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SideB レイド戦の礼儀って大事だと思います23

 この世界が異変を隠すのに躍起になっているというのはわかる。だがまさかこんな結末で事実が隠蔽されるとは思わなかった。


「浦木って先生もまたクロエラの被害者……と見るべきかどうか悩ましいところだな」


 あらたに食堂に置かれた大型のテレビに流れるニュース。その内容は場にいた全員に衝撃を与えただろう。


『こちら事件のあった浦木容疑者の住んでいたマンションの前です! えー……現場は依然として騒然としており、今もなお警戒線のテープが至る所に張り巡らされております。そしてマンションの入り口前にはこの度亡くなられた"佐々木《ささき》伸二《しんじ》"さんのものと思われる血痕がなお、生々しく残っているのが確認できます……』


「どうなんでしょう……彼女がいたことがこの世界に怨嗟の顕現体ともいえるクロエラを呼び寄せた……とも思えますね」


 神妙な面持ちでテレビを見つめる有栖。そうだな……そのシリアスな表情のまま手にしたおにぎりをもしゃもしゃまた小動物みたいに食べるのやめた方がかっこよく決まってると思うぞ?


「そもそもこの世界は歪《いびつ》。"奴"の願望を歪めた形で現実とした世界なのだろう。希源種《オリジンワン》を生み出すために改変されるためだけの……」

「うひひっ、それ以上"シーア姉様"のことを悪く言うなよ"リーガー"?」

「別に悪く言ったつもりはないが……いや、そうだな……謝罪しよう」

「うひひひひっ! お前の素直さに感謝だ! 私が男だったら惚れてるぜ」

「なんで女性のまま惚れてやらないんだよ」

「あいにく私の攻略対象は異性にいない! でも生まれ変わったらBL路線も攻略したいからな!」

「生まれ変わってもまっとうになる予定無いのなお前……」


 F子の冗談を理解できない力也はげんなりとした表情……いや、若干引いたように少し椅子をF子から遠ざけている。まあ珍しく朝飯の時間に参加したF子の横に座ったのが運の尽きだ。そんな恨めしそうな目で見ても席変わらないからな力也?


「結局は痴情のもつれ……クロエラの宿主であった浦木が佐々木さんを自宅のマンションの屋上に呼び寄せ鋭利な刃物でめった刺し。その後遺体を屋上から投棄したと……遺書が残されていたとはいえ、まあ妥当な改変と隠蔽の結末ですわね。いえ、そもそも遺書そのものが改変されて生み出された……」


トントンッ


 あ、なんか久々に聞いたテーブルを指で小突く音。そして顔を隠すように立てられたホワイトボード。


『浦木が佐々木に恋慕を抱いていた……その思いまで改変と言ってやるな。クロエラの犠牲者かどうかは知らんが、やつもまた歪んだ権力者のパワハラとやらで心神喪失に陥っていたんだろう。そんなとき、職場で悩みを聞いてくれた佐々木に惹かれたのだろう』

「……失言でしたわね。確かに人の思いまで改変されて生まれたというのは無粋でしたわね。ごめんなさい……」

「あ、いや……謝って欲しいわけじゃ……その……ごめんなさい」


 なんか会話をしては謝るってのがこの場では流行ってるのか? 朝食がまずくなるからしんみりするのはやめてほしいんだけど? あと相変わらずホワイトボードに文字書くスピード早くない? 摩子さん?


 あらためてこの食堂にいる俺以外の五人を見回す。本日仕事が休みで珍しくゆっくりとした朝を迎えた力也。んでおそらくあの戦闘から帰った後「イベクエが!」と叫んでいたことから察するに、そのまま徹夜して寝る前の夜食代わりに朝食の場に来たF子。


 同じく今日は仕事が休みで子供たちが朝のアニメに夢中なのをいいことにこうして食堂でのびのびとしている零華。そして昨日の強気が嘘のように消えた謙虚さと奥ゆかしさと……いや、単に超が3文字付くほど内気な摩子さん。


 そしてもう一人、俺の横に座る……。


「あ、十字さん。私梅干しのおにぎり苦手なので鮭おにぎりと変えてもらえないです?」

「お前はもう少しシリアスなのかのんきなのかのメリハリをだな?」

「え!? なな、なんです急に!?」


 おい、驚いた表情したままそっと俺の鮭おにぎりに手を伸ばすな。それ最後にとっておいた俺のお気に入りだぞ?


