SideB レイド戦の礼儀って大事だと思います04
「あ、十字さん! こっちですこっち!」
共会荘に着くと一階の食堂には明かりが灯っており、そこから有栖が俺を呼ぶ。走って帰ったもんだから息も絶え絶えだがそれどころではない。
「お願い……お願いだから電話に出て……"結衣ちゃん"」
祈るように目を瞑ったままスマホを耳に当てる飛鳥ちゃん。その横では兄の力也も険しい表情で無言のまま俺へと会釈する。察するにその結衣ちゃんって言うのが日中話していた黒い背景に白色で描かれたおかしな画像の被害者。そして飛鳥ちゃんの動揺ぶりや力也の表情を見るに先ほどからかけてもつながらないのだろう。
「飛鳥よ、その結衣とかいう友の家の場所は知らんのか?」
「はい……私とは帰る方向も逆で家に遊びに行く機会はなかったので。住んでいる町名ぐらいは聞いていますが詳しい住所までは……」
スマホの電話を一旦切り、そっとテーブルの上に置くとそのまま頭を抱え込む。どうにかしてやりたいが、これじゃあ手の打ちようがない。
「十字よ、ここで黙って待っていても結果は変わらん。我はいまから飛鳥の友が住むという町へ向かうが、ついてくるか?」
「ああ、もちろんだ。早いとこ行こう」
力也が立ち上がると飛鳥ちゃんが不安そうな表情で力也を見上げる。
「に、兄様……私も……」
「こうも暗くてはお前は不利だ。いつ戦闘になるやもしれん。お前はここで友に連絡を取り続けろ」
無言のままがっくりと顔を俯ける飛鳥ちゃん。ひどく悔しそうだが彼女は夜目が利かず暗いところが苦手だ。おまけに術式も夜ではまともに使えないはず。
「うひひひひ、なんだ珍しい。"リーガー"がこんな時間まで食堂にいるとはな」
独特な笑い声で新たに食堂にやってきたぼさぼさロングがアイデンティティとも思えるF子。この時間から意気揚々と……もしかして今から飯の時間なのか?
「久しいな"瞳"よ。そしてこの世界では我の名は力也だ。相変わらずマイペースというか不規則な生活のようだな」
「何を言う、規則正しく今から食事の時間だ。それよりも、飛鳥がここにいるとはもはや運命の巡り会わせ!」
「え?」
「以前私に捧げてくれた彼の麗しき白翼、再度私に分け与えてはくれないか? 新たに創造主より天啓があったんだ」
脈絡もなく跪き、飛鳥ちゃんへと祈りを捧げるF子。あー、いかんいかん相手をしている場合じゃない。力也はF子が何を言っているのか分かっておらず俺に困惑した顔を向ける。
「今はゲームの話をしている場合じゃないんだよF子」
「うひひ、なんだ今度はすんなり分かったようだな? さすがは心通わせたパートナーだな、十字」
「ゲーム? なんだ遊戯の話だったのか?」
「うひひ、ただの遊戯ではないぞ力也よ。まあ、お前たちはいま遊んでいる暇はないようだな。いいぞ、私は邪魔をしない。だが話ぐらい聞かせろ」
相変わらず表情はへらへらと笑っているが、その言葉の重みが、雰囲気が変わったのを感じる。
「わ、私の友達が希源種に狙われてるかもしれなくって……でもその子の家の詳しい場所が分からなくって今から兄さまたちが向かうところです」
「ふむ……詳しくなくとも大体の場所ならわかるのか? あとはそうだな……そいつの画像はあるのか?」
飛鳥ちゃんは無言のままスマホをF子に見えるようにして操作する。やがて画面には飛鳥ちゃんと並んで笑う一人の少女の画像が映る。
「はぁ……美少女JK二人とか……百合路線待ったなしだろ。あるいは……アイドル路線!?」
「おいF子、今はふざけてる場合じゃ……」
「うひひ、安心しろ十字……もう"探してる"」
「は?」
何を言ってるんだこの非常事態に、と思ったが目の前でも異常事態発生中だった。F子の額に浮かぶ淡い紫の紋章。それはまるで両眼に加えてのもう一つの瞳のように見える。そして……F子の瞳もまた妖しく紫色の光が灯ったかのように仄かに発光している。
