SideB レイド戦の礼儀って大事だと思います01
以下の会話は日を跨いだ深夜の共会荘、その食堂でのワンシーン……ということをご理解した上で聞いて欲しい。
「ああ、おはよう十字! うひひ、なんだか久々だな」
「"おはよう"って、色々おかしいだろお前」
「なんだ早く起きすぎたか? "まだ"こんばんはの時間だったか?」
「それもおかしいだろうな」
「ふむ、二つの言葉が重なり交錯する時間……この世界風に言うとクロスワードタイムか!?」
「この世界風というかどこの世界でもそうは言わんだろう。てかクロスワード好きのための時間みたいだぞそれじゃあ」
「あー、あいにくあの手のゲームは苦手なんだ。まあ、私の類まれなる検索スキルとネット速度があれば攻略できないわけではないがな! うひひ」
「……なんかもういろいろつっこむのもめんどいし、部屋に戻ってすぐ寝たいぞ俺は」
「おいおいおいおい、おまけにおい。いいのか久々にお前の前に姿を現したこの最高レアで絶世の美女キャラな私を放っておいて。ん? ん?」
「ほんと二週間ぶりぐらいだなお前。何してたんだよ」
「ふっふっふ、人知れず世界を危機から何度も守っていた……と言えばわかるな?」
「……わかりません」
「ならば世界が更新され、新たな敵たちが押し寄せたのを何度も何度も倒し続け、我が剣の糧とした……といえばわかるな?」
「どう言い繕ってもわかる気がしないんだが?」
「……VRゲームの『デュエルワールド・オンライン』のアプデがあって、新武器素材を落とすモンスターが追加されたから実装記念の素材ドロ率アップイベも来てるしで周回おいしいれすうひひ、といえばわかるな?」
「わかったけどわかる自分がなんか嫌になったわ……うん」
「さすが同胞!」
「同胞って言うの止めろ。てかお前が顔出さない間に色々こっちは大変だったからな? 鼠やトカゲの化け物と戦わされるわおかしな剣士と死闘演じるわで」
「おいおい、大丈夫か十字? 虚構と現実の区別はしないとだめだぞ?」
「俺からすると虚構じみた世界から来たお前がそれ言う!?」
「ん? んん? んんん!? もしかしてお前……"クロス"の記憶が?」
「戻ったわけじゃないがまあ元の世界とやらの話はもうお前以外の住人からは聞いたぞ。あと希源種についてもな」
「はぁ!? 私だけハブ!? ハブられぼっち!? へっこむわー」
「いや、あんときはたしか飛鳥ちゃんがお前を呼びに何度もドアをノックしたはずだぞ?」
「それ何時ごろよ?」
「んー、昼前に目が覚めてその後あーだこーだして食堂に行ったし、昼の三時頃あたり?」
「お前そんな人が寝静まる時間帯に話し合いとか非常識だぞ!」
「その時間帯を普通に寝静まるときだと思ってるのが非常識だろ」
「うひひひひ、さすがは彼の英雄の力を継いでいるだけある。この三幻眼の魔女と恐れられた私を前に、ここまで対等に言葉で渡り合えるとはな」
「渡り合いたくもないし、そのトライなんとかってーのがお前の境界を分かつものとしての呼び名か? あと俺もう眠いって言ってるだろうが」
「日が落ちてまだ六、七時間程度だぞ? それなのに眠るとか人生損してるわー」
「お前の損得基準と睡眠リズムだけは分かりたくないな、主に健康的理由で」
「いいんだぜ……共鳴してくれても?」
「お断りします」
「なるほど……この世界風にいうツンデレというやつだな? うひひ」
「そうじゃないです、はい」
「ふむ、まあいずれ必ず我らが同胞として迎え入れるが今はまだそのときではない……ということだな」
「永遠にそんなときは来なくていいぞ」
「うひひ、まあそう結論を急くな。とりあえず今はこの世界の至宝の術式である"レンチン術"の恵みを甘受しようではないか」
「レンチン術?」
「レンジでチンしてハッピーな食卓を……と言えばわかるな?」
「それでレンチン術かよ……」
「だれうまー」
「うまくはないだろ」
「うまいだろ!? 志亜姉さまの愛情と慈愛と博愛に満ちた料理は!」