「ニュースは少しセンセーショナルに表現しているが……それでも浦木が抱いた感情……怨嗟は良くも悪くもあいつが言った通りなんだろうよ」


"ありがとう。お前たちのせいでこの男は死んだ。お前たちのおかげで私は生まれることができた"


 テレビに映るマンションでクロエラから飛鳥ちゃんのスマホに送られたメッセージの一文が頭をよぎる。最初奴が言う"お前たち"とはクロエラを追っていた俺たちのことを指しているのかと思ったが……クロエラを生み出す怨嗟を浦木に抱かせたのは俺たちではなく佐々木を浦木から奪う一因となった"生徒たち"のことだったのだろう。


「十字さんが言っていた通り……浦木は画家志望でしたのね。でもその夢は狭く細い道……彼女はその道を進み続けることができなかった。そして少しでも……夢の欠片だけでもと就いたデザインの会社で……」


トントンッ


『武藤とやらが殺されたのは自業自得。だが生徒にまで手を出すのは筋違いだろう。それに生徒に親身に相談に乗っていた佐々木にもな』


 そうだよな……佐々木先生とやらは教師として非常に優れた素質を持っていたんだ。だが皮肉にも生徒への熱心な対応が浦木にとっては嫉妬の火種となったのだろう。俺の予想だが……佐々木は浦木に対しても親身に悩みなどを聞いてやっていたのではないだろうか。


「導くべき生徒を恨んだまま教壇に立つ……どんな心境だったんだろうな、浦木は」


ガラララッ


 食堂の引き戸が開く音が聞こえた。そして矢継ぎ早に開いた口。


「アニメ終わったぞ! れーか!」

「終わったぞ!」

「終わった!」


 絵芽の台詞を復唱するように続く零華んところのちびっ子5人集。そうだな、しんみりとした雰囲気はごめんだがやかましいのも優雅な朝食時にはご遠慮したい。


「あらあら、それじゃあ朝ごはん食べましょうねあなたたちも」

「おにぎりかっ! 待っていたぞこの時を!」


 うん、絵芽が群を抜いてやかましい。大きくても小さくてもそこは変わらないのな。


「待っていたのは私だよ? 絵芽? 朝ごはん出来たっていうのにテレビにかじりつくように見入ってて」


 子供たちのあとから音もなく静かに入ってきた管理人さんこと志亜さん。オッケー、絵芽もいるし優しい管理人さんモードだ。小さくても大きくても避雷針としての役割は健在だな、ナイスだぞ。


「零華ぁ、あたしたちどこに座ればいいの?」

「僕アニメが始まる前からずっとずっとおなかすいてたんだよ。でも皆がテレビ見るっていうから……」

「風太は相変わらずひとのせーにするのな」


 ええっと、待ちきれない様子で空いた椅子によじ登ろうとしてる女の子が炎華《えんか》ちゃん。んでなよっとした感じのが風太《ふうた》君。そのよこで飄々としているのが雷《らい》君だよな。んで物静かに見守っているニコニコした女の子が水華《すいか》ちゃん。興味がなさそう……というか眠そうにボケーっとしてるのが大地《だいち》君か。特徴がそれぞれあって実に覚えやすい。


「もうしばらく待ってなさいな。後からきて先にいた人を追い出すのはマナー違反ですわよ?」

「うひひっ! ちびっ子の相手は瞳ちゃんムリポ! 後は任せたぞ十字軍団」

「おい、なんか宗教戦争待ったなしな呼称止めろ」

「ふっ……幼きものを待たせてこの席にとどまるのも気が引ける。我も退散するとしよう」

「あ……私も……」


 子供たちが来て早々に明け渡すように席を離れた力也やF子、摩子さんに零華はぺこぺこと頭を下げその背を見送る。ははっ、こうして見てると零華もいい母親に見えるんだけどな……とか思ってるのがばれたか? 睨むのやめて? 


「十字さん、私たちも早く行きます?」

「おう、そうだな。俺は早く俺の部屋に俺だけで行く。そっちもそっちでよろしくぼっちでそっちの部屋に行っとけ」

「……なんですかそのくどいくらいの予防線?」


 このままナチュラルに部屋に入れると思うなよ? 俺もバイトのシフト交代してもらったから今日はもう休みなんだ。飯食ったら俺はもう一回寝るぞ? 至福の本気の二度寝だぞ?


