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SideB テンプレ嫌いの組織ども11

 うーん、もはや遊歩道というかただの歩ける道ではなかろうか。アスファルトの舗装なんてものはなく、道を示す柵なんてものもない。ただ道状にそこだけ草木が枯れ土が見えているだけだ。


「じゅ、十字さん。危ないですから……離れちゃ嫌ですよ」


 俺の腕に抱きつくように身を寄せ、ときたま聞こえるふくろうの鳴き声に毎度びくりと体を震わせる幼女……のような女性、有栖。なんか想像はできたけどこういった暗い森の中には慣れておらず苦手なようだな。


「お前、怖いなら無理についてこなくてもよかったんじゃないか?」

「そ、そういうわけにはいきませんよ! この世界じゃ私だって希源種オリジンワンというモンスターを倒す勇者パーティの一員みたいなものですから」

「そのパーティには勝手に俺を含んでいないだろうな?」

「わ、我がパーティは皆様からの慈愛と善意と無償の精神により支えられています……括弧、同意の精神は後でも可、括弧閉じる」

「最後に回したらダメな精神を最後に持ってくるなよ……むしろそれが最初だろ」

「あ、見て下さい、小屋がありますよ」


 やれやれといいたいが、それよりも"あれ"か。有栖が指をさす先には元からなかったであろうとわかるぼろぼろな木の小屋。物置にしては少し大きいし、かといって人が住んでるとは思えないほどにもう長いこと使われていない様だ。だが、空調がてら取り付けられている窓からは火の光らしきものが見える。


「あれは……まあどう見ても根城だよなぁ、トライドの」

「ああ、そう見て間違いないだろう」


 俺よりも前で小屋を眺める響と印野さん。そこに俺となおも腕につかまりっぱなしの有栖が追いつく。


「どうする……とりあえずあの小屋、燃やしておくか」

「いやいやいや、いくら少し開けているとはいえ、あれ燃やしたら周りもまずくないですか?」


 "レッドグレア"とかいう赤い月灯りの影響で絶賛狂化中っぽい印野さんの怖い一言をシャットアウトし、どうしたものかと腕を組んで考える。あー、ここまでおちょくったしもう話し合いでのお帰りくださいは無理だろうしなぁ……。


「じゅ、十字さん! あれ!」


 考えてるときはお静かに、と思ったが目の前の光景にすぐさま思考は停止する。小屋が……燃えている! え? 印野さんなんもしてないよね? 響もなんもしてないよな?


「……摩子、構えろ。来るぞ」

「ああ……わかっている」


 突如燃え出した小屋の中から悠々とした足取りで出てくる小さな少女の姿。その手に握られた双刃剣ダブルソードは炎と影による赤と黒のコントラストに揺れている。


「私を倒そうというやつは本当におかしな奴ばかりいるみたいだな。逃げたと思ったら自身からのこのことこんな場所までやってくる」

「なんのことだ?」


 響"だけ"が疑問に満ちた表情でいる中、響から顔をそらす者が三名。うち一名は俺な?


「敵の戯言に耳を貸すな"ベルーゼ"」

「おい、この世界ではその名で呼ぶな摩子」

「どうせここにはこの世界でいう人族ヒューマンレイスはいない。それよりもほら、受け取れ」


 印野さんの両の手首の周りにもはや見慣れた紋章が現れ、彼女の手を離れるように手を抜けるとそこに現れる武器。片方は俗にいうロングソード。そしてもう片方は……槍? いや、薙刀なぎなた? でも長い柄の先にある刃はずいぶんと大きく、長い。


「"グレイブ"か、助かる」

「ふん、私の"ウェポン・ライト"に出せない武器などない」


 燃え盛る炎を背に、トライドはフードをめくり、ゆっくりと顔を上げた。その瞳は今の印野さんに負けず劣らずな好戦的な光を放っている。


「ふふ、わかるぞ。お前たち二人もまたそこの聖女とその取り巻き同様"元の世界"からきたのだろう。この世界の奴らと雰囲気が違う。戦い慣れしている」

「この世界はセブンスフォードと違い争いのない世界だ。俺たちとは違う世界で生きる人族ヒューマンレイスにお前の常識を求めるな。それに、人族ヒューマンレイス以外の種族がこの世界では存在しない。だから、俺たちが元の世界から来たというのは当たり前だ」