「愛情過剰過ぎだろ。あと話題ころころ変えすぎだろお前」
「うひひひひ、私の背を追いかけてくるがいい」
「背を向けて部屋に戻っていいかもう? 寝る前に茶でも飲もうかと思ったが、有栖といい零華といいお前といい、俺の水分摂取を妨害するスキルでも持ってるのかよ」
「なんだ? 私のスキル、いや、幻妖術式に興味があるのか?」
「その話は今度聞かせろ、そろそろおやすみだ」
「うひひひひ、おい"クロス"」
「その名前で呼ばれてもあんまりピンと来ないしやめろ。んで、なんだ?」
「すまなかったな……力になれなくて」
「な、なんだよ急に」
「うひひ、その話も今度聞かせてやろう。おやすみ、十字」
「……ああ、おやすみ"F子"」
テーブルに並べられたラップに包まれた料理を前ににかっと笑う女性。明らかに手入れがされていないぼさぼさの長髪は彼女の腰ぐらいまで伸びており、前髪も目元を隠すには十分の長さ。
隠しきれぬ不健康なクマを目元に浮かべてはいるが、その電波要素高目なハイテンションもあって陰気な雰囲気はない。というか向かうところ敵なしアンド色々お構いなし……それがF子こと綾志木 瞳……この共会荘の住人で、俺の部屋の横の206号室の住人だ。
* * * * * *
昨晩というか今日は夜勤を終えて帰ったら早々にF子に会い……今度は遅めの朝飯にと10時頃に食堂に降りたら幼女、おっと、聖女に会い……そういやF子も結構ちっこい方か年の割には。確かあいつ二十歳だとか言ってた気がするな。
「なんだか私の頭の天辺を見ているときは失礼なことを考えている気がするんですが」
「いやぁ聖女様の頭上に天使のような輪が見えそうだなぁと」
俺が適当に返事したら有栖が背伸びして俺の額を触れ、もう片方の手で自身の額に触れる。
「ええっと、熱はないみたいですね……もしかして希源種との戦闘のストレスで頭に異常が……」
「失礼な!」
割かしマジで心配していたのか、失礼な目の前の幼女は胸をなでおろしたのち、テーブルの上に置かれたおにぎりと再度戦闘を始める。相変わらず食べてる姿は冬眠前のリスみたいだなこいつ。
「さすがに虚構と現実の区別はしないとだめですよ」
「虚構じみた世界から来たお前がそれを言うか……って夜中にも言ったなこの台詞」
「うん? 十字さんが夜に帰ってくる時っていつも夜の12時を回った時間帯ですよね? そんな遅くまで誰か起きてたんですか?」
「お隣さん……と言えばわかるな?」
「え? あー……ああ……」
うん、昨日散々聞いたフレーズでうつったか? でもまあ有栖も誰のことかわかったようだな。
「相変わらず彼女はこの世界に来ても夜行性ですねぇ」
「そういや幻妖族は夜を好むとか言ってたっけか」
「そうですね。特に先日"トライド"と戦ったあの時のような"レッドグレア"の時は天魔族以上に力を増していますね」
「あの赤い月の光は元の世界じゃよくある現象なのか?」
「うーん、一定の周期で起きている感じですね。あ、ちなみにレッドグレア以外にも"ブルーグレア"と"グリーングレア"と呼ばれる青や緑の時もあるんですよ」
赤青緑って……異世界のお月様はずいぶんとカラフルなんだな。
「レッドグレアは心煩の光とも呼ばれ、人族の不安を増長するといわれています。ときには人を狂わせることもあると言われてて、このときは夜に好き好んで出歩く人はいませんでしたね」
「なにそれ怖い。てかそんな光でバフがかかる天魔族と幻妖族って……」
「"バフ"? なんですそれ?」
「んー、力や能力を強化する総称みたいなもんか?」
「へー、それなら"ブルーグレア"は人族にとってバフの効果があるのかもしれませんね」
「そうなのか?」
「ええ、ブルーグレアは鼓心の光。人族の勇気や闘志を湧き立たせる光と言われています。ちなみにブルーグレアは獣人族と竜人族の力を高める効果があるといわれてますね」
「ふむふむ。なんかその流れだと"グリーングレア"とやらは精霊族と天人族がバフの恩恵を受けるのか?」
