SideB レイド戦の礼儀って大事だと思います02
「それで、お前は珍しくこの時間に起きてきたと思ったら何しに来たんだよ」
「うひひ、そう邪険にするな。最初に言っただろう、このお願いが終わったら……俺、布団に戻るんだ……って」
「言ってたかそんなこと?」
「言ってませんね、そんなこと」
「うひひ、まあこれを見ろ」
F子は手にしたスマホの画面を俺たちに向ける。画面には『トリマミレ』とかいうゲームの画面が出ている。やったことはないが聞いたことはあるな。たしかアプリを起動するごとに前回の位置情報からの距離を測り、その距離数によってさまざまな鳥をゲットできるんだとか。
「ゲームだろ? これがどうした」
「うひひ、いま私が守っている異世界が同じく異世界であるこの世界とリンクし、時空を超え手を取り合おうとしている。それに力を貸してほしい……といえばわかるな?」
昨晩と違い何やら研究したのか謎のポージングとともに俺と有栖を見つめるF子。
「わからん」
「ふむ、ならばこの無限とも思える時の流れの中、わずかな時間ではあるが異なる世界間で情報と資源が交わりあう。そのわずかな時間を共に協力し最高の成果を……といえばわかるな?」
もしかして徹夜で考案してたのか、先ほどとは異なる謎のポージングで俺と有栖に不慣れなウインクを向けるF子。
「ええっと、F子さんは何が言いたいんでしょうか?」
「無理せずお前が思うこの世界風にいってみろ……」
「……私がやってるVRゲームがこの『トリマミレ』とコラボしてるからちょっと私の代わりにスマホをもってお出かけしてきてくださいお願いしますうひひ」
「非常によくわかった。んで非常になんか残念な気持ちでいっぱいだ。どうして理解できてしまうんだ俺」
「ウィーアーフレンド!」
「やめろ、初見以上友人未満の関係でいさせてくれ」
「うひひ、そこは愛され隣人以上未来の不倫相手未満でいいだろう」
「お前の上限下限の設定センス異常すぎるだろ……」
すごいな、あの有栖がなんかもうしゃべる気を失っている。無論俺もだが、さてどこから突っ込むべきか。
呆れてテーブルにうなだれる俺と有栖。その背後で食堂のドアが開く音が聞こえた。
「あれ? 十字さんと有栖さん? それに……F子さん!? あはは、なんだか久々ですね」
学校から帰ってきたところだろうか。制服姿の飛鳥ちゃんが買い物帰りとわかるエコバッグを片手に食堂に入ってきた。それを見たF子が不気味に笑い声をあげている。
「うひひ、鳥っ娘登場。久しぶりだな飛鳥……いや、この世界では"ソラ"と呼ぶべきか」
「逆です逆です。この世界では飛鳥で呼んでくださいF子さん。じゃないと私も"アイギス"さんって呼んじゃいますよ」
「待て待て待て待て待て待って! その名で呼んだら夜までふて寝するぞ飛鳥。本名とか恥ずか死ぬだろおま」
「大袈裟ですねぇ。それより珍しいですねこの時間に。何話してたんです?」
俺と有栖が顔を見合わせ互いに説明は任せたと無言で合図を送りあう。説明といえば聖女様だろうと思うも、F子の話は有栖にとって聞きなれないこの世界のワードばかり。くそう、なぜ俺が……。
「簡単に言うとF子がゲームの攻略で手を貸せと言ってきてる」
「え? 何のゲームですか?」
「『トリマミレ』とかいう収集系のゲームだな」
「あ、それ私やってますよ!」
飛鳥ちゃんの返事にF子の目がサングラス越しに光って見えた。
「頼れるものは女子高生! ああ飛鳥様、鳥の王女様。このか弱きわたくしめに何卒ご慈悲と"ふわふわホワイトフェニックスの翼”5枚をお恵みください!」
「後半具体的だなおい。てかなんかのアイテムだろそれ」
「うひひ、信じるものと具体的な欲求ほど救済&成就。それが聖教イドルイマージュの教え! そうだろう有栖様?」
「そんな教え無いです……教典の捏造……というか汚すのは止めてくださいF子さん」
「うひひ、聖女様による直々の否定。はぁ……今ならなんかもうお布団に戻って永眠できそう」
あー、なんか脱線というか会話の論点ずらしのペースがやばいなこいつ……。
「"ふわふわホワイトフェニックスの翼”5枚ですね? いいですよ、余ってますから」
「うひひ、グッジョブ飛鳥! フレンド登録しようぜ! いや、もうすでに私と飛鳥の中には見えざる絆が……はぁぁ、ときめいてくる……!」
「あいかわらず元気ですねぇF子さんは。はい、これ私のプレイヤーIDです」
「これで見える形でもつながったぜうひひ!」
