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SideA 怨嗟は斯くして連鎖して02

「通行止め? どういうことだプレウス」


 ヴィルギの村の入り口代わりの粗末な門。その柱によしかかりシーアが顔をしかめる。その相手は先ほど別れたばかりの商人の男プレウス。彼もまた先に村に着き、先に通行止めのことを知り立ち往生している様子だった。


「ええ、この先のラヴィルの村に続く唯一の橋が現在通行禁止とのことで、この村から出ることもできず、また橋を渡ったとしてもその先のラヴィルの村も現在入ることはできないそうです」

「おいおい、それじゃあパルラに行くにはまた道を引き返して山脈を迂回して北に回れというのか?」

「村人にも事情を聴こうとしましたが何やら皆さん殺気立っていてまともに話を聞いてくれず。共生組織ギルドにも行きましたがこんな状況なのでこの村にとどまる傭兵がいないみたいで護衛も見つからず……」


 予定が狂いおろおろと頭を抱え考え込むプレウスをよそ眼にシーアは村を見回す。初めてきた村ではあるがシーアもまた異常を感じ眉をひそめる。


 出歩くものはおらず行きかう人影も見当たらない。窓やドアもすべて閉じられ、まるであらゆるものを拒んでいるかのように見えた。


「とりあえず共生組織ギルド・センサスは開いているんだな?」

「え、ええ。ただ依頼もありませんし、傭兵も全然いませんでしたよ」

「職員がいるなら事情を聴きだしてくる。さすがに理由わけぐらい知っているだろう」

「で、でも共生組織ギルドの職員もこの村の出身の方が多いみたいで、村人同様に殺気立っていてとりつくしまもありませんでしたよ? あと何やら警戒しているようで今行くと"検査"といって……」

「大丈夫だ。相手の事情などどうでもいい。力づくでも"聞き出す"から」


 シーアは険しい表情のままプレウスから共生組織ギルドの場所を聞き出し、ぱきぱきと拳を鳴らす。それを見たプレウスが苦笑いを浮かべる。


「私も何かこの先の橋を抜ける方法がないか調べてはみます。シーアさんもどうかお気を付けて。お気づきかとは思いますが、今のこのヴィルギの村、そして先のラヴィルの村は何やら異常です」

「ああ、わかっている」


 誰も家の外にはいない。こうして出歩いているのはシーアとプレウスのみ。だが、自分たちに向けられた視線を二人はびんびんに感じていた。村を見回すとすっと窓やドアが閉まるように動くのが見える。監視されているのだ、この村のものたちに。


「なんだか面倒なことになりそうだな……」


 シーアはそっと腰に差した剣に手を添え、まるで危険が潜む迷宮ダンジョンの中を歩くように警戒しながら村の中へと入っていった。


* * * * * *


「"持ち物検査"?」


 ハートを抱きしめる翼人の紋章が描かれた看板がぶら下がる広々とした入り口。共生組織ギルド・センサスにつくや否やシーアはまた通行止めをくらい頭を押さえていた。


「現在ギルド内に入る方には義務付けております。ましてあなたは共生組織ギルド・センサスにも所属していないですしね」


 見るからに融通が利きそうにない女性の職員が腕を組みシーアの入室を阻んでいる。その後ろでは若い職員たちがカウンターの向こうでどこか怯えるようにシーアを見ている。


 シーアは呼び止められた段階で被っていた仮面を外し、不満に満ちた顔を晒している。


「はぁ……どうなってるんだこの村は」

「何か検査をされてはまずいことでも?」

「問題はないが気分はよくないな。少なくともどうして検査されるのか理由ぐらいは教えてくれないのか?」

「あなたが知らずに"あれ"を運んできたとしたら逃げられますから……検査をして"あれ"が出てこないかの確認が先です」

「"あれ"?」

「検査が終わってからです。さあ、あちらの小部屋までお願いできますか」


 げんなりとした表情のまま頷き、シーアは女性職員の後ろをついていく。その後小部屋に入ると何人かの女性職員が追加で入ってきて、シーアは下着を残し服を脱がされる。


 革袋の中身もくまなく確認されたが、路銀といくばくかの干し肉と乾燥させた保存用のパンしかなく、シーアの衣服を調べていた職員も鎧や共鳴石のペンダントを確認し、首を横に振る。それを見て最初にシーアを呼び止めた女性の職員が深々と頭を下げる。