「ふふ、正解です。グリーンフレアは心凪の光と言われ、人族の精神を和らげる効果があります。私はやっぱり月明りだとグリーングレアが好きですね。よく眠れるんですよねぇグリーンフレアの時は」
頬に手を当てどこかうっとりとした表情を浮かべる有栖。なんだか普段は寝つきが悪いのか? ああ、そういえば聖女って人族の国の国教でその象徴みたいな立場だっけか。なんか気苦労も多そうだな。
俺はすっと目の前で白米の塊にかぶりつく聖女様に手を合わせ合唱する。あー……安らかに眠りたまへ聖女様。寝る子は育つといいますから。
「なんか見慣れたお祈りがここまで不快に見えるのはなんででしょう」
「睡眠不足による情緒不安定とか?」
「エメルさんが眠って元の絵芽に戻ってからは無事マイルームマイお布団マイ枕が戻ってきて安眠ライフを送ってますが?」
「それなら俺のマイルームにはもう来なくても大丈夫なはずだな」
「いえいえ、聖女にとって巡礼は大事なお勤めですからこれからもさまよえる魂を救いに?」
「自分の部屋から階段上ってすぐのところに来ることを巡礼っていうのずるい」
「そうだずるいぞ十字!」
唐突なタイミングでの来訪者に俺と有栖がぎょっと振り返る。そこにはおよそ三分の一日前に見たぼさぼさヘアー不健康フェイスなレディの姿。この時間帯にF子が食堂に来るなんてめずらし……んん?
「一応聞いてやろう。その装備しても防御力もないであろうサングラスはなんだ似合ってないぞ?」
「うひひ、なんだか簡潔簡素簡易に貶されてる! って、いやいやいやいやもひとついや! 話題の中心はそこじゃない! 見ろこれを!」
「んん? スマホ? てかお前スマホ持ってたのかよ」
「あ、これ最新機種ですよね。先日発売されたばかりの」
「うひひ、そうだぞ。もう電話とかSNSとか……そういう余計な機能はいらないからデータSIMにして値段を抑え、とにかくハイスペックであらゆるゲームアプリも快適にできるようにだな……って、あ、有栖様もいたのか!?」
「有栖様? なんか妙に有栖にだけ仰々《ぎょうぎょう》しいな」
「だ、だだだだだって……志亜姉さまの大切な人だぞ? 人族の国の聖女だぞ? この世界でいうところの日本ナンバーワンアイドルみたいなもんだぞ? はー、尊い死ねる」
有栖に対し手を合わせ、真摯に祈りをささげるF子。うん、なんか不快とまではいわないが……やっぱ不快だななんか。その証拠に当の聖女様がなんか引いてる。
「おいよかったな有栖、真摯な信徒がいて」
「えぇ……」
「信徒じゃない! 聖女ファンクラブ会員ナンバー4だ!」
「……なんですその邪教徒みたいな集団は? あとなんで創立者っぽいF子さんがナンバー4なんです?」
「だって? ナンバー3は志亜姉さまでナンバー2は絵芽様だろ?」
「絵芽にまで様付けなのかよお前……」
「ちなみにナンバー1は誰なんですそれ?」
「え? 十字だろ? ラブラブなんだろユーアンド聖女?」
「はぁ!?」
異世界チートお決まりの二重詠唱……ではなく俺と有栖による二重ツッコミ。
「わ、私たちはそんな関係じゃないです!」
「え? 聖女と騎士とかもう王道だろ? ロードオブキング『プリンスアンドナイトめちゃイチャ物語』だろ?」
「副題までつけるなつけるな。あと数少ない俺のナンバーワン要素にそんなもん加えるな」
「うひひ、この世界風に言うと"いやよいやよもラブのうち"……だな?」
「知らねぇよそんなの。どこの異世界用語だよそれ」
「え? セブンスフォードとかいう大きな大陸のある世界?」
「そんな言葉聞いたことありませんよ! セブンスフォードでも!」
「うひひひひひひ」
あー、聖女と幼女は混ぜるな危険だわこれ……起きて早々騒々しい。なおも俺の前で会話……というか会話にならない問答を続ける二人に頭が痛くなってきた。いつもの奴じゃない、普通の頭痛な……。
拙作をお読みいただきありがとうございました^^