なんかF子はわかるとして、飛鳥ちゃんが手慣れた感じでF子とゲームの話題で意気投合してるのが意外だな。てかF子のテンションを気にせず話せる飛鳥ちゃんがとてもすごい。思わず拍手しそうになったわ。
「その"ふわふわホワイトフェニックスの翼"ってなんなんですか?」
「うひひ、先週から始まった『トリマミレ』のイベントでもらえる交換用のアイテムだ」
「このイベント期間中スマホを持って移動した距離に応じて貰えるんですよ」
「へぇ、そんなのあるのか」
「うひひ、10キロ移動するたびに翼を一枚もらえるんだ。だが、宿命のライバル太陽のせいで日中お外に出れない私には攻略不可能なミッション! ずるいだろ? これずるいだろ運営? 幻妖族に優しくなさすぎるだろ?」
「知らん知らん。てかなんで日中外に出れないんだよ幻妖族は」
俺がツッコミテイストにF子に問いかけたが、ふと俺の袖をくいくいっと引く有栖。
「幻妖族は夜を好む種族なんです。その中でもF子さんが属する三眼族は日の光を嫌っているんです。だからこの世界ではああして日中はサングラスを……」
「うひひ、まあこの世界では元の世界以上に日の光がきつく感じる。だからこれがないとまともに目も開けられないぞ?」
「そうなのか? あー……すまない、サングラス姿を馬鹿にして」
「うひひ、いいってことよ。気にするな気にするな。私の心はセブンスフォードより広い。だから電子マネー千五百円で手打ちにしようそうしよう」
「やっぱこいつサングラス抜きでも馬鹿だな、うん」
「うひひひひひひひ、ツンツンデレデレ」
俺があきれてもの言えぬ状態に陥る傍らで飛鳥ちゃんがスマホを操作し終え、F子へとぐっと指を立てる。
「オッケーですよ、いまギフトで送っておきました」
「やったー! ありがとー!」
無邪気に喜びはしゃぐF子に思わず笑みがこぼれる。やれやれ、そんだけ嬉しそうだと見ているこっちもなんかつられちまうな。
「そういえば、その翼って10キロメートルごとに一枚って言ってましたよね? それを先週始まったのに五枚って……飛鳥さんこの一週間ほどで50キロも移動したんですか!?」
「ああ、五枚あれば必要十分な枚数なんですけど、F子さんに五枚送ってもまだまだ余ってますし。まだ手持ち二十五枚ぐらいありますね」
「250キロ分!?」
思わず俺と有栖が素っ頓狂な声を上げる。この一週間で少なくとも300キロは移動しているってことか!? 飛鳥ちゃんは少し恥ずかしそうに頬をかきながら扉の外の空を眺める。
「えーっと、たまに思いっきり羽を伸ばしたくなる時ってあるじゃないですか?」
「まあ人間だれしもそういう時は……え? まさか飛鳥ちゃんの場合本当に羽を伸ばして空を?」
「えへへ、昨日は久々に雲一つない快晴でしたからついつい飛び回りすぎたみたいで」
「それってこの世界だと大丈夫なのか? いくらなんでも人が飛んでたらまずくないか?」
飛鳥ちゃんは日中限定だが"変異術式"で深紅の翼を出して飛べるみたいだが、正直飛んでなくてもあれは目立つだろう。
「うひひ、"サンフレイム"でも纏ったんだろう」
「サンフレイム? それも飛鳥ちゃんの力なのか?」
「飛鳥の変異術式は"陽紅鳥"だ。やつらは太陽の光を力に様々な力を発揮するからな」
「えへへ、この世界でも陽炎ってありますよね? 翼に太陽熱を集め、自身の周りにサンフレイム……この世界でいう陽炎をまとい歪ませて見せる術式です。まあせいぜい歪んだ空間として相手に見せる程度で"ランビレオン"のように透明とまではいきませんが。この世界じゃ戦闘時の行動の隠蔽以外にも空を飛ぶときの偽装として便利ですね」
「うひひ、私からすると太陽の光を集める翼などまっぴらごめんだ。目が死ぬ!」
「あはは、でもその代わりF子さんは夜目が聞くじゃないですか。私からするとうらやましい限りですよ」
なんだか異世界トークで盛り上がるF子と飛鳥ちゃん。それをよそ目に横で食後の茶を啜っている有栖をつつく。
「もしかしてこの二人、仲がいいのか?」
「そうですねぇ。なんだか不思議と馬が合ってるみたいです。飛鳥さんはあまりF子さんの話し方は気にしていないみたいですし、単に元気がいいくらいにしか考えてないみたいですよ」
「F子は日の光を好む飛鳥ちゃんと対極的だが、なんだかおもしろいなそんな二人が仲睦まじいのも」
「そうですね。この世界では本当に皆さんリラックスしてますし、元の世界ほどギスギスしてなくてなんだか微笑ましいです」
「あー、戦争とまではいわないが仲は良くない印象だったしな、元の世界は」
