふっ、でかいと言っても"ライノス"程ではないのだろう?」

「"ライノス"?」


 俺と有栖のやりとりを聞いていた力也が過去を懐かしむような笑みを浮かべる。ライノスとかいうワードに有栖もなんだか苦笑いを浮かべている。


「ああ、あれは確かに冗談じゃなくでかかったですね。"暴虐を尽くすもの"と恐れられ、セントガルド王国だけじゃなくセブンスフォード全土を恐怖に貶めた希源種オリジンワン。天を埋め尽くすほどの巨躯が空を泳ぐ光景は圧巻でしたよ」

「あ、そちらの戦闘の際も見学席の予約をお願いいたします」

「また敬語……」

「十字よ、大きいやつだけが脅威ではないぞ。他にも"グルプネア"という希源種オリジンワンもいて、あやつらを倒す時もライノス戦同様に各国の境界を分かつものアナザーディメンションが集まり……」

「あー、聞きたくない聞きたくない。そんな総力戦で挑むようなやつ、この世界でどう倒せっていうんだよ。術式の力も落ちてるっていうのに」

「良いハンデだと思えばよい。我らは一度彼奴等を倒しているのだ、たとえ力が落ちていようとも後れを取るつもりは毛頭ない」

「はは、頼もしい限りだな」


 本当に……この世界にそぐわない武人の精神。さすがは国の代表……あ、そういえば。


「力也も境界を分かつものアナザーディメンションだったんだよな?」

「む? そうだが」

「お前は何て呼ばれてたんだ? 境界を分かつものアナザーディメンションとしての通り名ってやつ?」

「むう、それを自分の口から言うのもなんだか恥ずかしくはないか?」

「オッケー、じゃあ飛鳥ちゃん、教えてくれ」

「おい十字」

「ふふ、いいじゃないですか兄様。私はいいと思いますよ、"百獣牙王キングファング"……百獣の牙の王だなんて、雄々しいじゃないですか」

「ふん、我としては獣王国の王としてふさわしい器になるべく精進が必要な身。そのような通り名など周りが勝手につけただけのもので、我はあまり認めたくはないぞ……ん? どうした十字? そんな不貞腐れた顔をして」


 なんか零華の五界統治精霊クイーンクルーラーやどら子の暴虐竜女バイオレンスドラゴン、摩子さんの光陣を紡ぐ手ライトニングサーキュレットといい、恥ずかしいがそれでもかっこよさげな通称なのに……。


「俺なんか"終息を収束する者"だぞ? "ラストクロス"とかいう呼び名はいいとして字面がなぁ」

「よいではないか。人族ヒューマンレイスで我ら境界を分かつものアナザーディメンションと同格とみられるなど、大したものだぞ」

「そ、そうか?」


 真正面から褒められるとなんか照れるな。ま、まあ俺の元の人格、クロスのことだけど? 俺そんな大した実力もないし?


「ちなみに境界を分かつものアナザーディメンションではないが……わが妹の飛鳥も"天空光輝スカイフレア"の通り名でまた他国からは一目置かれていたのだぞ?」

「ほうほう。すごいな飛鳥ちゃん」

「に、兄様!? わ、私なんてまだまだですし!」

「ふふ、それでも名が知れるということは相応の実力があるということだ。謙遜をするな」


 顔を赤らめ俯く飛鳥ちゃん。テンプレチックな照れ隠しだが、まあ口元は緩んでるし悪い気分ではないんだろうな。


 たわいもない会話をしていたらいつのまにか共会荘の近くまで戻ってきていた。なんだかんだ俺もバイト明けだから眠たくなってきたな。色々面倒ごとがこのあとも起きそうだが、まずは休息が必要だ。


 途中からやけに静かだと思ったら……有栖はすでに眠って夢の中のようだ。はは、普段はこんな時間まで起きてないもんな。


 起こそうとすると寝言で返事をする有栖にどこか微笑ましさを感じてしまった。ほら、起きろよ聖女様。

拙作をお読みいただきありがとうございました^^

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