「あら、十字さんはもう部屋に戻られるんですか?」


 あ、もたもたしてたら逃げ遅れた感。力也が去って空いた席に座り、くすりとほほ笑み頬杖をつく志亜さん。可愛さと怖さが混在しててなんともエキサイティングだけど布団に帰りたい俺には不要な感情。要するに帰りたい。


「あー……昨晩は夜遅くまで"出歩いてた"から眠いんですよ。なので有栖を置いておくのでお子様たち共々あちこちいかないよう監視よろしくお願いします」

「なんだかちびっ子たちと同格って言ってます……?」

「あら、また有栖ったら十字さんの部屋にお邪魔しようと? 全く、いくら居心地がいいからって少しは遠慮しないとだめですよ」

「あれ? なんだか志亜さんまで大人な対応? 私子供っぽいひとになんかなってません?」


 俺と志亜さんが無言のままにっこりとほほ笑む。有栖君もまた一筋の冷や汗を垂らしながら慌てて作り笑いを浮かべる。


「それで? 皆さんが今こうして無事に帰られたということはクロエラ……とやらをやつけたってことですね」


 あ、俺も冷や汗が浮かぶのを感じる。有栖もまさかの話題にぎょっとした表情だ。


「もう一人の黒幕……ふふっ、本当に"顔が黒い"方にも会えましたか?」


 もう完全に分かって聞いてるだろこの人……ラパンがクロエラとセットみたいなもんだってなんか知ってる節があったからな。


「生憎俺だけ初めましてじゃなく二回目ましてだったけどな」

「あ、そういえばそうでしたね。何やら地下洞みたいなとこで一戦交えてるんでしたよね、十字さんは」

「地下洞……?」


 有栖の台詞にそれまでにこにこしていた志亜さんの目が細められる。何か地下洞ってワードが気になるのか?


「その地下洞とやらには何かあったんですか、十字さん?」

「え、ええっと……まあ地下洞っていっても道路が急に陥没してやたら深い穴……というかもう谷底から落とされたみたいなもんで。いまさらだけどよく生きてたな俺」

「ああ、そういえば十字さんが壊した壁の奥の空洞みたいなところで女性の亡骸があったとか言ってましたよね。今思えばその女性は誰だったんでしょうか?」


 有栖の問いに突如あの時の記憶が蘇る。どっと汗が噴き出るのを感じる。そうだよ、どうして思い出せなかったんだよ俺。損傷がひどく、おまけに一瞬しかその顔は見えなかった。だが……あれは間違いなく"クロエラ"だった。


「どういうことだ……」

「ふふっ、きっとその女性は"クロエラ"だったんでしょうね」

「え? そうなんですか? というか志亜さんだけなんだかわかっているみたいでずるいんですけど! 私にも説明してくださいよ! そもそもクロエラに関してはあまりあの手記にも書かれていませんでしたし、もしかして何かあのときの旅でやらかしてます!?」

「さあ……なんのことかな。私はただ十字さんのお話を聞けて楽しいなって。ねえ、十字さん?」

「え……あ、ああ。というか……あの時の女性がクロエラだとしたら……あの空間の発生源であるラパンは"クロエラの死"を見届けたということなのか?」


 俺の問いとも独り言とも取れる声を皮切りに志亜さんはすっと席を立ち、零華の子供たちと一緒に朝食を食べる絵芽の方へと視線を向ける。


 そうだ……隔離された空間である通称"ボス部屋"は今回のクロエラとの戦闘ではっきりとわかった。あの空間は希源種《オリジンワン》の記憶の断片や感情を現しているのだ。実際にクロエラはあの空間で会ってすぐに"ようこそヴィルギラの村へ"と言っていた。


「つまり……"クロエラはラパンよりも先に亡くなっていた"……ということか? だとしたら俺たちが対峙していたクロエラは……」

「ありがとう。お前のおかげで"私が出した答え"に確信が持てたぞ」


 困惑していた俺の背後を通り絵芽のもとへ向かい、何食わぬ顔で絵芽や子供たちの輪に入っていった志亜さん。だが……ぽつりと残すように響いたあの声は間違いなく"シーア"のものだった。

拙作をお読みいただきありがとうございました^^

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