「うひひ、おまけに面倒事も無いし私は好きだぞ、この世界は」
いつの間にか飛鳥ちゃんのそばから俺と有栖の背後に回っていたF子がポンと俺の肩に手をのせる。
「面倒事?」
「うひひ、その話はまたの機会だ! 私は飛鳥からもらった翼で羽ばたいてくるぜ……"私が守っている異世界"でな!」
「要はゲームに戻るってことか」
「うひひ、ピンポンパンポン正解だ、じゃあな!」
それだけ言ってF子はスマホを大事そうに抱え食堂を出て行った。うん、もしかして一番この世界を堪能しているのってF子じゃなかろうか……なんだかこの世界のゲームにドハマりしているみたいだし。
「あはは、あれだけ喜んでもらえるとあげたこっちまで嬉しくなっちゃいますね」
「F子さんも元の世界では苦労人でしたからね。なんだか居心地もよさそうで本当にこの世界から帰らないって言いそうですね」
そういって有栖はおにぎりを食べ終え、満足そうな笑みを浮かべる。その後いつものカバンを持ってくると言い、食堂を出て隣の自室、101号室の方へと戻っていった。
「あ!? そういえばF子さんパソコンとかに詳しいから聞けばよかった」
「ん?」
飛鳥ちゃんは手にしていたエコバッグをテーブルに置き、棚からグラスを取り出すとF子が座っていた俺の向かいの椅子に座る。俺はそっとお茶の入った容器を差し出し、彼女が手にしたグラスへと注いであげた。
「何かパソコン関係でトラブルか? 俺自身はそんなに詳しくはないけどバイト先でそういうのに詳しい奴に心当たりはあるし、聞くくらいならできるぞ」
「うーん、なんだか学校の友達がスマホでおかしな画像データがいつの間にか入ってるって気味悪がってて。消去もできなくてウイルスか何かじゃないかって」
「おかしな画像? 消せない?」
「はい。私も見せてもらったんですけど、黒い背景の中に白色で不思議な絵というか楕円が描かれていて。削除してもすぐにまた元に戻っているらしくって」
うーん、なんか聞く限りじゃいかにもウイルスっぽいな。
お茶を飲み終えた飛鳥ちゃんは行儀良くお辞儀をし、ちょうど戻ってきた有栖と入れ替わるようにして出て行った。有栖は椅子に戻るとまるで準備万端と言わんばかりにポンと胸を小突く。
「さあ、旅の準備できました! 今日はどこ行きましょうか」
「いや旅支度って、そんな毎日どこかに行くわけじゃないぞ俺は。それに今日はまた夕方から夜までバイトだし部屋に戻るぞ?」
「ふむふむ、つまり今日はお部屋でセブンスフォードについてお勉強回ですか」
「いや、普通に戦士たちの休日回でいいだろ。てかお前俺んところ以外行くところないのかよ。たまにはお前も休んでもいいんじゃないか?」
「え? お休み?」
「おう、お前もどうせ元の世界じゃ忙しかった口だろ? せっかく来たんだし……とはいえないかもだが、まあこの世界で少しはお前も羽を伸ばしてもいいんじゃないか?」
「うーん……お休みお休み……何をすれば?」
「え? あー、うーん……部屋で何もせずごろごろするとか?」
こいつもしかしてワーカーホリックか? と思いたくなるほどにマジで休日の過ごし方を知らないご様子。てか、前々からふと気になっていたことがある。
「なあ、ちなみに有栖って普段は何の仕事をしてるんだ?」
「はい?」
「いや、俺はコンビニ店員だろ? 力也は建設関係の作業員で響は図書館の司書だし、零華は保育士で摩子さんは書店の店員って聞いてる。どら子もたまに仕事だとか言ってなんかしてるみたいだしさ」
「わ、私は……き、決まってるじゃないですか!」
「うん?」
「女神枠ですよ!」
「ニートの?」
「ちーがーいーまーすー。最初に言ったじゃないですか。この世界……じゃなくて元のセブンスフォードがある世界を創りし創造の神……それが、私!」
「へー、ふーん、すごいなー」
「温度感冷たくないです?」
うん、たぶん無職だなこいつ。まあ、管理人さんとこで養ってもらってる感じだろうな。
「だ、だってこの世界のことまともに勉強するようになったのまだ一ヶ月くらいですし……」
「うん?」
「な、なんでもないですよ! そうですね、今日は私も休日! 久々に絵芽と近くの公園で遊んできます」
「お、おう」
なんかいつもなし崩し的に我が家に転がり込む聖女様だが今日はやけにあっさりとひいたな。そそくさと逃げるように出て行ったが……もしかしてそんなに無職のことを気にして? 聞いといてあれだけど……なんかごめんな!
拙作をお読みいただきありがとうございました^^