「うひひひひひひ、"千里眼"は千里を見通す……けどこの世界じゃ無理ぃ」
「無理なのかよ!」
自信満々なセリフからの弱気な声色に思わずつっこんでしまう。だがF子はなおも瞳を輝かせどこか遠くを見るような視線のまま辺りをきょろきょろと見まわしている。
「まあ待て待て十字、この世界にはインターネットという確立された情報網があるだろう。それを利用すればいい」
「は? どういうことだ?」
「そうだな……理解が難しいかもしれんが、例えるならネットワークを介してカメラデバイスをハッキングし、そこに映るものや記録された映像を見ることができる……といえばわかるか?」
「今までのたとえで一番理解が容易だろ。お前そんなことできるのかよ」
「ああ、ただし有線接続に限る! 無線接続のデバイスは無理!」
「なにその現代感あふれる制約……」
俺がため息をついていると横に立つ力也がさらに大きなため息をつき呆れ顔を浮かべている。
「有線やら無線やらよくわからんが、とにかく瞳は飛鳥の友の場所がわかりそうなのか」
「うひひ、ラッキーだな。ちょうど飛鳥の友の家はどこかの店舗の向かい、そしてばっちり家に入っていく姿が店の監視カメラに映ってたぞ!」
「おお、わかったのかよF子……ん? なんでお前そんな困った顔してるんだよ」
「……見えたけどここどこだ?」
なるほど……普段絶賛部屋にこもる系レディには外の世界、まして異なる世界の風景を見てもなぁ……見えててもどこかわかんないよなぁ。残念、そして哀愁。
「おい十字、リングはつけているのか?」
「ん? あ、ああ」
俺がそっと手にはめたリングを見せるとそこにすかさずそっと触れるF子。その瞬間すっと俺の中に術式のイメージが流れ込んでくる。
「うひひ、"幻妖術式"は使えそうか?」
「あ、ああ。支配眼とかいうのが使えそうだな。それとその支配眼とは別に……これって……この光景ってお前の見ているものをもしかして……?」
「うひひ、どうやら私の読み通り、共鳴眼が使えそうだな」
F子の目が輝きを増したかと思うと俺の眼に不思議な光景が浮かぶ。まるで目が三つに増えたような感覚。俺が目にしたものに加え、"F子が見ているであろうここじゃない遠くの風景"が目に浮かぶ。
「本来は同じ幻妖族にしか共鳴眼は使用できないが、私の術式をセットしているうちは私の見ているものをお前にも共有できそうだな」
「そうみたいだな……はは、そしてここならわかるぞ。何度か通ったことがある場所だ。たぶんこの視点から察するにこのカメラがあるのはコインランドリーだったはず」
場所がわかれば後は急げだ。横で待機していた力也も俺を見てこくりと頷き車の鍵を手に食堂を出ていく。その後ろを飛鳥ちゃんも追っていく。先ほど力也には止められていたが……やっぱり友達が心配だよな。
俺もそのあとを急いで追わねばと食堂の扉に差し掛かったところでふと振り返る。その視線の先ではテーブルに頬杖を突き、目を閉じたままこちらを向くF子。その表情はどこか穏やかだ。
「うひひ……少しは力になれたか?」
「ああ、ありがとな、F子」
「そうか、ならいい。早く飛鳥の友達とやらのもとへ行ってやれ」
「お、おう」
なんだろう、F子のそれまでのどこかいい加減な雰囲気はなく、少し大人びて見えた。ふと横を見ると有栖がF子に向かい小さく頭を下げ、力也たちが待つ駐車場へと向かい始めた。
俺もこれ以上遅れてはいけないと慌ててついていくと前を行く有栖が俺に視線を向けることなくぽつりと呟いた。
「"アイギス"さんは境界を分かつものの中でも一番の苦労人。彼女もまたこの世界では羽を伸ばしているのかもしれませんね……」
俺に向けたものなのか独り言なのかその真意は定かではないが、それ以上今は聞く気にはなれなかった。どうも境界を分かつものってのは単に各種族の強いやつの称号ってわけじゃないみたいだな。
拙作をお読みいただきありがとうございました^^