「申し訳ありませんでしたシーア様。衣服やお荷物をお返しします。検査のご協力ありがとうございました」


 それまでのどこかピリピリした雰囲気が消え、女性の表情もどこか安心したような穏やかさが戻る。


「それで……教えてくれるのか? この村、いや、ヴィルギとラヴィルの村で何が起きているのか」

「はい……全てはあの"黒い紙の絵"が村で見つかってからです。二つの村がおかしくなったのは」


 服の袖を通しながらシーアは職員の話に耳を傾ける。職員は体の震えを止めるためかぎゅっと自身を抱きしめるように腕を回し、顔を俯ける。


「もうかれこれ半年近く前のことでしょうか……黒い紙切れに白い塗料で描かれた奇妙な絵が見つかったのは」

「奇妙な絵?」

「はい、村人の家のドアに挟まれるようにして置かれていたそうです。その村人も当然気味が悪くなりすぐに捨てたそうなのですが、気づいたら元のようにドアに挟まれていて……」

「悪戯かなんかじゃないのか? 捨てても戻ってくるなら破くか燃やせばいいんじゃないのか?」

「ええ、村人の方もそう思って燃やしたようですが紙のようには燃えず、破いて捨ててもまた元のようにドアに戻っていたそうで」

「悪質かつ手の込んだ悪戯みたいだな。どこだその村人の家は? 私が行って話をつけてきてやろうか?」

「いえ、その必要はありません……その方はすでに亡くなられています」

「亡くなった?」

「それは無残な死にざまだったようで……まるで生きたまま鋭利な何かで何度も刺され、肉をえぐられていたとか」


 衣服と革の軽鎧ライトアーマー、そして足鎧レッグアーマーを身に着け終え、シーアは表情を曇らせる。嫌な予感は感じていた。奇妙な出来事が起こった先では"やつら"がいることをシーアは何度も見てきたからだ。


「事件がそれでおしまいならここまで二つの村はおかしなことにはならないだろう?」

「はい、その後も黒い紙の絵が見つかるようになりました」

「……もしかしてその絵を持っていた村人はみな?」


 女性の職員はもの悲しげな表情を浮かべ、首を縦に振った。


「皆亡くなられています。最初の村人同様に、無残な遺体となって……。持ち主が亡くなるとしばらくして……まるで次の獲物を探すかのようにまた黒い紙が現れるようになりました」

巡回騎兵クルーラーにでも報告に行けばいいだろう。ラヴィルの村ならそう遠くないところに辺境都市パルスもあるだろうし、ヴィルギからも近いとは言えないが港街ヴェルレイやガランドまで行けば巡回騎兵クルーラー共生組織ギルド・センサスの他の支部で対応してくれるだろう」


 女性の職員は今度は首を横に振った。


「黒い紙を持ったまま村を出た村人は……誰も戻ってきていません。そのまま……同様に亡くなっているのが見つかったとこの村を訪れた傭兵や商人の方からお聞きしております」

「はぁ? だったら黒い紙を持たずに外に出れば……」

「だから無理です……"呪い"をなすり付けられてしまいますから」

「呪いを擦り付けられる?」

「黒い紙は焼いても破っても元に戻りますが……他の村人の家に置くと戻ってこなくなります」

「なに?」

「だから……村人は"呪い"が舞い込まないよう昼の明るいうちからドアや窓を閉め切っているのです。おわかりいただけましたか? 私たちがこのギルドに入る際に持ち物検査をさせていただいた理由が。村人が殺気立ち、陽も昇っているというのに家にこもり外を出歩く者たちを警戒している理由が」


 シーアは口に手を添え思考を巡らせ、すっと無言のまま職員へと視線を向ける。


「その黒い紙を擦り付けるためには他の者の家に置けばいいと言っていたが、もしかしてそれはヴィルギの村だけでなくラヴィルの村の者の家でもいいのか?」


 女性職員は静かに首を縦に振った。それを見てシーアは大きくため息をついた。これで謎が解けたのだろう。互いの村の通行が止まっている理由が。


「今その紙はもしかしてこちら側……ヴィルギの村にあるのか?」

「はい……二つの村は呪いが持ち込まれないよう互いに橋の前に厳重な防壁を設け、あらゆる者の通行を拒んでいます」


 テーブルに置かれた剣を腰に差し、革袋と共鳴石のペンダントに手を伸ばそうとしたところで村の外からざわざわという声が聞こえる。それを耳にしたシーアと職員は慌てて外へと出ていく。


 それまで無人であった外を流れる人の波。まるで村の大人たちが一斉に同じ場所を目指すかのように走っていく。職員が何事かと走っていた村人を呼び止める。


「た、大変だぞ。ラヴィル村の奴らが俺たちの村に押しかけようと防壁の前に集まってるとか」

「なんですって!?」


 シーアの相手をしていた女性の職員はシーアに無言のまま会釈し、すでに後ろに待機していたほかの職員たちと走っていく。その背中を見ながらシーアは取り残されてぽかんとしていたが、ふと腕を組みうーんと頭を悩ませる。


「普通に待ってたらいつまで待ってても橋を通れない。もしかしてこれは……チャンスか?」


 離れていく背中が見えなくなるまで考え込んでいたが、やれやれと呆れたように首を振り、シーアは職員たちの後を追った。

拙作をお読みいただきありがとうございました^^

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