「もうどうだっていい。さっさとやろう、希源種オリジンワン


 今にも開戦間近な雰囲気に思わずごくりと息をのむ。だが、そんな俺をつんつんとつつく小さな指。


「いいんですか十字さん? せっかく準備したのにあの三つの証」

「え? あ、いっけね。そうだったな。おい! トライド!」


 俺はポケットをまさぐり、盾の紋章と懐中時計を取り出す。それをみたトゥーレの表情がぴくりとなったのを俺は見逃さない。ふっふっふ、あれ明らかに動揺してるだろ。


「さあ、戒律等兵プライア、そして門番重兵ガドナーの紋章だ。それと……」

「これは巡回騎兵クルーラーの証。私の十字架ロザリオです!」


 有栖が両手で十字架をトライドに向け突き出す。はは、なんだか除霊中の修道女シスターっぽいぞ。


 俺と有栖はこれでどうだとトライドを睨む。そんな俺たちを見てか、トライドは手にした双刃剣ダブルソードをゆっくりと地面に突き刺す。お? 観念したか?


「はは、まさかこの世界であの姿になれるとはな……」


 ん? 唐突に湧く嫌な予感。あー、いつもの変身を始めた模様。ぐにゃりと剣を手にした腕を中心に体が歪み始め、一瞬三つ足になったかと思うと……あれ? ずっとそのまま三つ足? なんか黒い外殻みたいな黒い鎧までまとっちゃって過去一番凶悪な姿なんですけど? あ、前に見た触れると痛いじゃすまされない尻尾もご健在のようですね。


「おい有栖。なんか敵が真の姿とか言い出しそうなやっべぇのになったんだが」

「ええ……私もそう思います」

「絵芽……なんであんな敵さんの強化グッズみたいなもん俺に渡したんだ?」


 響と印野さんがどこか冷ややかな目で俺と有栖の方をちらちらと見ている気がする。ほんと戦いに意気込んでたとこ邪魔してごめんてば。


「ふふ、ちょうど"私の体"もあの燃え盛る小屋の中だ。本当であれば元の姿で相手をしてやりたいところだが、それではあの男の行為を無駄にしてしまう」

「何を言っている? あの男とは誰だ? 仲間がいるのか?」


 響の追求にトライドは兜の中から小さな笑い声が漏れる。


「なんでもない。そうだな、この世界では、いや、この世界でも私は異質。この世界での私の本来の姿はこの姿……この化け物じみた姿でいい。さあ、私はもう不死身ではない……殺せるものなら殺して見せろ、お前たち!」


 その台詞と同時にトライドは足を振り上げ、勢いよく地面を踏みしめる。それと同時に足が歪み、極大剣グレートソードを手にした腕へと変わる。そして失った足を補うかのように元あった腕の片方がぐにゃりと歪み、足へと変わる。もうなんかなんでもありだな希源種オリジンワン様は。


「いいのか? 正直に不死身じゃないなんて言ってしまって? いまさら容赦はしないぞ?」

「警戒しろ摩子。嘘かもしれんぞ」

「ふふふ、あはは! 不死など不要! 私は、私はただ化け物としてお前たちと戦い……死んでしまいたいのさ」


 極大剣グレートソードを軽々と振り上げ、印野さんと響の中間目掛け振り下ろす。それを避ける形で二人は逆方向に飛び、着地と同時にトライド目掛け斬り込んでいく。


 こうしちゃいられないな。俺はすっと腰に手を伸ばし、そのままその手を挙げ、ぽんと自身の頭を小突く。そうだな、そろそろ学習しよう。まーた丸腰じゃねぇか俺。


「どうかしましたか? 十字さん」

「いやな、戦いが始まったみたいなんだがまた丸腰なんだよな」

「ああ、そういえば十字さんこの世界じゃウェポン・ライトは使えないんですね」

「え? もしかして元の世界だと使えたの?」

「はい、十字さんの"アクセス"は各種族の術式を1つずつ使えてました。その中でも天魔族ダークレイスの印章術式ではウェポン・ライトを使ってましたね」

「くそう……今だとそのアクセスとやらの劣化版で"トライアル"だっけか? くそっ、"ライトライト"じゃただ線を具現化させるだけだし……いや、待てよ」


 はじめて印野さんが公園でライトライトを使ったとき何と言っていた? たしか描いた線を前に俺が触ってもびくともしなくて驚いてるときに浮かべた笑み……は可愛いのはわかったから、そうじゃなくて。あのとき印野さんは確か線を"動かない"ように描いたと言った。


「もしかして……」


 俺はすっと目を閉じ、頭の中で武器を思い描く。あー、剣は今の俺じゃうまくイメージできないし、ここは……。


「レッツお絵かきタイムだ」


 俺は指を立てて意気揚々と"ライトライト"で絵を描き始める。なかなかうまく描けないな。こう、指をぐるぐると回して、持つところをしっかり描いて棒状にだな。


「何してるんです?」

「ふっふっふ、ウェポンライトが使えなくても武器は生み出せる……はず!」


 指を動かすのを止め、大きく深呼吸。さあ、俺のイメージ通りいくかこれ?


「頼むぞ……そぉいっ!」


 俺は線を描き続けていた指先の力を解除するよう念じる。そしてそれと同時に俺の描いた絵は……おおっ! うまいこと成功したようだ。


 俺の前にコロンと落ちたライトライトで書いた"バールのようなもの"。そう、その場から動かない線ではなく、単に自由に動かせる具現化した線をイメージしたのだ。俺は描いた武器を手にすっとトライドの方にその切っ先……ではなく先っちょを向ける。


「……なんで描くなら剣じゃないんですか? というかなんですそのバールみたいなものは」

「いや、俺この世界じゃ剣なんて使ったこともないし。どうせなら身近で武器になりやすそうにイメージできるものをな?」

「それでももっと他に何かなかったんですか……」

「は、初めて描いたんだから大目に見てくれ。それよりこの武器、強度はどのくらいかな。あと、どんぐらい持続して使えるかだな」


 以前トライドの斬撃を防いだ際に描いた線。正直描いたのを忘れていたがそれでもその後怒り狂った管理人さんが嬉しそうに絵芽と帰っていったのを見送ったあとも見たら残っていたし、10分間ぐらいは問題はなさそうだ。いや、あの後俺が線に向かって消えろ~消えろ~と念じたら消えただけで持続自体はもっと行けたはず。


「とりあえず10分は使えそうだな。それに今日はまだ天恵ブレージングもマックスの三回分残ってる。30分はいけるんじゃなかろうか」

「そうですね……でも十字さん、一応聞きますが武器はあっても戦えるんですか?」

「え? あ……あー……とりあえず自衛用に出しました? 的な?」

「戦えそうにないですね……ほらほら、近づくと危ないですし離れて見ていましょうね」


 そんながっかり・呆れた・嘆かわしいの三拍子が揃った表情で見ないで下さい。というか、俺よりもなんか戦う力がありそうだっただろうお前。


 はぁ……いまさらながら己の無力さにちょっとへこむ。だが……それでも無力とは戦う力がないだけで、戦いにおいて何もできないというわけではない。


「まあ、できることぐらいするさ……」

「え? あ、あぶないですよ十字さん」

「安心しろ、危ないことはしたくないし、しないし、したくない」

「二回したくないって言ってますよ」

「大事なことだからな。それよりも、お前もちょっと手を貸せ」

「はい?」


 目の前でなおもトライドと戦っている響と印野さん。結構隙をついて攻撃が入っているように見えるが、やはりトライドにダメージが入っているようには見えない。それに気づいたのか二人もどこか様子を見るように攻撃の頻度が落ちてきている。


「あいつは不死身ではなくなったといった。思うにそれ自体は嘘ではない気がする。あいつはそんなちゃちな嘘や策をろうする様なタイプに思えないんだ」

「で、でもなんだか依然としてダメージが入っているようには見えませんよ、トライドは」

「ああ、だから相手が違うんだろう」

「相手?」

「そうだ、あれはあいつであってあいつじゃない。おそらく、管理人さんが言ってた本体ってやつがあるんだ」

「ふむふむ……」

「だから……あいつがいたあの小屋、あそこを探るぞ。幸いトライドはいま印野さんと響との戦いに夢中だ。俺たちが戦えないからと言って何もしないってのはまずいだろ。だから、できることをするぞ」

「は、はい!」


 二人して身を隠すようにしゃがんだまままずは茂みのほうに行こうと目線で行く先を合図する。かくして、俺と有栖の人知れない壮大な作戦が始まった。


「ふふ、せっかく武器を描いたようだが、お前はかかってこないのか? 門番重兵ガドナーの剣士よ」

「あ、お構いなく」


 はい、二秒でばれました。有栖さん、ほんとお願いだからその三拍子そろった顔はやめて下さーい。

拙作をお読みいただきありがとうございました^^

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